第4話

「おはざいまーす」


 てきとうな挨拶に三々五々の返事が返ってくる。まもなくして、今回の探索の全メンバーが集まる。俺を含めて全部で37名。ここから3~4人のグループに別れて探索していくこととなる。

 渡部さんが前に出てグループのメンバーを発表していく。俺のところのメンバーは、三澄さんと川端さんらしい。それぞれ30前半と20後半くらいの男性である。どちらもセミプロのライセンス持ちだ。このグループのリーダーは年齢的に三澄さんになる。

 しかし、三澄さんか……。苦手というかなんというか。

 グループ分けが終わると、先ほど見かけた女性が前に出てくる。少し癖のある髪を肩にかかるくらいでまとめている。穏やかな光を帯びた丸目をしており、全体的にそう整った顔だちではないが優しげでかわいらしい印象がある。汚れてもいい動きやすそうなTシャツとパンツの格好で、普段着なのだろう。気慣れている印象だ。それなりに活動的な様子も見て取れる。

 やはり新人なのだろう。渡部さんがみんなへ紹介していく。


「え~。新しく、本当に初めてダンジョンに入ることになる。田川さんだ。今日からみんなともチョコチョコ一緒になりますので、よろしくお願いします」

「田川です。初めまして。50も過ぎた年ですが、初めてダンジョンに入ります。なにかと、本当になにかとご迷惑をおかけするかと思いますが、何卒よろしくお願いします」


 やはり50歳過ぎてたか。そのくらいの年齢だと思ったんだよな。小さいとはいえ命のリスクがある分、時給はいいからな。大小ワケありなタイプはそれなりに来るんだよな。


「え~。そうしたら、三澄君のところに入ってもらおうかな。悪いけど、三澄君、今日一日3Fまでで田川さんの研修お願いできる?僕はみんなと5Fまで廻ってくるから」

「わかりました。だいじょうぶです」

「そしたら田川さん。具体的なダイブの仕方は3人に教えてもらって。…だいじょうぶ。3人とも若いけど優秀だから」

「はい。よろしくお願いします」


 おっと。うちのグループに組み込まれましたよ。なんか嫌な予感がしてきましたよ。


「そうしたら、受付の方で人数確認と田川さんの入場申請しよう」


 ダンジョンへの入場と退場の際には人数確認と簡易の持ち物検査が行われる。

 人数確認はバイトの申請時に登録されている人間がいるかどうかの確認で、なりすまし等のチェックも兼ねている。犯罪歴のある人間なんかを入場させないためだ。そのため大人数を一気に入場させられるバイトの申請なんかは1週間前が締め切りだったりする。なお、ライセンス持ちとの少人数でのダイブは即日の受付だけでよくなる。受付だけでチェックできるためだ。

 この時、探索予定時刻も申告せねばならず、遅れたり人数が合わないと捜索隊が出される。当然費用が掛かる。

 持ち物検査は危険物の持ち込みよりもダンジョンアイテムの持ち出しが危険視される。入場時はバッグなどの中身が空だと簡単な確認だけで済む。退場時はまた別の話である。

 さらに全くの新規でダンジョンに入る場合、協会職員さん立会いの下入場することとなる。これは初めてダンジョンに入った時点で、【ステータス】と呼ばれる特殊能力が発現するからである。このステータスの概略の説明が行われるのである。


「ハイ。参加人数、事前申請の数と間違いありません。確認取れました。次はレンタル装備の貸し出しになります」

「ごめんなさい。新人の登録、同時にお願いできますか?」

「かしこまりました。手隙の職員に案内させます」


 自前の装備を持っていない人は、ここで探索リーダーの渡部さんの立会いの下、装備を借りに行く。そこに何故か田川さんの面倒を見るべき三澄さんが、川端さんを伴って付いて行く。

 いや、新人登録、同時にやるって言ってるんだから、グループリーダーは説明の方に回るべきでは?


「風見君、僕ら田川さんの分も装備もらってくるから、先に田川さんとダイブしておいてくれる?君、もう準備できてるだろ」

「あーハイ。ワカリマシタ」


 コイツッ!!さらっと新人の面倒みるの押し付けてきやがった!

 こんなこと許されていいのか!?渡部さん、注意してやってください。そんな思いを込めて渡部さんに視線をやる。バチッと目が合った。


 フイッと逸らされた。


 …………。

 わぁああぁぁあぁぁたぁべぇえぇぇぇぇぇええぇぇ!!!!

 てめぇぇぇぇ、コラァ!!いま、目ぇぇぇ、あっただろうがぁぁああああああ!!!!先輩が後輩に仕事押し付けてんゾ!!注意しろヤ、ゴルァァァァァッッ!!!!

 さては最初から俺に回す気だったな!クソがッ!汚ねぇ!大人は汚ねぇよ!!


「それではこちらへどうぞ。登録を行います」

「あー。じゃ、行きましょうか」

「はい、よろしくお願いします」


 推定40歳前半の職員のおば…お姉さんの後を田川さんと一緒に付いて行く。

 お姉さんは阿部さんと言って、何度もお世話になったことのある受付さんだ。


 …。

 ……。

 …………———。

 ———……これ漫画とかならヒロイン(50歳オーバーor推定40歳前半)登場回だな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る