第2話

 仁科の後ろから、二人の女性が入ってきた。どちらもロングコートを腕に抱え、頭は僅かに濡れている。要は気づいてなかったが、外では雪が降っていた。一人は一般的なレディースのパンツスーツを着て、髪型も含めてまるで就活生のような見た目をしている。もう一人は、オフィスカジュアルらしいニットのワンピースを着ている。ウェーブの長い髪と手に持ったトランクから、まるで映画の女優のようである。

 二人がお辞儀をすると、要もつられてお辞儀をした。そしてスーツを着た女性が、一枚の名刺を要に差し出した。

「はじめまして。蓬友会ほうゆうかいから来ました、飛家とびやつばめというものです」

 そして、その隣からも名刺が差し出された。

「私は縁明えんめい海弧うみこというものです。突然来て、驚いたでしょう。中に入れてくれて、ありがとう」

 そう言ってお辞儀をする縁明に、要は驚いて首を振った。

「彼女たちはね、蓬友会って言うメンタルケアをしてくれる団体から来ているの」

「ほうゆうかい……」

 仁科の言葉に、要は繰り返した。聞いたことがあるような無いような団体の名前である。

 飛家が仁科に続くように説明する。

「蓬友会では、心に強いストレスがかかった人のメンタルケアをしています。事件に巻き込まれたりとか、虐待とか、その他も」

 要が聞く姿勢になっているのを見て、縁明も続ける。

「私と飛家は、そこの運営会社からやってきたの。簡単に言えば、サポートにつなげる仕事をしているわ」

 そう言うと、縁明はトランクのベルトを外した。中から迷いなく何かを掴んで、それを要に見せる。要は少しだけ警戒したが、出されたものを見て肩の力が抜けた。

「え、ぬいぐるみ……?」

 縁明が手に持っていたのは、掌くらいの大きさのシマエナガのぬいぐるみであった。

「私、人形作家もやっているの。これは話しやすいかしらと思って、作ってきたわ。良かったら貰ってくれない?」

 そう言われて、要は何とも言えないままぬいぐるみを受け取った。手のひらサイズだが、作りはしっかりしている。力強く握っても、破ける様子がない。つぶらな瞳が見つめているような気がして、要は不思議と心が和らいだ。

「あの、今日、今すぐにとは言いません。もしお二人がよろしければ、私たちがお話を聞かせてもらえないかなと思うんです。仁科先生が止めるならやめるし、二人が嫌だと言うなら聞きませんので」

 飛家の言葉に、要はまた顔を曇らせた。ぬいぐるみをじっと見て、零れるように呟く。

「絮雪は……こいつは、熱が下がらなくて……目も覚まさなくて……本当に辛かったんだと思います。だから話すのは辛いと思う、けど……話さないと何も解決しないですよね……」

 そう言うと、要は絮雪の手を握り直した。もう片方の手に握られているシマエナガのぬいぐるみは、ぎゅっと皺が寄っている。

 補足するように、仁科が口を開く。

「柳さんね、寒気とかもあると思うんだけど、寒いってずっと震えているんです。ここ、結構暖かくしているけどね。精神的に参っているのもあるかも」

「絮雪は寒がりなんです。クーラーとか、すぐに寒い寒いって言うし」

 病室は静まり返った。絮雪の呼吸だけが聞こえている。要が絮雪のことを心配して、事件について話すか話さないか迷っている。それを感じ取った飛家と縁明は、後日にしようかと目くばせだけで相談していた。

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