一章 第三話 権利は常に義務と共に







強い

そいつらと対峙して思ったのはそれだった


敵は顔が竜で翼の生やした二本足の兵士が二体。

攻撃はその剣から繰り出される斬撃と、竜の顔から吹き出される火炎の息吹。戦い慣れているとは言えたかが一般的な村人からすれば十分すぎるほど強い相手だ。

傷薬はすでに枯渇し、自分たちは圧倒的に追い詰められる。



「ハハ、、、まさかアークも効かない、なんてね。これ、まずいんじゃないのかい?」


彼はそんなふうにおどけた様子をするが、冷や汗の量から相当焦っていることがうかがえる。

なんせこちらの攻撃がまともに通らないのだ。

明らかに消耗して負ける未来が見えている

悔しさが口の中に血の味として広がる

こんなところで?

たかが、自分たちの幸せを土足で踏み荒らしたような奴らに?


「思った、より、あっけなかった、わね。」


その声は自分に火をつけた


初めて、魔王の手先という存在に憎悪を抱いた


絶対に仕留めると


「その気になったようで?」


気づけば、声が聞こえる

それは、昨日の夢の声

世界の命運を決める声


「勇者としての運命に身を捧げてくださるのでしたら、それ相応の対価を差し上げましょう」


時が止まる中

その声は契約を仕掛ける

その契約は甘く、魅惑の花びらに包まれていた


「さあ、どうします?」


「やってやろう」


自分から強い声が出る

己の憎悪をはっきり自覚して、自分は強く願う


ああ、そうだ

俺は

自分は


勇者


剣に氷が纏う


闇がマントを、覆う


決意がその身を包む


「行くぞ」


呆気に取られたトゥセに声をかけ、立ち上がらせる



「、、、なんなの、よ。正義は、必ず勝つ、なんて言いたいわけ?、、、ほんと、いやに、なるわね。」


クルレアの顔が歪み、それからは諦めと悲しみが訴えられる

しかし、その顔はすぐに戻り、淡い希望にすがるかのように気を律した


「、、、けど、こっちにも、正義はあるの、勇者くん。、、、どっちが運命に、見初められるか、、、勝負、ね。」


勇者としての血肉が騒ぐ

ああ、これか

自分の本能が興奮し

相手を打ちのめせと命令する


運命の鎖を握るのは

この俺だ

他の誰にだって渡してやるものか





クルレアはため息をついてから、先ほどのドラゴソルジャを呼び出す。


「、、、行くわよ?」



クルレアが本を開く。

ページがひとりでにめくれ、

そして彼女の口から言葉が飛び出す



「ルクル」


それは聞き馴染みのある魔法だった

光属性の攻撃魔法

確か、そんな名前であったはず。

にやりと笑い、それをかわす。


反撃と言わんばかりに自分も魔法の名を叫ぶ


「ブルス!」


それは闇の魔法

闇の塊は彼女の身体を蝕み、負傷させ、彼女の顔は普通に歪む。


「イッ、、、アハハ、やっぱり、簡単じゃ、ないよね。ほんと、つまらない。」


ドラゴソルジャーが彼女の命令で息吹を放つ。

トゥセを背中に回し、マントで防ぎつつ様子をうかがう。氷の属性をまとわせれば炎の息吹など無意味に等しい。無駄な行動だ。


「、、、何があったか知らないけど、頼もしいね。」


「任せておけ」




木刀を振るい構え、彼奴等を見つめ直す。


取るに足らない

そう考え魔法を呟く


「グラエスト」


氷の魔法 グラエス。それを範囲化したものだ。


ドラゴソルジャー2体は氷漬けになり、軽く木刀を突き刺せば粉々になって砕けた。


つまらないと感じながらクルレアの方を向き、

またブルスを放つ。

当たった彼女は当然痛そうにし、自分に言葉をかけながら反撃のルクルを放つ。


「あなた、本当に、なんなの?私は、ただ、勝ちたい、だけなの」


そのルクルは痛かったが、自分にとってそれ程度なんてことはない

無言でブルスを放つ


「なんで、あなただけ、神に認められた、ような、ことしてる、わけ?特別でも、なんでも、無いじゃない」


邪魔だと思いより強くブルスを打つ


「なん、なの、よ。」


弱々しくそう呟く彼女に魔法を放っていたら、気づいたら、クルレアは地に倒れ、息絶え絶えになっていた。


「アハ、、、ほんと、つまらない、逆転劇ね。なんで、あなたが、正義、だなんて、、、」



「もう終わりか」


「、、、ほんと、煽るのだけは、上手ね。」


抵抗する余力もないようで、彼女は潔く目を閉じる



闇を纏った木刀が彼女を貫いて、


それは果たされる



霧が発生し、風に流れる


彼女の服はその場に崩れ


それが戦いの終わりを宣言した




光の結晶を手に入れた


戦闘中、彼女が作ってきたものだ


有効活用できるだろう




「終わったのかい?、、、ハハ、昔から君は色々やらかすけど、これまたすごいね。、、、」


「そうか?」


「、、、ハハ。自覚してないなら、末恐ろしいね。、、、今日はもう休もうか。」


「そうしよう」


「、、、何があったの?あの時」


「よくわからない」


「、、、ハハハ、相変わらず、よくわからないことばっかりするんだね、君は」



そう話しながら、焼け残った布や木材を集めて焚き火を起こし、簡易的な寝床を用意する。

寝床に座ると、トゥセが話しかける


「、、、みんな、死んじゃったね。」


「敵は取った」


「、、、そういう話じゃ、無いんだけどね。、、、おやすみ、テスター」


「おやすみ」


寝床に寝そべり、目を閉じる。

意識がゆっくりと遠ざかる


そう


深い深い

眠りの海に



すなわち、契約の間に

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