第2話 ロレンツィオは、王太子を殺し続ける

「聖女様。ロレンツィオ殿についての情報が。」

 彼は、聖女トレナと結ばれても、ロレンツィオに恋の橋渡しをしてもらったのだが、公私ともに、トレナのことを「聖女」と呼んでいた。

「人のいない時には、トレナと呼んだ。」

といつも怒った、それでいて可愛い膨れっ顔をする彼女だったが、今はそうではなかった。彼女の表情は何かを覚悟するという緊張感が張り詰めたものだった。ロレンツィオが死んだという、いや、殺されたという知らせだと覚悟した。

"どうして、あの時私は真実を語って・・・あの方を引き留めなかったの?"離れゆく船の船上から、彼女達に手をふる彼の姿を思い出して、彼女の真象は張り裂けるようだった。あれは無事に彼を逃がすためのものではなく、海賊王アリーに彼を殺すことが依頼され、海の真っただ中で彼は海賊たちに殺され、海に投げ落とされることになっていたのである。

「いいえ、聖女様、違うのです。」

 若い司祭、彼女の恋人である、は彼女の表情を見て取って言った。

「海賊王アリーとその手下達が全滅したという知らせです。」

 一代にして、僅か30半ばで海賊王と言われるまでに成り上がった、ある意味英傑であり、涼やかな美男子でもあるアリーは、ほとんどの部下を殺され、血みどろ、返り血である、のロレンツィオに引き立てられ、ロープを首に巻かれ、マストにつるされて悶絶死したというのである。

「こ、このアリーが、アリー様がこんなことになるとは・・・。」

と悔しがり、

「これからおまえがやろうとしていることを、無しにしたいんでな。それに、これが戦いの常という奴だよ、海賊王様。」

とロレンツィオは冷たく言ったという。

 そのことを、ロレンツィオに助けられた、アリーの船に繋がれていた奴隷達がそれらの船で帰りつき、伝えた情報だという。そして彼らから、ロレンツィオからの伝言も送られてきたという。

「最初から知っていたよ。やむを得ないことさ。気にするな、君達を恨みはしないよ。まあ、少しでも悪いと思ったら、イチャイチャラブラブして幸せになることだ。それが、君達の私への恩返しだよ。」

というものであった。

 魔王との戦いでは、彼は自分達を助け、功績を自分達のものにしてくれた上、あの日気が付くと、全裸で縛られ、やはり全裸の王太子に見下ろされていた。凌辱されると思った瞬間、王太子の首はなくなっていた。ロレンツィオが助けてくれたのだ。どうしようもない屑の王太子で、国王以下死んでくれてホッとしてというのが事実ではあるが、王太子殺しは赦す訳にはいかなかった。

 しかし、送った捕縛隊は全て彼に赤子のようにあしらわれ、国外追放ということで交渉し、アリーの船で出航することで終わりにするということにしたのである。まあ、騙したのである。トレナ達のあずかり知らぬところで決められ、彼女は最後まで彼の助命を嘆願し続けたが、最後はそれを見守るしかない状態になってしまったのだ。

「ロレンツィオ殿・・・私は・・・私は・・・。」

とトレナは泣き続けるしかなかった。

"今日は、聖女様の体調が悪くなったということで、聖女様のお勤めは取りやめにしよう。"司祭は、そう思って、彼女をやさしく抱きしめるしかなかった。



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