時を超えて、恋をする。

@wakakusamidori

第1話

令和元年。

16歳のシオンは退屈だった。

理由は、新型コロナウイルスという感染症による外出自粛。

せっかく始まった高校生活も満喫するどころか同級生の顔すら画面越し。

テレビ番組は毎日感染症の話題で、バラエティー番組も感染予防の観点から少し距離感があるのが見て取れる。

入学祝のスマートフォンでサイトを閲覧するばかりの毎日が始まって三か月だった。

「、、、散歩ぐらいなら、してもいいよね?」

いつも外に出ようなんて思わないくせに、出るなと言われると出たくなる。

それが人間の性なのだと実感した。

スマートフォンと一緒にねだったデジタルカメラを手に、行先のない散歩へ出かけた。



近所の川にまたがる橋の、道路と歩道の境界線である縁石の上を、両腕でバランスを取りながら進む。人も車もいない静かな町に、鳥のさえずりが小さく響く。

時折心地よい風が吹いて、夏の匂いが頬を撫でる。

半年前と何も変わらない真っ青は空を見上げ、縁石の終わりで転びかけた。

橋を渡り終えて、河川敷へ降りる。

海へ向かう水は透きとおっていて、手を入れると冷たい水の流れる感触がする。

草が生えている部分には花が生えていたり土が見えていたりして、人間の事情など知らない自然を体感する。

写真を数枚とって、また歩き出す。


三か月も外に出ない生活が続くと、その前の生活習慣が思い出せない。

中学の頃の友人との会話や部活動が懐かしい。


店の多い大通りは、先ほどよりは人がいる。

青葉の隙間から入る光を浴びながら、並木道を歩く。

久しぶりに聞いた車のエンジン音。

信号が点滅する横断歩道を、少し急いで渡る。


「あ、タピオカ、、こんなところに見せ合ったっけ。」

少し前からはやり始めたタピオカドリンクを見つける。

いつも友人との会話に夢中で、何度も通った道にある店を見落としていたらしい。

新鮮な気分で財布を取り出す。

外出をしないので、もらうお小遣いは半年分ほどたまっていた。

おかげで七百円のタピオカドリンクを躊躇いなく頼めた。

なんとなく、ドリンクはスマートフォンで写真を撮った。

「あ、おいしい、、!」

タピオカドリンク自体を久しぶりに飲んだからか、妙においしく感じる。


スマートフォンの通知音が鳴る。

画面を見ると、リモートワークを終えた母からの連絡だった。

「今どこにいるの?」

「外に出てるの?」

あそうか、行先伝えてなかった。と気づき返信する。

「散歩に出かけてるよ。」

先ほど撮影したドリンクの写真と一緒に送信すると、母から「いいな~」と返信が返ってきた。


時刻を確認すると、散歩に出てから二時間ほどたっていた。

そろそろ帰ろう、と母の連絡もあり急いで帰路につく。

近道をするために少し急な階段を下っていると、不意に足を滑らせて転んでしまった。





目を開ける。

そこは確かに階段の踊り場だった。

「大丈夫ですか?怪我は、ありませんか?」

ツーブロックの髪型に、イケメンでもなければ不細工でもない顔。

自分と同じ高校の指定ジャージを着た男性が、自分に手を差し伸べていた。

「あ、大丈夫、、です。あれ、出校日だっけ、、?」

学校閉鎖でリモート授業じゃ、、というと、男性は目を丸くして言った。

「え?いや、今日も普通に出校日ですけど、、同じ高校ですか?」

男性の手を取って立ち上がると、道にはたくさんの人が歩いていて、車もたくさん走っている。

「あれ、、?今、コロナで外出自粛じゃ、、」

「ええ?それ五年ぐらい前の話じゃないですか。」

タイムトラベル。

その言葉が、私の脳内に浮かび上がった。


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