第5話

 部屋が異常に包まれている。飛家は仁科と要を呼んで、現状の説明をしようとした。しかし、それをしようにも部屋の温度が急激に下がりすぎて、飛家は呂律が回らない。部屋の「中」に、雪が降り積もっている。

 要は絮雪を見ていた。そうして、部屋の温度が下がるたびに彼女の体温が上がっていることに気がついた。

「絮雪、絮雪。辛いよな。大丈夫か?」

「杖木くん……」

 鼻をすする音が聞こえる。

「ごめんね……?いつも面倒ばっかり……」

「ちがう、迷惑なんて思ってないから」

 絮雪は顔を上げる。熱に浮かされる瞳が、先ほどまでは黒々としていたのに、銀色を帯びた輝きを見せている。眉毛もまつ毛も凍っては、絮雪の体温で溶けているのかもしれない。少し濡れている。

「ごめん、ごめんね……私が倉庫に逃げ込まなかったら……私が杖木くんと仲良くならなかったら……もっと大人だったら、こんなことにならなかったのに……付き合わせてごめんね、もう無理に私と仲良くしなくていいから」

 絮雪の瞳から涙が零れ、ぬいぐるみに落ちた。その涙も、少しずつ凍っていく。

「おれは、お前と無理に仲良くなんてしていない」

 要は絮雪の肩を掴んだ。

「お前は、おれがお前のことを可哀そうに思っているから仲良くしていると思っているのか……?」

 絮雪は控えめに頷いた。

「だとしたら大間違いだ。おれは絮雪と仲良くなりたいと思っていたからお前と仲良くしているよ。だから、あの日お前が来なくて……おれ、ちょっと悲しかった。でも、すぐに何かあったんだと思ったから、お前を探していたんだよ。本当だよ……」

 要の身体からは、どんどん体温が奪われていく。それを気にすることなく、二人は話す。

「ほんと?」

「本当だよ。それに、あの日に俺が絮雪を呼び出したのは……絮雪に告白しようと思っていたんだ」

 雪が止む。

「うそ……」

「これも本当だよ。いや、お前は信じれないと思うけど、おれは一目ぼれしてさ……お前と会話する前から好きだし、友達になってからはすごく好きになった」

 絮雪の頬は真っ赤になっている。要も、この寒さのせいなのか耳が赤く染まっている。

「でも今のお前を見ていたら、辛い気持ちに寄り添う方が先だと思う。だから、今は保留にしてくれ。とにかく、お前の心と体が一番だから……」

 絮雪は顔を覆っている。手のひらの隙間から涙が零れているが、それが悲しみや苦しみによるものではないことが、誰から見てもわかった。


 部屋の中の雪は、すっかり解けてしまった。

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