一章 二節 勇気はすなわち前進への燃料である




怒りに目の前が真っ暗になっている間、トゥセが声をかけてくれる。


「おい!死にたくなきゃさっさと逃げるぞ!」


ひさびさに語気の強いトゥセを目にし、自分はハッと我に返った。

そうだ、自分はこんなとこでのたれ死ぬ運命じゃない。そんなの、自分が許さない。

目をしっかりと前に向けて、トゥセが渡してくれた剣を持って足早に逃げる。

宛になる場所なら、一ヶ所だけある。

洞窟だ。この村には洞窟があり、ひとつの入り口は飛んでもない急勾配、降り方を熟知していなければまず降りられない。

その上、もうひとつの入り口に関しては草むらのいりくんだ場所にあるためそうそう見つけられるものじゃない。

ひたすら洞窟の入り口に向かって走っていると、急に魔物が目の前に立ちはだかる。


魔物の後ろには人影がある。

なんだ、と思うと、その人影は先頭にたち、話しかけてきた

「私は、、、クルレア。魔王軍の、幹部、なの。、、、貴女、ゆうしゃ、でしょ?、、、ころさ、なきゃね。」


彼女が手を出すと、魔物たちが襲ってくる。

しかし、魔物たちは到底自分たちで倒せるような相手じゃない。本能に従がってがむしゃらに逃げる

こんなとこで死にたくない

死んでたまるか

必死にもがき続け、洞窟に向かって足を運ぶ。


「絶対、、、にがさ、ないで。」


彼女の声と共に魔物たちも全力でこちらを追いかける。


自分は間に合いそうだが、肝心のトゥセが自分の後ろにいる。

一瞬、トゥせが躓いた


「危ない!」


声よりも先に手が出た。

トゥせの手をつかみ、体勢を立て直してやる。


「大丈夫か」


「ハハ、助かったよ」


急勾配を滑っていけば洞窟の最奥。

さすがに追ってこないだろう。


「にが、した、の?」


後ろからは、どんどん小さくなっていくクルレアの声が聞こえる。




暗い洞窟の奥に、ベッドとタンス、机、そして小さなランタンがあるのはよくよく考えたら不思議だ。

しかし、ここは自分たちが大昔に作った秘密基地。

小さい頃に作ったにしては、上出来な方だ。


タンスには、昔自分が置いておいた傷薬数個が入っていた。

昔の自分に感謝し、回収する。


「、、、さて、どうする?まずは、洞窟をでないと。」


「出発しよう」


「、、、ああ、そうだね。」



暗い洞窟に、間に合せの松明がひとつ。

ただ、それでも不思議といける気がする

心の奥底にわいてくる勇気を燃料に、少しずつ前に進んでいく



わずかな明かりを灯した部屋を離れ、洞窟の探検を始める。

相当久しぶりで、自分たちもどこが出口が覚えていない。

それでも、ちょっとずつ前進していく。



カサリ、と怪しいおとがする。

聞き覚えのあるその異音に、自分たちは顔を見合わせる。


「構えて」


トゥセの声にしっかりと自分も答える


「任せろ」


剣を背中からぬいて、目の前に構える。

単なる木刀だが、昔と同じように手に馴染む。トゥセも昔から使っているナイフをしっかりと握りしめ、戦闘体制に入る。


カサリ、と言うおとが次第に大きくなっていく。

そして、、、遂に魔物たちは現れた



子供の頃から、この洞窟には野生の魔物が沸いていた。ずっと洞窟にいた時すらある自分たちからすれば、ある意味日常茶飯事だ。


敵の種類、数をしっかりと見極める。


襲いかかってきたのは3体。

粘性体の魔物のスライム、コウモリの羽に鳥のくちばしを持ったバードット、そしてツタが龍のように飛び、とぐろを巻いた、ツタツだ。

自分たちはニヤリとして迎撃作業に移る。

全員、慣れてしまえばただの雑魚に等しいような奴らだ。

トゥセが先攻で一番厄介なバードットに攻撃をヒットさせる。バードットはそのまま地面に倒れ霧となって消えていく。

次に対処するのはツタツ。

こいつも一度自分が剣で斬り伏せてしまえばすぐに倒れ、塵になる。

後は突進してもろくにダメージを与えてこないスライムだけだ。一度体当たりを食らったが大したダメージではなく、その後の隙にトゥセがナイフを突き立てるだけで戦いは終わった。

ふう、と一息ついた後に、落としていった素材を回収する。

魔物は、必ず倒すと素材を落とす。

スライムならやや粘り気のある水。バードットならコウモリの羽。ツタツなら丈夫に出来たツタだ。

拾ってなにになるか?

世の中の様々な製品は、実はこういった素材から作られている。

だから、こういった素材を売れば多少なりとも金になる。

この村にはもう住めないだろうが、少なくとも金は必ず必要なはずだ。それならば、少しでも集めておいた方がいいだろう。


ひととおり回収したところで、また先へ進む。

当然、またしばらく歩いていれば物音と共に魔物が現れる。

四足歩行の小動物のようなケルモット

顔が悪人のように見えるイモムシのワルム

七体まとまって出てくるモグラック

敵の種類だけはいっちょまえに多かったが、全員大したことの無い奴らだ。

多少の傷は出来たものの、少しずつ上に上がれている。

戦いの勘を取り戻して来た頃だった。トゥせがアーク、、、水の魔法を使えるようになった。

「、、、まさか、今更使えるようになるなんてね、、、まあ、ありがたく使っていこう。」


「ああ、頼りにしてる」

そんなふうに話していると、ようやく、出口の光が見えた。


「ハハ、、、ようやくだね。早くあがろう。」


「ああ」


出口に向かって歩いていき、ようやく見れたのは夕日だった。

五、六時間ほど中にいたことになるだろう。

ようやく外に出れたことに、気が緩みきっていたところに、突然自分に向かって矢が放たれた。


ふりかえると、そこにはクルレアと配下たちの姿。

戦闘は避けられる様子もない。


「ずいぶん、手こずらせてくれた、わね。」


息のあがっているようだ、、、疲れたのだろうか。


「、、、さぁ、、、さっさと、殺し、なさい。」


魔物二匹がこちらに剣を向けて、襲いかかってくる。

本当に面倒臭い奴らだ。

剣を抜いて、迎撃体制にはいる

まだまだ戦いは終わらなそうだ

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