第2話 ねえ神さま?
ねえ神さま?
僕は異世界なんてどうでもいいです。別にチートスキルも要りませんし、ハーレムだって興味ないです。
でも。
もし、人生やり直せるのなら、せめて普通の人生を送らせてください。
お願いします……。
……何だろう? 誰かそばにいるみたいな。
「すんっ……ぐす……」
僕の死に悲しむような人なんて居たっけかな? 幼い頃に男と蒸発した母親とか? 例えそうだとしても、いまさら何とも思わないが。
人の愛なんて……。
「うわああああああぁぁ……」
泣いてる……。さすがに僕の死なんぞに、それほど悲しむ人なんていないだろう? いったい何が起こってる?
僕の意識が徐々に現実のそれとリンクしてゆく。手足の末梢神経の感覚。ここはベッドだろうか、消毒液の匂い。右足に何か違和感がある。何か硬いもので固定されているようだ。そして頭もズキズキする。
単純に考えると僕は病院に居ると言うことだろう。
つまり死ねなかった。
死ねなかったのか……、くそう。
途端に自分の人生のフラッシュバックが脳内を過ぎり、とても悲しくなった。目頭が熱くなり頬を熱い涙がつたう。
「死にたかった……」
「……え?」
「死にたかったんだ、僕は……」
「うそ!? 生きててくれた……?」
……ええっと、どちらさん?
おもむろに目を開けると、そこには見ず知らずの女性の姿があった。目は腫れぼったくずっと泣いていた、と言うことなのだろうか。顔は泣き崩れていてクチャクチャだが、育ちの良い顔立ちをしている。
「妻夫木さん! しっかりしてください! 死にたいとか言わないでください!」
「えっと……どちらさんですか?」
「私、あなたに助けられた
「いいです……僕なんかにそんなに恩を感じなくてもかまいませんよ。僕はあの時、電車に飛び込んで死ぬ予定だったんですから……」
「そ、そんな……そんな悲しい事言わないでくださいよおおおおうああああん!!」
「ちょちょちょっ! 看護師さん来ますから!」
と思った矢先、外を歩いていた看護師と目が合った。看護師は僕の視線にハッとして部屋に入って来た。
「妻夫木さん! 意識が戻ったんですね!! 頭部を少し打っていたんで意識の回復を待っておりました。後で検査しますね?」
「……はい」
生きたいと思わないとこんなにも治療が無意味に思える。誰が得する治療なんだろうか? 退院したところで僕には生きる気力はない。当然そんな事は医者には話さないが、また泥沼へ足を踏み入れる様で
「はあ……」
「妻夫木さん!」
「……僕のことはいいですから、どうかお引き取りください」
「妻夫木さん!!」
「……何ですか?」
「私、あなたに助けられたのに、あなたに死なれたら悲しいです! ここを退院しても死なないでください!」
なんでこんなに絡んでくるんだろう? 僕は疫病神みたいなものだ。一緒にいるだけで……そう、この事故だってそうだ。彼女は僕の不幸に巻き込まれたと言えるだろう。
きっとここで死ねなかったのも、僕の不幸はまだ続くと言うことなのだ。本当にやってられない。
とにかくお引き取り願おう。彼女が気の毒でならない。
「もう、僕にかまわないでください。僕の人生は僕のものです。あなたを巻き込むわけにはいかない」
「では約束してくれますか? もう二度と死にたいなんて言わないと!」
……しつこいな。僕はたいていの事では怒らない。しかし内心イラッとはしているものだ。どうしたら彼女は引き下がってくれるだろうか?
「では鐙さんでしたっけ?」
「はい」
「僕と結婚してくれますか?」
こんな死にたがりの得体の知れない男と結婚なんてする奴はいないだろう。おまけに疫病神ときたもんだ。何一つ得することはないのだから、さあ、断るのだろう? 早く返事をしたらどうだ?
「私なんかで良いんですか?」
「へ?」
いや、僕なんかで良いのか聴いてるんだが?
「私、もう何回もお見合いしてるんですが、ことごとく断られているんです」
「……はい?」
「よく言われるのが『重たい』そうで、言ってみれば構ってちゃんと言いますか、寂しがり屋なところがあって、ずーっと一緒にいたいんです私。あのお……『メンヘラ女』ってなんですか?」
「精神的に病んでそうな女性? みたいな感じかな?」
なるほど……だからこんなところでいつまでも燻っているのか。
「私って病んでるんですかね?」
「……知りませんが、僕なんかよりずっと健全な気がしますがね?」
「え、じ、じゃあ、私と結婚してくれるんですか!?」
「えっ……と? まあ、言い出しっぺは私です。とりあえずお付き合いから始めましょうか?」
「え、結婚してくれないんですか?」
なるほど、さすがです。
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