定期宅配便

不労つぴ

定期宅配便

 これは友人の竹田たけだの話だ。


 竹田は大学時代、地元のカラオケ店で働いていた。

 彼は大学2年生から就職する直前まで働いていたので、約2年以上そこで働いていたことになる。


 竹田は夜のシフトに入ることが多く、仕事終わりはそのまま仲の良い先輩や後輩とよく遊びに行っていた。


 ある日、竹田はいつものように先輩たちに連れられ、とある先輩の家で飲むことになった。


 以降、その先輩をA先輩と呼ぶ。


 A先輩宅は、住んでいた街から少し離れたところにあり、ごく普通の単身用アパートだったという。


 A先輩は家に着くなり、竹田にこう言った。


「今からシャワー浴びてくっから、もし宅配便が来たら受け取ってくれ」


 その時は夜の9時頃だったため、こんな時間に宅配便が来るのかと竹田は疑問に思ったが、とりあえず了承した。


 それから少し経った後、A先輩の予測通り宅配便が来た。先輩に言われた通り、竹田は荷物を受け取る。


 その後、しばらくしてA先輩がシャワーから上がってきたので、竹田は荷物を受け取ったことを伝えた。


「おっ、受け取ってくれたのか。ありがとな」


 A先輩はそう言うと、送られてきた小さな段ボールを開封し始める。


「先輩、通販好きなんですか?」


 A先輩の自室には、未開封の段ボールがいくつも置かれていた。


「まぁ、結構好きだぞ。通販で散財するのは楽しいからな」


 そう言って、A先輩は小さな段ボールからパスタ麺やパスタソースの袋を取り出す。竹田が、それくらいスーパーで買えばいいだろうと意見を抱いたとき、またしてもチャイムの音がした。


「また宅配便ですか?」


「そうみたいだな」


「俺取ってきます」


 そう言って、竹田は宅配便を受けとりに玄関へ行った。


 そして、宅配業者から渡された段ボールを手に取ると、見た目の割に重いことに気づいた。


 竹田は荷物をなんとか先輩の元へ運ぶ。


 先輩は「どれどれ」と、段ボールの送り状を確認する。


 すると、先程まで上機嫌だったA先輩の顔が何やら怪訝な表情になっていることに竹田は気付いた。


「先輩、それ開けないんですか?」


 A先輩は竹田の言葉に対して静かに首を横に振った。


「これは俺宛てに届いたものじゃないんだ。時々な、こうやって送られてくるんだよ」


 A先輩はテーブルに置いてあった缶チューハイに少しだけ口をつけ、


「気味の悪い話かもしれないが少し付き合ってくれ」


 と前置きした後、話し始めた。





             ◇ ◇ ◇

 俺が住む前に住んでいた、この部屋の住人は若い女性だったって話だ。


 噂によると、そいつ――自殺しちまったらしいんだ。


 だが、不動産屋からは何も聞いてない。俺は幽霊とか宇宙人とかは信じないタイプだからな。仮にここが事故物件だったとしても、住めればどうでもよかったんだ。


 ただ、前の住人がすでにこの世にいないのは確からしい。


 俺がここに住み始めてから少し経った頃だ。覚えのない住所から時折荷物が届くようになったんだ。


 中身は米や野菜。あとは生活用品。一人暮らしの俺にとっちゃありがたい話だが、見ず知らずの人から送られてくるものなんて、気味が悪くて仕方ない。


 俺はそこまで神経が図太いほうじゃないからな。


 荷物はだいたい月にⅠ回。多いときは毎週送られてきた。流石に俺も気味が悪くて送り主を調べたんだ。


 送り主は前の住人の母親だった。


 早速俺は、送り状に書いてある連絡先に電話をかけた。案の定、電話の相手は荷物の送り主だったから俺は、人違いだからやめてくれって言ったんだよ。


 そしたら、電話の相手はなんて言ったと思う?


『娘の彼氏さんなんだから遠慮しないんでいいですよ』だとさ。


 どうも、自分の娘が亡くなった事実を受け入れられないらしい。


 挙句の果てには、『娘は元気ですか? 娘にも代わってもらえると助かるのですが』なんて言いやがる。


 こっちがいくら説明しても全く聞く耳を持たねぇ。同じ人間なのにこうも話しが通じないなんて恐ろしいもんだと思ったよ。


 もう時間の無駄だって思って、俺は電話を切った。


 それからは定期便に加えて、はた迷惑なまでかかってくるようになったよ。流石に気味が悪りぃから荷物も送り返すようにしてるし、電話も着拒にしてる。








「とまぁ、こんなとこだ」


 A先輩は既に4本目となる缶チューハイを開けた後、こともなげに言った。

 その話を聞いて、怖がりな竹田は冷や汗が止まらなかったという。


 ポケットから取り出したタバコに、ライターで火をつけた先輩は「あっ」となにか思い出したような表情をした後、ニヤリと笑って竹田に質問した。


「竹田。あの段ボールの中身――何が入ってると思う?」


 先輩が指差したところには先ほど見たものよりも大きい段ボールが置かれていた。


「何って――そりゃいつものように米と野菜じゃないんですか?」


 A先輩は竹田の質問には答えず、ため息を付くかのように煙を吐き出し灰皿に吸い殻を擦りつけた。


 そして、竹田の方を見ずにどこか遠くを見るような目で言った。


「中に入っていたのはな――」







「ウェディングドレスだよ」






 先輩は今もその家に住み続けているという。





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定期宅配便 不労つぴ @huroutsupi666

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