責業の旅
焼き鳥
一章 第一節 すべての道はここから通ずる
雲がかかっておらず、月明かりが部屋の中を照らす。その光はいつもにまして神々しく、何か、いつもと違うような感覚になった。しかし、それはどことなく不気味で、何か嫌な、予感がした。けれどその違和感は意味の無いものであり、単なる直感にすぎない。
今日は、もう寝よう。どうせ、疲れているのだ。
そう思いベッドに横たわり目をつぶる。
意識が遠ざかっていくにつれて、何かに沈んでいくような感覚に陥る。
深い深い眠りの海に
自分は溺れていった
気がつくと、自分の知らない場所だった。
空間がすべて漆黒であり、空間から立体感が消える。振り替えると、この真っ暗な空間には似合わないほど白い円卓とひとつの椅子。その奥には大時計があり、針はすべてゼロを指していた。
戸惑いながら、辺りを見回していると、パチン、と音がなり円卓の上にティーポットとカップが突然現れ、白い椅子が座りやすいように引かれる。
座れ、ということだろうか。
ひとまず座ってみることにする。
席に座ると、ティーポットがひとりでに浮いて、カップには暖かいお茶が注がれる。
飲め、と言わんばかりにカップを目の前に置かれる。
誰もいないところに一礼して、注がれた紅茶を啜る。不思議なことに体が暖まる感覚はなく、逆に何かが抜き取られ、冷えるような感覚を覚える。
気付くと、目の前には男が立っていた。
青を基調とした礼服を身に付けており、髪は黒で短く切って七三分け。
なにやら堅苦しい印象を受けた。
男がニヤリと笑うとその口を開き、喋り始める。
「お初にお目にかかりますね、、、勇者どの。」
「何者だ」
しばらく間が空いて、自分の声が出る。
「ああ、名乗っていませんでしたね。私の名はございません。ただ、路定めし者、という肩書きが与えられし者です。どうぞお見知りおきを」
「ここはどこだ」
「あなたの夢の中です。夢の中に入られるのは不快でしょうかね?、、、そういえば、あなたの名を伺っていませんでしたね。教えてくださいますか?」
「テスター·クロノ」
「、、、そうですか。良い名ですね。、、、まさに、勇者でしょう。」
「勇者ってなんのことだ」
「そのなのとおりでございます。あなたは私に選ばれ、勇者として覚醒したのです。非常に、非常に喜ばしいことです。」
「意味がわからない」
「フフフ、、、今はそうでしょう。ですが、あなたにはいずれ理解が出来るはずです。、、、そろそろ、夢が醒めるころです。最後に、ひとつだけ忠告しておきます。明日は、覚悟をして過ごしていただきたい。」
「なんのことだ」
「それでは、ごきげんよう。また近いうちにあうでしょうから、、、」
視界がフェードアウトし、意識は再び眠りの海に溺れていった。
「、、、き、、、きな、、、、起きなよ、、、」
誰の声だろうか
ゆっくりと目を開けると、そこには見慣れた顔が移っている
「、、、ハハ、ようやくおきた?いつもお寝坊さんだね、テスターは。」
「おはよう」
「、、、まだ寝ぼけてそうだね。しばらく風にあたってきたら?」
「そうする」
自分はベッドからあがり、服を着替える。
なんだか、頭がボーッとする。理由をぼちぼち探っていると、昨日の不思議な夢を思い出した。
、、、なんだったのだろう。
けど、所詮は夢。
別に、関係ないはずだ。
気持ちを切り替え、寝ぼけた頭で少しずつ状況を整理する。
起こしてくれたのは幼なじみのトゥセだ。
自分も彼も、小さいときに両親を無くして、今は一緒に暮らしてる。仲は、、、いい方だと思う。小さい頃からずっと一緒にいたし、ほとんど兄弟のように過ごしていた。
外に出ると、まぶしい太陽がでむかえてくれた。
いい天気だ。
近所のお隣さんがいるため、声をかける
「おはよう」
「あら、おはよう。テスター。今日も遅かったわね」
「すいません」
「いいのよ。いつも頑張っているでしょう?たまにはちゃんとお休みしてね。」
気さくな人だな。
相変わらずそう思って、辺りを散歩する。
小さな村だが、野菜もいっぱいとれ、静かでいい場所だ。生まれも育ちもここで、他の町や城下町にいったことはほとんど無い。しかし、この村に閉塞感を感じるわけでもなく、本当にいい場所だな、としみじみ感じる
目が覚めてきたところで、トゥセが駆け寄ってくる。時刻を見ると、すでに十時。いくら遅くともそろそろ仕事をする時間だ。
「どう?スッキリ目覚めたかい?」
「バッチリだ」
「ハハ、ならよかったよ。それじゃあ仕事始めようか。」
「了解だ」
自分たちの仕事は単純で、畑作業だ。
そこそこの広さのあるこの畑を耕し、種を植え、水をまき、収穫する。
毎年やっていることだけど、なかなかこの肉体労働はつかれる。
だから、自分たちみたいな若者がそれを行ってる。
桑を突き立て、畑を耕していく。
ちょうど、半分ほど終わっただろうか。
ちょうど時刻もお昼頃になったので、昼食をとりに家へ戻ろうとしていた。
「今日の昼食は何にしようか?」
「まだ考えが浮かばない」
「ハハ、そっか。、、、お兄さん、今頃何しているのかな」
トゥセには、四つ上の兄がいる。
彼の兄はとても無口だったけど、面白くて、何よりトゥセを溺愛していた。
2年前、より安定した稼ぎ場所を探して王国にいったとき、たまたま兵士になることが出来た。
それからは、週にいっぺんしかこの村帰ってくるだけだ。彼が寂しそうにするのも、しょうがないだろう。
「早く帰ってくると、、、」
そう言おうとした時だった。
村の入り口から爆音と悲鳴が聞こえる。
すぐさま振り返り、村の入り口を見ると、そこには始めてみる異形の姿があった。
異形の魔物たちは自分たちが呆気にとられているうちに次々に村人を殺害し、家が焼かれている。
昨日の夢が脳裏をよぎる
まさか
覚悟とは
この事だったのか?
その想像はあまりに苦痛であり、自分の脳を破壊するに十分だった。
自分に項垂れた自分の脳は、
はっきりと復讐の緋色に染まっていた
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