勇者に勝つのが目標です
ダチョ太郎
プロローグ
「それでは全国武闘大会決勝戦を始めます!」
その言葉と共に俺と対戦相手が入場すると観客は湧き、大きな歓声を送っているのが見えた。
しかしその歓声を送られているのは俺ではなく対戦相手だ。
対戦相手は俺と同い年の子供だが勇者だ。
若くして既にこの国では誰も敵わないほどの強さを持っている。
決勝戦までの対戦相手も強豪ばかりだ。
しかも勇者はその強豪を全員一撃で沈めている。
ゆえにこれまでの戦いで負ったダメージはゼロだ。
対する俺について見てみよう。
今回初出場の俺はここまで対戦相手に恵まれてきた。
当たった強豪はもう既に他の強豪との戦いで疲弊していたり対戦相手の棄権などもあった。
おかげで俺も無傷とまでは言わないがダメージはあまりない。
ドコドコ地方を救った英雄とかナニナニ拳法を極めた達人とか。
明らか強そうなやつもみんな勇者に一撃で沈められた。
とはいえそれは俺が勇者に勝てない理由にはならない。
やるからには全力でやる。
負ける気で戦うのならそもそも戦う必要はない。
「それでは両者開始位置について」
とうとう試合が始まるようだ。
観客の興奮も最高潮に達している。
「それでは試合を始めます!
一方はこの世に生まれ落ちた時点で最強の存在勇者!
エドガー・マルティネス!」
勇者エドガーが観客席に向かって手を振ると一層大きな歓声が巻き起こる。
「もう一方は今大会初参加ながらここまで勝ち抜き勇者と相対することになった男。
アヴェル・グレイロード」
勇者の時ほどでは無いが歓声が起こる。
俺の事を応援してくれている人もいるようだ。
「構え!」
勇者は自然体だ。
パッと見倒せそうに見えるがこの力のない構えで数々の強豪が沈められてきたのを俺は見ている。
超強いスキルを何重にも重ねた化け物。
それが勇者なのだ。
俺は普通に構えて先制攻撃の準備をする。
勇者が本気で稼働しだす前に仕留める!
「始め!」
審判が声を張り上げた瞬間、俺は一息で勇者との距離をゼロにする。
(取った!)
俺の先制攻撃は吸い込まれるように勇者に向かっていく。
勇者は最小限の動きでそれをかわしカウンターを放った。
しかしその拳は空をきる。
既に俺は勇者と十分な距離を取っていた。
「君速いね。今回の参加者の中だと1番だよ」
「そいつはどうも。でも1番は俺じゃ無さそうだ」
完璧に避けたと思っていたがどうやらさっきの攻撃がかすっていたようだ。
ツーと頬から血が垂れてくる。
「今度はこっちから行くよ!」
そう言って勇者は俺に飛びかかってくる。
技でもなんでもない純粋な力だけの攻撃。
肉体のスペックの違いを見せつける一撃だ。
間一髪で避けた勇者の一撃は闘技場の床に当たった。
その一撃は競技場全体に伝わりバキバキに割れた。
流石にこれはもらいたくない。
勇者は同様の攻撃を容赦なく放ってくる
完璧には避けきれず俺の体には無数の傷がついているのが分かった。
隙を見つけて勇者と距離をとるために蹴りを放つ。
勇者を吹き飛ばすつもりだが俺の方が吹っ飛んでしまった。
まるで地面に根を張っているように重い。
だが結果として距離をとることができたので良しとしよう。
スキル『自己再生』で体の傷を治し、再び構える。
勇者は俺が傷を治すのを待っていたようだ。
先ほどの場所からまったく動いていない。
「いいね。再生のスキルかい?」
「そうだ」
再生のスキル持ちというのは結構珍しい。
かなり魔力を食うが練度が上がれば部位欠損級の傷でも治すことができる。
「再生持ちならちょっと無茶しても良さそうだ」
そう言って勇者はひょいと魔法を放つ。
とんでもない規模の炎だ。
しかし炎の形に見覚えがある。
おそらく初級魔法『ファイアーボール』だ。
初級魔法でも勇者が使えばこれほどの威力になるのか。
だが俺の事を舐めすぎだ。
すぐさま相殺するために水魔法で大量の水を生み出し炎にぶつける。
大量の水は炎を鎮火して勇者を飲み込んだ。
これで一時的に勇者の動きを止められる。
ここで決めきる!
その思いと共に電撃を放つ。
雷魔法『エレクトリック』。
通常、人が扱う魔法は基本属性である火、水、風、土の四属性。
プラスで光と闇の二属性
合計の六属性だけだ。
しかし稀にそれ以外の魔法を使えるものがいる。
スキル『雷の使徒』
雷魔法の使用の他に雷への耐性がつけることができる有用なスキルだ。
大量の水は闘技場の外に流れ出て行き勇者が自由の身となる。
残念ながら俺の攻撃は勇者に有効なダメージを与えることができなかったようだ。
俺の前に立つ勇者は元気ピンピン。
まだまだ余裕そうだ。
「今の攻撃は少し喰らったよ。まあ受けたダメージはもう再生したけど」
どうやら俺の攻撃は一応勇者にダメージを与えることはできているらしい。
しかし瞬時に回復。
それによってまったくダメージがないように見えたというわけだ。
使ったスキルも俺の自己再生よりも数段上のものだろう。
「それじゃあそろそろ終わらせよう」
そう言って勇者は俺との距離を一瞬でゼロにする。
避けるのは間に合わない。
そう考えた俺は防御体制を取り勇者の拳を受け止めようとした。
しかし勇者の拳は俺の手前で止まる。
その理由に気づく暇もなく俺は衝撃波に吹き飛ばされて場外に飛び出した。
「アヴェル選手場外!よって勇者エドガー選手の勝利!」
手加減された上で負けた。
あらためて勇者と一般人の力の差を見せつけられたような気がする。
勇者はまったく本気をださず俺をあしらい、最後は俺を傷つけないように丁寧に場外に吹き飛ばした。
それができるほどの力の差が今の俺と勇者との間にはある。
「それでは表彰式を行いますのでこちらへお越しください」
そう言われて俺はやっと我に返り表彰台に向かう。
「君、強かったよ。今回戦った中では1番だ」
表彰の前に勇者が話しかけてきた。
「そいつはどうも」
勇者に強さを認められるのは光栄だ。
しかし自分よりも強い者に言われても素直に喜ぶことは出来ない。
「自己紹介がまだだったね。僕は」
「エドガー・マルティネス、勇者だろ。みんな知ってるぜ」
勇者の自己紹介を遮り俺はそう言った。
「そうだったね……。君の名前は?」
「アヴェル・グレイロードだ。よろしく勇者様」
そう言って俺は手を差し出す。
「勇者様じゃなくていいよ。エドガーって呼んでくれ」
「よろしくエドガー」
そう言って俺とエドガーは握手を交わしたのだった。
勇者に勝つのが目標です ダチョ太郎 @okitadx
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