第1話
キーンコーンカーンコーン!
難解きわまる数学の授業が終わった。この俺、風見千鳥の苦渋だけが極まって、記号や数字が目にとまらぬ時間は終わりを告げたのだ。
待ちに待った昼休みの時間である。3限目の終わりにおにぎり食ったがそれはそれ。いそいそと弁当を持っていつもの集合場所へと向かう。部室棟の一角にあるこの部屋は、ダンジョン研究部の部室である。中に入ると交流目的のためそれなりに座席数がある。
その中によくつるんでいる同じ第2学年の3人はすでに集まっていた。
「よ~~~っす」
てきとうな挨拶ひとつかけて着席。同じように3人もよっすだの、うっすだの言ってくる。
コンビニで買っておいたおにぎりやパンを広げる。すると、途端に文句を言ってくるやつがいる。
「炭水化物ばっかじゃん。もう少し栄養バランス考えろよ。お前ダンジョン探索のバイトやってんだろうに。体は資本だろ。」
「ごめんかーちゃん。気を付けるよ。」
「気を付ける気ない奴の返答じゃん!」
今、注意してきたこいつの名は柄入有仁(からいりありひさ)。通称友人A。ステレオタイプのイケメン優等生だ。いつかビンタしてやりたいな、と憎たらしく思う程度にはできたやつである。
「そうだぞ。きちんと肉を食え。肉を」
「いやお前も肉ばっか食ってないで、野菜食え。野菜を」
便乗してツッコもうとして、俺と同じようにツッコみ喰らってるのが日衣雄臣(ひごろもたけおみ)。通称友人B。10人中20人くらいが脳筋体育会系だなと思うやつである。
「おふたりさん。毎度かーちゃんに同じような注意させてちゃだめでしょう」
「かーちゃん言うなし」
面白がりながら声をかけてきたこいつの名は詩亥佑人(うたいゆうと)。通称友人C。柄入程ではないがイケメンで、ギャルゲ(あるいは美少女ゲ)の友人キャラに登場しそうなくらいチャラいやつである。
「B男もD男もダンジョ入るんだから、体調管理はどうしたって大事だろ。もうちょっと食生活に気を使えよ。」
おっしゃる通りではあるが、正直めんどくさい。本物のかーちゃんは女手一つで、弁当頼めんしな。コンビニのサラダは常温保管できんし。朝買ってきて昼まで袋ん中もな。朝晩自分で作って野菜中心、これでいいだろ。
「オレはともかくD助は日頃から家で飯作ってんだろ?弁当くらい作ってくればいいんじゃないか?」
「は????オマエハナニヲイッテンダ?自分のお袋さんにそれ言ってみ?ぶっ飛ばされるから」
こいつは友人Bのくせに何を宣(のたま)ってんだ。Bのくせに。
「朝晩の残りで弁当作りました」とか料理上手いうえに計画性も高い奴の言い様だから。家事も出来なくはない程度の男子高校生に、一体全体何を期待しているのか。そういう事言うやつは自分でやってみりゃあいい。マジで。
ちなみにD男、D助というのは、俺のことである。俺以外の3人の下の名前が「ゆうじん」と読めて、名字がABCと読めることに気付いたやつが、A男B男D男と呼びだしたのが始まりである。
ちなみのちなみに言いだしっぺのそいつは、千鳥⇒ドリー⇒D男と呼ばれることとなった。ABC男から反撃を喰らった形である。気に入らんかったらしい。まったく器の小さい連中である。3対1は卑怯だと思わんのか。
それからしばらくは飯を食うことに集中していたが、ゴールデンウィークが翌々日から始まることもあり、次第にお互いの予定の確認とすり合わせをしていかねばと話題提供。
「もうすぐゴールデンウィークだべ。チミら、どんな予定よ?」
「うちは後半に遠征入ってる。最初の2日くらいしか付き合えないな」
「俺のほうは今のところ特に予定ないな。いくらでもとはいかんが、ある程度自由に潜れるぞ」
「俺のところはA男とは逆に、最初はクラメンと潜ることになってて後はフリー」
この3人はそれぞれ別のクランに入っている。学校が同じなことと、なるたけいろんなパーティと数多くダンジョンに潜ったほうがいい経験になるという事で、予定が合えば一緒に潜ってもらっている。
潜ってもらっているというのは、実はワタクシめ、親の許可が貰えずライセンスを取れていないため、1人ではダンジョンに入れないのでございます。1人でダンジョンに入場するためには、ダンジョンライセンスと呼ばれる資格というか身分証がいる。
クランと呼ばれる探索者の互助組織も、小さい所から大きなところまで様々な所が乱立している。所属すれば当然、ダンジョンに潜れる。但し、これもライセンスや未成年の場合は保護者の許可が必要となる。
バイトで潜れなくはないが、バイトというか企業の場合、1週間前までに探索者協会=探協に申請しなきゃならない。メンバーに穴が開くことはあるが、どの募集先でも欠員が出ると最悪ダンジョンに入れなくなるため、急な欠席は即業界(・・)ブラックメンバー入りの世界である。そのためほぼ急な欠員は出ない。
ゴールデンウィークは普段は入らない人間もバイトの応募してくるため、倍率が高く人気チケット並みの入札具合で即行応募が締め切られた。ここまでの話の流れで分かる通り、勿論俺は応募に漏れた側になる。
そんなダンジョンは入れない族に対して、この3人は全員セミプロのライセンス持ちのクラン人のため、パーティを組めば1人につき最大3人まで、その場でワタクシのような木っ端の素人を連れていけるのでございます。ワタクシの家が母子家庭で、なにかと入用なのを知っているこの偉大なるお三方は、あはれと思ひになり予定を合わせてくださるのでござりまする。
感謝、感謝。
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