第2話 上司のおつかい?
○国内営業部一課、ユナのデスク。
力なく肩を落として座る私に、隣の席の三年後輩のナナエが話しかけてくる。
ナナエ
「先輩! さっき、吉成さんと話してませんでした?」
ユナ
「ぼーっとしてて、ぶつかっちゃったの」
ナナエ
「いいなぁ! 誰が告っても落ちないのに、先輩には優しいですよね、あの人!」
ユナ
「そんなことないと思うけど。メンターだったからかな」
ナナエ
「それも羨まし~。あんなかっこいいのに彼女いないらしいですよ。先週はぁ、秘書課の中山さんがフラれたんですって!」
ユナ
「えっ? あの美女が?」
ナナエ
「先輩も今フリーでしょ? 先輩ならイケるかも!」
ユナ
「あー。私はただの後輩としか思われてないよ……」
ナナエ
「じゃ、誰か紹介します? ナナの友達もみんなかっこいいですよ~」
私は苦笑しながら両手をひらひらと振って必死に断った。
いいというのに紹介の話をやめないナナエにうんざりしていると、ラッキーにも部長から呼ばれた。
私はさっさと自分の席を離れて部長のもとへ向かう。
(そっか。彼女いないのか……いやそんな……? あんなかっこいいのに?)
○国内営業部一課、部長のデスクの前
部長
「藤木さん、コレ、また頼むよ」
部長は私に有名ショコラティエのオシャレな紙バッグを渡す。
でもチョコをくれたわけではない。中には、結構年季の入った囲碁の本が一冊入っている。
ユナ
「はい。ではちょっと行ってきます」
部長
「うん、よろしくね」
私は紙袋を受け取って海外営業部へ向かった。
ひと月くらい前から、このおつかいは3回目。
付箋がびっしり付いた囲碁の本を海外営業部長に渡し、少し待ってまた受け取って帰ってくる。
簡単なおつかいでくだらない内容だけど、
(だって、行先は海外営業部だもの!)
そこには、先輩がいる。
離席していなければ、姿が見られるから。
○海外営業部
先輩の姿は……ない。がっがり。
(でもさっき廊下で会えたし、今夜も会えるからいいけど)
(先輩と仕事のあとに出かけるなんて……いつぶりかな)
(仕事がらみだろうとわかってはいるけど、なんだか嬉しくなるな。メンターの頃は、時々ご飯に連れて行ってくれたっけ)
ユナ
「部長、うちの部長からです」
私は海外営業部長に紙バッグを渡した。
海外部長
「おお、ご苦労さん。ちょっと待ってね」
部長は奥の応接室へ入り扉を閉めた。私は部長が戻るのを待つ。
○廊下
返された本を紙バッグに入れて、営業部一課の部屋へと戻るところ。
ユナ
「っ……!」
ふいに背後から誰かに口をふさがれて、圧倒的な力で私は小会議室に引き込まれた。
全身の血の気がザザッと引く。恐怖で、悲鳴も上げられない。
でも背後から聞こえてきた声に、驚きと疑問が混じり合い私は頭の中が大混乱した。
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