一章 六節 羅針盤は新たな方角を指し示す
ミーラ国城下町。
何度か来たことはあるが、前に来たのは結構前だ。
ただ、その姿は大きく変化していた。
以前は街全体に活気と明るさが満ちており、どこかお祭りかのような雰囲気が常に合った。
しかし、今のミーラ国城下町はそうじゃない。
人は普通に歩いているものの、見事なことにシーンと静まり返っており、どんよりとしている。
人々の顔は暗く、様子がおかしい。
道行く人に声をかけようとすると、一瞬怯えるような仕草をして困った後、すいませんとだけ言って駆け足で逃げていった。
「、、、ここでも何かあったようだね。とりあえず、王様のところに行ってみよう。兄さんは底にいるはずだ」
「わかった」
城に向かうと門番の兵士に話しかけられる
「何者だ。名前と要件を言ってもらおう」
「トゥセ·ラコインといいます。王にお目にかかりたくここまでやってきました」
「テスター·クロノ。同じだ」
「、、、ラコイン、、、ああ、もしかしてオブゼ殿の兄弟か?」
「はい。そうですが、、、」
「、、、よし、通るがいい。さすがに近衛隊長の兄弟を粗末に扱えないしね。一応ついていかせてくれ。年のためのルールだから。」
門番はそういうと玉座の間まで自分を案内してくれる。
扉が重い音によってゆっくりと空いていく。
そこには玉座に鎮座する青髪の王と、見慣れた顔の近衛隊長が立っていた。
「下がるがいい」
王が一言そう口にする。
そういうとその空間から一般兵士は立ち退き、自分たち四人のみになる。
「、、、さ、何の用があってきたんだい?」
王は一呼吸置いて、そう話しかけてきた
自分たちは少し驚き、顔を見合わせる。
王が自分たちの前でそんな軽い口調でしゃべるからだ。
動揺していると、近衛隊長、改めてオブゼは王の耳に向かって何かを呟いた。
「ああ、オブゼの弟なんだ。彼。それで隣の彼はトゥセの幼馴染、、、なるほどね、、、それじゃ、少し兄弟同士で話しなよ、俺はその隣の奴に話聞くからさ。」
オブゼは申し訳なさそうにした後、トゥセに近づいて話しかける
「、、、元気だったか」
小さな声でそう話しかけていた
「あー、、、ちょっと元気無いかも。色々あってさ。」
そういうと彼は急に顔を変える
「何かあったのか。誰に何をされた」
「ちょ、、、落ち着いてよ。僕は無事だから、、、」
相変わらずの兄弟愛だな
そう思っていると王は立ち上がり、自分の方へ向かってくる
「、、、何があったんだい。君ら、クノ村の村人だろう?どうしてここまでやってきたんだ?」
「クノ村が魔王軍を名乗る者たちによって焼かれてしまい、生き残りが自分たちだけになりました。ゆえに、そのことの報告と非難をかけてここまでやってきました」
「、、、また魔王軍、か。いよいよまずい状況になってきたな、、、報告ありがとう。ひとまず、今日は王国が管理している寮に泊まってくれ。」
「ありがとうございます。」
「ところで、、、君、名前は?俺はデミラっていうんだけどさ」
「、、、テスター・クロノといいます」
「ふーん、、、覚えておくよ。色々教えてくれてありがとね。ありがとね。」
トゥセとオブゼの方をむくと、仲良く会話していた。
オブゼの顔がずっと変わらず険しいのは元からで、多分喜んでいる時の反応だ。
ふとオブゼがこちらをみると、小さな声で話しかけてくる
「、、、ありがとう」
何に対してだか分からないが、オブゼのことだからトゥセに関することなんだろう。
「どういたしまして」
そういうと彼はもう一度口を開く
「、、、俺は、、ここから動けない。だから、頼んだ」
威圧している気はないのだろうがその顔の表情からどう考えても傷つけたらただじゃ済まないと言っている雰囲気だ。
過保護なその様子に内心クスリと笑いながら自分も答える
「わかっている」
オブゼはただ頷くだけだったが、微かに笑みを浮かべていた
城からでた自分たちは王の言っていた宿に向かい、自分の部屋に入る。
トゥセが椅子に座って一息つくと、こんなことをしゃべってきた
「、、、魔王軍について話した時、王様は[また]って言ってた。もしかして、、、ここにも何かあったんじゃないかな。」
「、、、周りの人に事情を聞いてみよう」
トゥセはそういうと頷いて席から立った。
そして宿に泊まっている人々に話を聞いてみる。
「、、、ここ数ヶ月、ここは定期的に魔王軍からの攻撃があるんです。とてつもない数というわけではないですが、それでも、、、私の場合はその攻撃で家を失って、今は此処にいさせてもらってます」
一度自室に戻って、トゥセが話しかけてくる
「事情は把握できたね。、、、それで、どうしたいんだい?」
「魔王軍の討伐に行こう」
「、、、君のことだからそう言うと思ったよ。それじゃ、今日は休んで、改めて明日王様のところにもう一度行こう。情報が欲しいからね。」
「分かった」
「、、、その首を突っ込みたがる君の性格が変わってなくて安心したよ。ある意味ね。」
その言葉に妙な顔をすると彼はクスリと笑って、ベッドに横たわった。
もう寝ろってことだろう。
自分も横になり、ゆったりと目を閉じた。
明日は忙しくなると思うと、ほんの少し気が滅入る
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます