終わったと思っていた人生がつま先から始まった件
かごのぼっち
第1話 さよなら人生
人生なんて良いことない。
腐ってる? そうかも知れない。知れないけど、愚痴らせてくれたって良いだろう?
僕が小さな頃、母親が他の男と逃げた。もともと酒癖や女癖の悪いオヤジに愛想を尽かしたのが原因だろう。オヤジは酒の量が増えて俺に当たり散らし、家庭内暴力の矛先は全て僕に向けられた。
ある日、僕がオヤジの暴力で気を失ったのをキッカケに、病院に運ばれ児童相談所へと引き取られた。
児童相談所は僕の親戚を片っ端から当たってくれたが、どうにも引き取り手がなく、僕は孤児院に行くことになった。施設の中でオヤジが飲酒運転で亡くなったことを知らされたが、何とも思わなかった。
そんな身の上もあり、僕は学校では人間不信で人に馴染めず、やはりひとりぼっちだった。オヤジの暴力に比べれば子供のいじめなんて大したことはない。僕は人に構われたくないので、無視でも何でもいいから構わないでいてくれたら、それで良かった。
不登校で済ませられるならそうしたかも知れないが、大人になったらきっと良いことあるだろうと勉学だけは頑張った。
しかし大学に進学することは叶わなかった。僕は遅ればせながら就職活動を始めたが、高卒では雇ってくれる会社は少ない。
僕はしがないアルバイトを転々としながら、何となく過ごしていたが、大人になってもこの世は世知辛い事に気付いた僕は、この世と決別することを考え始めていた。
人生なんて良いことない。
人生だけじゃない。僕は何故か薄幸体質で昔から運が悪い。きっと疫病神にでも取り憑かれているのだろう。
だってほら、僕が外に出るだけで雨が降る。交差点に立てばいつも赤。鳥の糞がどこからともなく降ってくる。車を買えば次の日には当て逃げされる。たまたま一時停車するのを忘れた時に限り警察に捕まる。
まあ、信心深い方ではないので何の加護もご利益もないのかも知れないが、あまりにも良い事が無さすぎるとは思わないか?
そう言えば誰かが言ってたな? フョードル・ドストエフスキーだっけか? 「人間には幸福のほかに、それとまったく同じだけの不幸がつねに必要である」 その逆も然りと言うものではないだろうか?
まあ、そんな他力本願な方ではない僕は、駅のホームに立っていた。
今日も天気予報は外れて、しとしとと雨が降り始めている。傘は持ってない。電車も遅延しているようだ。いくら待っても来やしない。そのせいもありホームには人が増え続けている。ごった返すホームの最前列に僕はいる。
そろそろおあつらえ向きだろうか?
僕は電車が来るのを待っていた。ホームに人が増えすぎて、白線の外側、つまり僕の前を歩いて移動する人が増えた。その誰もがことごとく僕の足のつま先を踏んでゆく。
痛いよ?
だけどこれからもっと痛い目に遭う僕にとっては些細な事だった。
〜♪
さあ、ベルが鳴った。ホームに電車が来る頃合いだ。ようやくこのクソったれな人生と決別出来るのだと思うと、顔がにやけてきた。
あれ? 僕が自然に笑ったのって産まれて初めてじゃないだろうか?
なんて最期に考えていたその時、僕のつま先に激痛が走った。
「きゃあっ!?」
僕がつま先に激痛を感じた矢先、僕の眼の前で一人の女性がバランスを崩し、線路内に転落した。
「危ない!」
電車は既に減速しながらホームに入って来ている。このまま死んだって予定通りな僕には、怖いものなんて何もなかった。
僕は激痛が伴う足でホームを蹴り、線路内に飛び込んだ。きっとほんの一瞬の出来事だったに違いない。電車の急ブレーキの音がけたたましくホームに鳴り響く。ホームの上ではどよめきや叫び声が飛び交っていた。
さよなら人生。
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