第4話
オレはうろたえる。なんでこの世界に妖精のチャッピーがいる。しかもちっちゃい。オレの知ってる妖精のイメージ通りだ。オレが動揺して黙り込んでいるとチャッピーは話しかけてきた。
「ねえ、なんで黙ってんの。しゅうにい」
しゅうにい?
オレをしゅうにいと呼ぶのは麗ちゃんだけなんだが、麗ちゃんか?
麗ちゃん、妖精に転生したのか?
「しゅうにい、何ニヤケてるの。あたしはその女の人じゃないよ」
その女の人?
「あたしは妖精だからね。見えるの。聞こえるの。あ、勘違いしないでね。そこにいるわけじゃないから」
さっぱり意味がわからん。
チャッピーはさらに話を続ける。
「人の想いはねえ。肉体がなくなったって消えないんだよ。その女の人の想いがしゅうにいの周りにいるんだよ」
「麗ちゃん、麗ちゃん。出てきて。オレはオバケは嫌いだけど麗ちゃんはオバケじゃないから大丈夫だよ」
「だから、そこにはいないって!!」
バカは二千年経ってもバカである。
「あのね、魔界の裂け目って言ってたよね。あたし知ってるよ。だけど、しゅうにいじゃ行けないよ。泉の底だから」
「フッ、チャッピー君。君もまだまだだね」
クズに見下される妖精って。
「君には鏡に映るオレの姿が見えないのかい」
「見えるよ。人間っぽくないなあと思っていたけど、しゅうにい人間じゃないんだね」
失礼な妖精だ。
オレは立派な人間だ。
いや立派じゃないけど。
「で、どうやってその姿になるの?」
チャッピーは痛いところをついてくる。
「それは」
オレが言葉に詰まっていると、男竜が口を挟んできた。
「それはな。双竜となって魔界の裂け目まで行って、そのまま魔界に帰ればいいんだよ」
なんで、オレが魔界に帰るんだよ。
魔界の裂け目を塞ぐだけでいいんだって。
魔界の裂け目って、どうやって塞ぐの?
「男竜さん、魔界の裂け目ってどうやって塞ぐんですかね」
人にものを聞く時は丁寧にね。
男竜は人じゃないけど。
「こっちからでは塞げない。そんなことも忘れてしまったのか」
「でも、大昔神々は魔界の裂け目を塞いだって聞いたぞ」
「あ〜〜。ハイル神のことだな。あいつが魔界に行って向こうから塞いんだよ」
「そのハイル神はどうやってこっちに戻ってきたんだよ。お前いい加減なこと言ってんじゃねえぞ」
「うわあ〜、怒んないでくれよ。こっちに戻ってこれるわけないだろ。でも、今回は魔界に帰るだけだから」
いや、だから。
なに帰るの前提で話してんだよ!!
「もう、お前の話はいい。チャッピー行くぞ!!」
オレは男竜を置いて、リセット。
喋る木が現れるくらいを目指す。
「何だこりゃあ!!」
魔界!!
いや、オレは行ったことはねえけど魔界だ。
ここが魔界じゃねえんだったら、どこが魔界だって言うんだ。
「あれれ、大変なことになってるねえ」
チャッピーが言うと、そうでもないがかなりヤバいって。
この能力まだ安定してねえのか。
リセット!!
