第4話 ひみつの作戦会議?


○会社の地下駐車場

(私……夢を見てるんじゃないのかな)


退勤してすぐにトイレに駆け込んでメイクを直し、身支度を整えた。

急いで降りていくと、地下駐車場の指定された位置にはすでに先輩がいた。


車の前に立って腕時計に視線を落としている。

思わず見とれて口を開けてぽやんと見とれてしまう。




 「乗って」

私に気づいた先輩は、白のピカピカのSUVの……助手席の(!)ドアを開けてくれる。


(うわぁ! 先輩の車に乗ってるんだ、私!)

デートなんかじゃないのに、それでもテンションが急上昇する。




 

○郊外の小さなトラットリア

一番奥の席、周りにお客はいない。


 「昼間の奴らによると、近々きみに社外へのおつかいをさせて機密をどこかに漏洩するみたいだな」


ユナ

 「そんな! そうなったら私、実行犯じゃないですか!」


 「そうだな。漏洩がばれても、きみだけに罪を着せて逃げるつもりだろう」


ユナ

 「ひどい! まじめに働いてきたのに!」



ショックで、めまいがする。

(あんな人のよさそうなうちの部長が、私を不正に利用しようとしているなんて……)



 「藤木」


先輩はテーブル越しに私の手にそっと触れた。あたたかい、大きな手。

こんな状況でなければ……尊死してるかも。


 「きみのおかげで今日、証拠を押さえられた。きみに何をさせようとしているかもわかったから、阻止できる」


ユナ

 「先輩……」



ショックと不安で泣きそうになる。

そのうえ、先輩の手が私の手をそっと覆っていて、とくとくと鼓動が早まる。

うわぁ、まさか、この動揺は伝わらないよね?! 



 「そのためには、俺たちに協力してほしい」


ああ、はい、そうですよ……ね? 涙がすぅっと引っ込んだ。すん。


ユナ

 「はい……?」



そこから、先輩はごく事務的に淡々と説明してくれた。

このまま部長たちに利用されて何も気づいていないままのふりをして、今後渡される情報をすべて先輩に流してほしいという。

デジタルのやり取りの痕跡を残さないためのローテクな方法を逆手に取るらしい。


ユナ

 「あの……どうして先輩が部長たちの不正を?」


おそるおそる訊いてみると、先輩は苦笑して以外にもすんなりと教えてくれた。


 「5年前から、会長の指示で社内の不正を内密に調査してるんだ」


ユナ

 「会長の?!」


 「俺と同じことを命じられている社員は、他にも社内に数名いる」


ユナ

 「そ、そんな大それたことを、私に言っちゃっても……いいんですか?」


 「協力してもらうに至って、会長から許可は得てある。それに……」


先輩は優しく笑んだ。



 「きみは会長のお気に入りだから」


私は目を見開く。

(会長なんて、会ったこともないのに……?)

 

でも……

よくわからないけど、先輩は信頼できる。

今の私が「デキる人」と言われているのは、メンターだった先輩のおかげだし。

運ばれてきた料理を食べながら、今後「おつかい」を頼まれたらどうすればいいのかを、先輩はこまごまと説明してくれた。




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