一章 四節 旅立ちの行進曲を奏でろ




二度目のその部屋は前と変わらず、変わっていたのは時計の長針が1を刺していることだけだった。

男はニヤニヤしながら椅子に座るよう勧め、自分が椅子に座ると口を開く


「はじめてのお勤め、ご苦労様です。、、、さすがは、勇者殿といったところでしょうか。」


「さっきのは?」


「ククク、、、簡単な話ですよ。あなたは正式にこの世界の命運を握る勇者になった。だから、あなたに力を授けたのですよ。さしずめ、契約といったところです。」


「勇者って何のことだ?」


「、、、まさか、ご存じないとは。いえいえ、構いません。それでは説明いたしましょう。

昔、神がこの世界を作ったとき、この世界には二つの知性を帯びた生命が生まれました。

それは、人間と魔物。両者は神のご意向によって常にいがみ合うよう作られました。

しかし、全面戦争ばかりしていると明らかに世界の滅亡が早まると感じた神は勇者と魔王という、総大将を決めました。

総大将を倒せば勝ち、倒されたら負け。シンプルなゲームです。

、、、つまり、あなたはその総大将に選ばれた。そういうわけです。」


「めんどくさそうだ」


「まあまあ、そうおっしゃらず。この運命は受け入れてくださいませ、、、。なんせあなたは既に契約の身。あなたの体に既に自由はあらんことを、あなたはご存じでしょう?」


「どういうことだ」


「おや、、、まさか自覚がないとは、、、いえ、この世界なら無理もないかもしれません。それでは先ほどの言葉はお気になさらず、、、」


「これからどうすればいいんだ」


「明日は、近くの城下町に行くといいでしょう。そこに、あなたの路はあるでしょうから。大丈夫です。あなたが勇者としてのつとめを一つ終えるたびに、私は必ずあなたを導きましょう。

、、、そろそろ夢の終わりです。明日も早いはず。それでは、どうぞごゆっくりおやすみなさいませ。」





光の眩しさで目を覚まし、寒々しい朝の中ゆっくりと起きる。

荒れ果て荒廃した自分の村からは未だ燻った黒煙が上がっており、手には昨日あの激戦に耐えた木刀が握られている。


よく耐えてくれたな

そう思いながら自分を英雄と言わんばかりに誇らしげに見える木刀をゆっくりと撫で、お疲れ様、と労いの言葉をかける。


そういえば、トゥセはどこにいるのだろうか。

先ほどから一切姿が見えず、少し不安になってくる。

念の為、探しに行こうかと立ち上がったところにトゥセの声が聞こえてくる。


「あ、ようやく起きたの?ハハ、昨日はお疲れ様。とりあえず、近くの林から果物採ってきたんだ。食べれるもの、これくらいしか無いでしょ?とりあえず食べてようよ。」


「ありがとう」


「はい、これ食べな」


彼は自分に果物を数個投げ渡し、自分はそれにかぶりついた。元々自分は果物の類は苦手だ。ぐちゃぐちゃした食感と、水っぽい甘さが好きじゃない。だから、久々に食べたが、あれだけの激戦の後だと美味しく感じる。先ほどまであまり意識していなかったが相当腹も減っているんだろう。胃に入るたびに満たされる感覚がある。


「、、、相変わらず、おいしそうに食べるんだね」


彼がやや神妙な顔をしながら、そう自分に問うてくる


「おいしいからな」


自分がそう答えると、彼は余計顔をしかめてしばらく間を開けた後に話す。


「、、、そういえば、、、これから、どうするつもりなの?まさか、この村に二人で住んで一生を過ごすなんて言わないでよ?」


しばらく考えたふりをして、こう答える

あの、路定めし者の言葉を思い出しながらこんなふうに提案してみる。


「ミーラ国城下町に行くのはどうだろう?君のお兄さんもいるし、この村はあの国の管轄。報告も兼ねて行ったらいいと思うんだけど。」


彼は自分の考えを吟味した後、満足そうに頷いた


「、、、なるほどね。確かにそのとおりだ。それじゃ、食べ終わったら支度をしよう。いくら近いとは言え二日三日はかかる。最低限の旅の準備は要るだろう?」


「わかった」


彼の言葉の通り、旅の準備は大切だ。

最低限夜を明かせるよう布類や火打石は要るし、食料も欠かせない。

基本、暗くなったら移動は不可能。その前に寝床は確保する必要がある。


「僕はひとまず食料を調達してくる。君は布類とかを頼んだよ。」


彼に頼まれ、村の中から布類がないか探してみる。

、、、さすがにあれだけの事があったので、なかなか見つからない。

昨日寝るために使った布はあくまで間に合わせのもので、到底旅に耐えられるものじゃない。

頭を悩まして、ふと自分の持ち物をみてみる

、、、ツタツが落とした太いツタ。


細かく割けば繊維になり、布になる。そう昔村の人に習ったのを思い出した。

在庫の数を確認すると十分な量があり、これを使うことにする。


ツタツのツタの皮をはぎ落とし、中の繊維を丁寧に割いていく。

一通り裂き終わったら、先ほど家の中から拾ってきた骨の針でそれを編んでいく。

こう見えて昔からこういった作業は得意な方で、日が暮れるころには二枚分できた。

ちょうど完成するころにトゥセも帰ってきて、布を見せてやる。トゥセは目を見開いて驚き、しばらくきょとんとしていた。


「、、、ハハ、すごいじゃないか。十分使えそうだ。自分もある程度食料は確保できた。今日は眠って、明日の朝出発といこうじゃないか。」


「わかった」



彼の言葉に従って床につく

明日、ついに旅立ちの日。

自分に残っている童心が興味を湧き立てる。


その後


深い眠りの海に沈むことはなく


ただ意識が遠のいていくだけだった。

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