第3話

僕は先輩の寝息が微かに聞こえるのを確認してから牢屋を抜け出した。



「先輩も寝たし、滅びる前にこの国を見に行こうかな」



前国王が急死して若くしてなった女王は隣国に買収されているサウトにいい様に利用されて死ぬ。

前国王がサウトによって殺されたと知るのも死の直前。


それが先輩の書いた筋書き。

甘い言葉だけに流された者の末路。

それがこの国と女王の行末。



「今のはどう言う意味だ?」



牢から大きな声が聞こえて来た。

夜中に近所迷惑な奴だ。



「静かに。

先輩が寝てるだろ」



声の主は牢の中でベットに腰掛けていた小悪魔系イケメン。

近衛兵のミズキだ。


ミズキは国と女王の為を思い苦言を呈した。

だけどバカな女王は側近に丸め込まれてミズキを幽閉する事となる。

牢から出れたのは国が滅んだ後。

そして国と女王を守れなかったミズキは復讐の鬼となり、主人公を利用する為に行動を共にする。

先輩の小説ではかなりの重要人物だ。



「大声を出してすまない。

だが、さっきの話は聞き捨てならない。

国が滅びるとは言うのはどう言う事だ?」


「そのままの意味だよ。

女王はサウトに騙されて殺される。

そしてこの国は終わり」


「お前は何者だ?

何故そんな事がわかる?」


「それ重要なの?

近衛兵ミズキ」


「なんでボクの名を知っている?」


「皮肉だよね。

この国と女王の為を思って苦言を呈したのに反逆者扱いだ。

全くバカな女王だ」


「ティア様の悪口を言うな。

いつかきっとわかってくださる」


「いつかは来ない。

その前にこの国は滅びる」


「そんなバカな事が――」


「信じないなら君はそこで国が滅びる日まで大人しくしてたらいい」


「待ってくれ。

どうすればいい?」


「知らないよそんな事。

僕には関係無いもん」


「そんな……」


「まあまあ、これでも読んで元気出しなよ」



僕は先輩の小説を牢の中に入れた。

ミズキは不思議そうにそれを見る。



「それは?」


「僕のイチオシの小説。

面白いよ」



僕はそれだけ言って夜の街に繰り出した。



◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆



翌朝。

強烈な寒さで私は目を覚ました。

殺風景な牢の中は一段と冷え込んでいた。



「あれ?

カイ君が居ない」



牢の中にはカイ君の姿は無い。

当然隠れる所もない。

昨日のカイ君は幻だったのか?

また不安と寂しさが湧き上がって来た。


程なくして軍人が私を牢から出す。

今から処刑場に向かうみたいだ。

泣いてる暇すら与えてはくれない。

自然と足取りは重くなる。



「早く歩け」


「ヒャッ!?」



軍人に軽く尻を撫でられて思わず声が出た。

それもいやらしい手つきで。

私は振り向いて睨む。



「カイ君!?」



なんと軍人の格好をしたカイ君だった。

って事は尻を撫でたのはカイ君だって事だ。



「静かに。

今は黙って歩いて」


「君の所為だろ」


「口を慎め」



今度はお尻をしつこく撫で回される。

一向に辞める気配は無い。



「カイ君。

辞めてくれないか?」


「だから黙って歩け」



この野郎。

完全に軍人に成り切って遠慮無しに撫で回してやがる。

いや、私の小説にこんなスケベな軍人は出てこないよ。



「後で覚えてろよ」


「その後があるかも僕次第だよね?」


カイ君はニヤニヤしながら思いっきり揉みだした。



「なにして貰おうかな〜

ほっぺにチューでもして貰おうかな〜」


「ほっぺにパンチならあげてもいいよ」


「そんな事言っていいのかな〜

先輩の命運を握ってるのは僕だよ」



この野郎。

この土壇場でぶっ込んで来やがったな。

そのドヤ顔が心底腹が立つ。

昨日から続く理不尽の中で今が一番腹が立つ。



「わかったよ。

助かったら頬にキスしてあげるよ」



私は握り締めた拳を必死に抑える。

そうだと言うのにこの野郎は。



「何言ってるの?

その時は唇にだよ。

そのままベットインだよ」



抑えていた拳は勝手に飛び出していた。

まさかカイ君がこんな卑劣な奴だとは思わなかったよ。


騒ぎを聞きつけた軍人に取り押さえられてそのまま処刑場に連行された。

そのまま十字架に貼り付けられて民集の前に晒される。

横に立つサウトは高々と宣言した。



「この者は我が国の内部の情報を全てここに書き記している。

こんな物が他国に渡れば我が国の存続が危ぶまれる。

よってこの者を公開処刑する」



正直殴ったのは良くないと思うよ。

だからと言ってその仕打ちは酷いよカイ君。

私は目を疑ったよ。

民集の最前列で歓声を上げるなんてさ。


私は完全に見捨てられたんだ。

それって私が殴ったから?

でもあれはカイ君が悪いよ。

来てくれた時は本当に嬉しかったんだよ。

私はもうカイ君を見てられなくて俯いた。



「来たよ先輩」



声が聞こえて顔を上げるとカイ君が目の前にいた。



「カイく〜ん」



この一瞬でどうやってとかも気になる前に私は嬉しさのあまり涙を流してしまった。



「ちょっと先輩。

泣かないでよ」



そりゃ泣いちゃうよ。

だってもう諦めてたんだよ。



「ごめんって。

ちょっとやり過ぎちゃったって反省してるよ」


「貴様は誰だ!?」



カイ君目掛けてサウトが怒鳴る。

だけどカイ君は気する様子はない。



「僕は先輩を助けに来たんだよ」


「スパイの仲間だな。

そいつを捕えろ」



軍人達がカイ君目掛けて群がる。

私はそこで冷静になった。

相手は一国の軍隊。

それに対するカイ君はただの高校生。

どうする事も出来やしない。


と思ったのにカイ君は素手にも関わらず、アクション映画宛らに無双していた。


軍人達の行き交う剣は互いにぶつかるだけでカイ君には擦りもしない。

逆にカイ君の拳と蹴りは確実に軍人達をKOしていく。

それは面白い様に軍人達はコロコロと転がっていく。


カイ君。

君は一体何者なんだ?

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