第2話 自然

いつも虚無感があるわけではない。


あるとき、ふと降りてくる。



人間も、しょせん動物のくせに。


この感覚は、子どもの頃から時折、降りてきていた。


動物的な本能の上に、人間らしさが薄く張り付いているだけなのだと。



熊がかわいそうだという人がいる。


もちろん、僕もかわいそうだと思う。


かわいそうだと思うのと、駆除を反対するのは、また別の話だ。


しかしまぁ、人間ばかりが領土を広げすぎているからだとも思う。



山に行き、熊が出たという人がいるが、熊からしたら人が出たと思っているだろう。


山の現場で働くようになり、そう考えるようになった。


くもの巣にはよくひっかかるし、蜂に刺されることもある。


鹿や狸などが逃げていく姿を見ると、先にいたのは彼らなのに、平穏を破ってしまって申し訳ないと思う。



彼らの住む山の中で、杭を打ち、境界を決めることがある。


「この杭からこっちがAさんの土地で、あっちがBさんの土地です」、といった感じだ。


僕が器械を使い指示を出す。


3mm右で、2mm奥。


本来、誰のものでもない土地を、当たり前のように人間のものだと決めつけている。


何をやっているんだろうと我に返ることもあるが、そもそも「我」とはどっちなのだろうと鼻で笑ってしまう。



打った杭を地権者に確認してもらう。


以前まで境界代わりにしていた棕櫚しゅろの木の周辺に刺した杭を確認してもらい、「まぁ、あの辺でいいよ」と了承を得る。


しかし、都会ではそうはいかない。


地価が高いため、少しでも得を取ろうと地権者はお互い1mmも譲らない。



土地の境界だけでなく、法律や、文化や、常識。


あらゆるものに縛られて、生きづらくなってないだろうか。


ただ生きる。


僕は、その単純さに憧れている。

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