目の前に男竜。
「お前、そんなに力を使ったら」
男竜の警告も聞かずに、ふたたび現実世界へ。
魔界。
しかも、さっきより魔物が増えてる。こうなったらこの能力が安定するまでリセットだ。
「だから、お前じゃ魔王バルバロには勝てねえって言ったろ。現実世界を魔界にしたのはお前の愚かさだよ。大丈夫だ。俺様と融合すれば魔王なんぞどうとでもなる」
オレはドルゲードの言葉を無視して現実世界へ。
ダメだ。
どんどんひどくなっている。
オレのせいで。
オレのせいで。
「ダメだよ。しゅうにい。飲まれちゃ。しゅうにいがいなくなったら希望の光が消えちゃうんだよ」
チャッピーの叫びもオレには届かない。オレのせいで。オレのせいで麗ちゃんの世界を魔界にしてしまった。
オレはチャッピーを投げ捨て、覇王ドルゲードの元へ。
オレは覇王ドルゲードに頭を下げる。
「麗ちゃんの世界を元に戻してくれ。オレはどうなってもいい」
「すべてオレに任せておけ。お前はゆっくりしているといい」
ドルゲードがそう言うとオレの意識はだんだん。
「周総統、周総統!!」
聞き覚えのある声で目覚めた。
海秀!!
「お初にお目にかかります。海秀と申します」
「海秀、冗談はよせ。何度も会ってるだろ」
「それは朗報です。私は周総統のために働けているのですね」
海秀がわけのわからんことを言う。
「海秀、今そっちへ行く」
そう言ったオレの手に冷たく硬い感覚。ガラス?
「おい、海秀。なんでここにガラスがあるんだ」
「周総統、周総統は身写しの鏡に封印されているんです」
鏡に封印?
「ここに到着するまでに時間がかかってしまいました。必ずや周総統をここから救出してみせます。たとえこの身が朽ち果てようとも」
海秀が涙ながらにオレに言ってくる。
「それで外の状況ですが、千年前の魔力流入事件は周総統が魔界の裂け目を塞ぐことで魔力の流入を止めることに成功しました」
「でも、魔界の裂け目を塞ぐのは向こう側に行かきゃできないと聞いたぞ」
「ですから、周総統が自ら魔界に赴き塞いだことになっています」
「オレには心当たりがないんが」
「覇王ドルゲードの仕業です。その後、その功績を独り占めにして人間界を統一したのです。周総統になりすまして」
「それはオレが頼んだことだから問題ではないが、お前は今人間界って言ったよな。どういうことだ?」
海秀は涙ぐみ、ふたたび話しはじめた。
「魔界の裂け目を塞ぐことに成功したのですが、多数の魔物のほか魔王バルバロ自身もこちらに残ってしまい、魔王軍と覇王軍で戦いをしています。あれから千年経っていますが雌雄は決していません」
海秀の報告を聞くうちに昔疑問に思ったことを海秀に投げかける。
「君も流星の涙の能力者なのかい?」
「いえ、私など流星の涙の能力者になれるわけがございません。現在、外の世界は人間でも魔法が使えるのです。私はタイムトラベルができる魔法を使えるだけです」
人間で魔法が使える時代がくるとはね。
「海秀、もうオレにこだわる必要はない。君は君の人生を生きろ」
オレは海秀に本音をぶつける。
「いえ、宋麗様からの直々のご依頼ゆえ、たとえ周総統にそのように言われても。ここにくる前に宋麗様にお会いしてきているのです」
「宋麗はなんと?」
「死んでも周総統を救出せよと。私もそのつもりでしたので非常にありがたいお言葉でした」
それは言葉のあやでしょ。
いや、麗ちゃんなら本気で言ってもおかしくない。
オレは三千年前の海秀とのやり取りを思い出せる限り話した。海秀は宋麗からも情報収集していため、あまり意味はなかったのだが。
それからも海秀はことあるごとに鏡の前にやって来てはオレの退屈を紛らわしてくれた。海秀ももう寿命が尽きるのだろう。最近ではめっきり老け込んできた。もってあと一年かな。
「周総統、あともう少しでございます。ご辛抱くだされ。あともう少し」
その日を最後に海秀は現れなくなった。安らかに眠ってほしい。
気になっていたことがあるが、今となっては海秀に聞くこともできない。一つは海秀が身写しの鏡の前にこれた手段。もう一つは海秀が最後まで口にしていた流星の涙の行方。
オレが考えても仕方ない。このまま朽ちることなく封印されているだけなのだから。
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