最強に見える(最強とは言ってない)ダンジョン探索業

佐賀佐内手 久田斎

プロローグ

 その日も何事もなく終わるはずだった。

 決められたルーティン、いつもの日常。

 つい数時間前はいつも通り、高校の授業を受け、友人たちと気の置けない会話を交わしていたのに。


「はっ、はっ、ひっ、はっ」


 剝き出しの岩肌が四方を囲っている通路の中、十数名の人間と共にひた走っている。

 一緒になって走っている全員の息が上がっている

 流れる汗はぬぐい切れず、皆の顔をしとどに濡らしている。

 息は絶え絶えで、喉の奥は乾燥して痛みを訴えている。


「ふっ、はっ、ひっ、はっ」


 後ろからは異形共の足音が離れない。

 聞こえてくるそれは紛うことのない死出の足音。

 岩肌そのものの地面は、二足で走ることに向いていない。

 それでも、もつれそうになる足を叱咤して、必死になって動かす。

 足を止めること。

 それは背後から迫りくる死の脅威に、絡め捕られると同義だと知っているから。


「ぜぇ、ひぃ、はっ、はっ」


 なぜこうなったのか、と考える。

 考えるまでもないと自嘲する。

 原因は明白である。

 スタンピードが起きたのだ。


「かはっ、はっ、はっ、あふっ」



 ——【迷宮暴走スタンピード

 半世紀ほど前、突如として発生するようになった【迷宮ダンジョン】と呼ばれる異界の中で、稀に起きる現象である。

魔物モンスター】と呼ばれる、それまで空想の中にしか存在しなかった怪物たちが、自らの定められた生息域を超え、群れを成し襲い来る災害である。


 自分達はそれに巻き込まれたのだ。

 事ここに至って、自分達の取りうる選択肢は1つだけ。

 逃走である。


 余所事など考えている暇は無く、喋る暇など尚更ない。

 だが、なぜ自分がこんなに不条理な目に合わねばならないのか。

 その思いは自然と湧き上がり、口を衝いて出てくる。

「くそっ、なんでこんな理不尽な目に」



 どうせ思慮を巡らせるならば助かるための方策であるべきであり、声を出すなら鼓舞の言葉であるべきだろう。

 しかしながら今、この危急の時にあって、口からまろび出るのは自らの境遇への嘆きであり、脳裏を巡るのは助かるためのアイディアではなく、半日前の平穏な日常のことだった。



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 初めまして。初投稿作品となります。

 長いおつきあいと成れれば幸いです。

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