第3話
キーンコーンカーンコーン!
終礼のチャイムが鳴り、放課後の時間となる。この後は卯の頭ダンジョンへと向かい、アルバイトに励むのである。学校を出る前にダンジョン研究部=D研の部室へと向かう。そこに探索用装備を置いているのだ。当然、武器防具などもある。
なぜ学校にそんな物が置いておけるかというと、D研そのものがダンジョン探索を行う生徒を、援助するための部活だからである。ポイントとしては、個々の学校の裁量で援助しようとしているのではなく、ハッキリ国からの推奨の下、行われている点だ。
国がなぜ学生の探索業を推奨しているかといえば、主に魔石などのダンジョンの産出物に原因がある。ダンジョン産出物は本当に浅い層であっても、化石燃料替わりになるレベルで熱エネルギーを放出したり、撒くだけで植えた作物に合わせて土壌を整え連作障害もなんのそのな肥料が出たりする。深い層ではさらに、魔力を注ぎ反応させるだけで鉄やアルミなどの金属を生み出したり、物質の剛性や弾性などを変化させるエンチャントの触媒になったりもする。一次産業、二次産業においては、現代では欠かせない産出物が特に数多く存在する。
更に失業者や就職困難者においては、セーフティーネットの一つとなっている。
学生そのものについて言えば、どこにでもいる苦学生への救済手段、並びにプロを目指す学生の修練場とアピールの場になっている。アピールというのは、俺のようなノーライセンスの学生の活動が学校単位で評価され、その評価に比例してライセンス持ちの学生は、協調性や教導能力等が評価されることとなる。後、ライセンス持ちは放課後1人でトレーニングがてら、1人で潜りに行くことも多いので単純人装備を学校に持って来れる、置いておけるというのが便利という事情もある。
その事により学生用のダンジョン探索に積極的なコミュニティを、国と学校主導で形成しているのである。
以上の理由から大小様々な非難はあれど、より優秀な代替手段が無いという現実の前に、今日に至るまでどこの学校でも(部員が問題を起こさない限り)存在するポピュラーな部活となっている。
D研の部室にはすでにAとBの2人がおり、後輩にあたる1年生ズと楽しそうに会話をしていた。
「よーっす。2人は今日休み?」
「いや。1年たちと弾井戸公園で少しグレード稼ぎする予定」
「だがまあ、休みと言えば休みみたいなもんだな。そっちはバイトか?」
「そうそう。卯ノ頭」
「そっか。気を付け…るほどじゃないかもしれないけど、油断しない様にな」
「俺の辞書に油断の文字は無い」
「代わりに小賢しいと奸智が、朱塗りと罫線ででかでかと強調されてるもんな」
「B
「そうだな。本当に言うまでもなかったな」
「おい。何で今、わざわざ強調して納得した?」
友人たちと心温まる会話をする。ついでに2人の闇討ち計画が始動する。
それはともかく本来の目的を果たそう。
ガチャガチャ
ゴソゴソ
国から補助金が出ている&危険物が多いだけあって、D研の設備は豪勢、というよりは
「よっ、そっちも卯の頭?」
「まぁな。浅層の下の方まで行って流すつもり」
「マラソン?」
「そう」
マラソンとは目標のポイントまで行って折り返し、帰ってくるまでの道中の敵を倒してくるトレーニングである。
「ほんじゃ、一緒に行きますか」
「おう、ちょいまち」
俺の装備は長杖と外套、Mr.Cは長槍と胸当て、その他諸々を取り出す。
C乃介が装備を取り出すのを待って駅へと向かう。直我山高校の最寄り駅から京淨寺までは電車で一本である。道中、会話に上るのは昼休みの続きとなった。
「お前さん、18になったらライセンス取得すんの?親御さん反対してるみたいだけど」
「一応、セミプロまでは取っとこうかな、と。ないよりはあったほうがいーべ」
「一人、心配する母に配慮しないスタイル。その内、罰が当たりそうだな」
「そんな不条理な」
「自業自得を不条理と読むスタイル」
「リスクマネジメントはちゃんとやってるし。かーちゃんが心配性なだけで、そんな泣かせるようなことしてねーし」
「その発言がもうアウトだろ」
「なんて理不尽な!」
「残念ながら当然を理不尽と読むスタイル」
そんな会話を繰り広げながら電車に揺られていると、ほどなく目的地に到着。卯の頭公園まで連れ立って歩く。北西口に隣接する探索協会の支部の入り口で解散する。
「ほんじゃな」
「おー。中で会ったらよろしくな」
「そっちのバイトの邪魔にならない程度にな」
「挨拶くらいならうるさく言う奴もいねーよ」
Cの者はそのまま入場受付へと向かう。
こっちは探索責任者兼シフトリーダーの渡部さんを見つけたので合流する。もうほとんど集まっている様子で、どうやら後2,3人ってとこらしい。
よく見ると、いつものメンツの中、新人なのだろう、見慣れない女性を発見した。
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