第3話
オレはあれから毎日この森に来て魔力を探している。
魔力って一体なんだよ。見えるもんなのか。そういえば最近は体調よくねえんだよなあ。今日は早く帰って寝よう。
本当に残念な男である。
不老不死のお前が体調悪いわけがないだろ!!
「あら、あんた。今日は早かったのね」
すっかり女房気取りのエイミー。
オレの女房は生涯麗ちゃんだけ。
オレは黙ってベッドに入った。
「つれないねえ。あたいがあっためてあげるよ」
そういうのは麗ちゃんしかいらないので。
本当に。
ここは宿屋のオレの部屋。でも、この街はエイミーが仕切っているので不法侵入しまくり。
いっそのこと時の部屋で寝ようかな。
いきなりドアを乱暴に男が入ってきた。何度も言うがここはオレがとった宿屋の部屋。間違いなくオレの個室のはず。なんか自信なくなってきた。
「エイミーさん大変だ!! クインの村が魔物に襲われた」
うんうん。
大変だよ。
オレの個室も今襲われてんだよ。
オレはクインの村に向かっている。今回はエイミーの車の助手席だ。前回は失敗した。あんなに身体を密着させたら、そりゃ女も勘違いするよな。オレは麗ちゃん一筋なんだから、他の女に勘違いさせる言動は絶対ダメだ。
「あんたさあ、本当いい男だねえ。そろそろあたいだけの男になってもいいんだよ」
エイミーだけのものではなく、そもそもオレは麗ちゃんのものだ。
間もなくクインの街というところで砂煙が多数上がっている。
「じゃあ、行ってくるよ」
「いってらっしゃい。あんた」
オレは砂煙に向かって飛んでいく。
うんうんうん。
このくらいなら楽勝だ。
楽勝だが、今回は魔物を駆逐するだけではダメなんだよ。
オレは流星群で魔物の群れの機先を制して、魔物の群れの前に立つ。
「ハイハイ、今回は先着十名様限定でええす。双竜の下につきたい魔物さんはこちらにお並びくださあい」
オレの今回の作戦は下手に出る。
二千年経ってもバカはバカなのである。
オレの勧誘に対して魔物たちはブチキレている。いい条件出すんだけどなあと思いつつ、魔物たちを駆逐していく。
あ〜〜あ、最後の一匹だよ。
「わかったよ。あたし、あんたに協力するよ。だから、命だけは助けてください」
あれ、こいつなんの魔物なんだろう?
オレが頷くと、そいつは自己紹介してきた。
「あたしは妖精の魔物。チャッピー。よろしくね」
妖精って?
オレはチャッピーを連れて宿屋に戻ってきた。もちろんエイミーももれなくだ。
「まずはだ。魔物がどこからくるのかが知りたい。チャッピー、お前心当たりないか」
オレはチャッピーに今一番知りたい情報を単刀直入に聞いた。
「あたしはもともと森の泉の妖精だったんだけど、気づいたら魔物になってたの。みんながどこから来たかはわからないけどあたしがいた泉なら案内できるよ」
森の泉の妖精?
この世界にもそんな存在いたんだ。
「チャッピー、あんたチャッピーなのかい。あたしだよ。エイミーだよ。忘れちゃったの?」
誰にでも馴れ馴れしいエイミーである。チャッピーはエイミーのことを凝視する。
「ごめん。妖精の時の記憶がほとんどないんだ。あたしと遊んでくれたの?」
エイミーは残念そうにうなだれる。
記憶。記憶。記憶。
なんだろう。
どこかで聞いたような。
まあ、忘れるくらいだ。
大した話じゃねえんだよ。
「じゃあ、その森の泉に行ってみるか」
オレは本題に戻す。
ふたたびエイミーの車だ。チャッピーは妖精といってもそんなに小さな妖精でもない。見たところ五、六歳くらいの女の子って感じだ。魔物と言われないと魔物と認識できないと言っても過言ではない。
「チャッピーはどのくらい前に生まれたの?」
話題に困ったオレは禁断の話題に踏み込む。
「へへへ、あたしは三百年くらい前だよ。ビックリだよね」
「チャッピーおっとなあ!!」
エイミーはわけのわからんリアクションをする。
そうだな。この話題は絶対ダメなやつだった。昔、麗ちゃんにお説教されたっけ。
オレたちはチャッピーの泉に到着した。先日の喋る木とは目と鼻の先である。なんだろう。極小の魔物みたいなやつがうようよしていて気持ち悪い。別にこれがデカい魔物になるわけではないので、そのままにしておく。
「ここがあたしの家。泉全体が私の家なんだよ」
チャッピーがそう言うと、エイミーが寂しそうにつぶやく。
「知ってるよ」
オレは気付かない振りをして話進める。
「どうやらこの近くに魔界の裂け目があるとみていいようだね」
エイミーは気を取り直して、こう言った。
「でも、その魔力っていうのは見えるのかい」
あれ、なんだろう。
この違和感。
この泉って、こんな色だっけ。
「魔力は多分見えないと思うよ」
チャッピーは即答する。
泉の住人が見えないって言うんだから、オレの勘違いなんだろう。
この森は泉を中心として成長しているという伝承があるとエイミーが言っていた。チャッピーはその象徴なのだと。そのチャッピーが魔物になるほどの魔力が流入しているということか。
「とりあえず手分けをして探そう。見えないのであれば仕方ない」
オレはそう提案する。
オレの気の力で魔界の裂け目を探せないものか。
しかし、なぜだろう。この泉から目が離せない。
人の住処を疑うなんてクズだよな。
宋麗に嫌われる。
ここでないとすると、あの喋る木があった辺り。
ん? なんだ。
牛?
なんで。
泉から牛がわいてくるんだよ!!
その後、鳥やら犬やらわいてくる。とりあえず、オレはそいつらを拘束する。動物愛護団体が見たら大炎上だ。まあ、どうみたってこいつらは魔物だ。だって、喋っているからね。今のオレの中では喋る動物は人間か魔物か男竜ぐらいだ。
今回のオレの作戦はこうである、基本的には前回と一緒。ただし、オレは今回双竜の代理人。そう、代理募集である。派遣法に引っかかるとかそういうのは関係ねえ。こいつらは魔物だからね。
「はああい、みなさん。聴いてください。ほらほら、そこ喧嘩しないの」
こいつら、所詮畜生だ。
大人しくしろと言って、大人しくなるわけがねえ。
「今回は男竜さんからの依頼で男竜隊を募集することになりました。みなさんは晴れて男竜隊の隊員に選ばれました。これは大変栄誉なことですよ。みんなで頑張りましょう」
最初の頃は大人しく聞いていたが、途中からぶうぶうと文句を言い出す始末。
仕方ねえ。
やるか。
どうせ、麗ちゃんは見てねえんだ。
クズっても問題ねえだろ。
「は~~い、一列に並んでください。これからみなさんに一つだけ質問していきます。答える、答えないはみなさんの自由です。では、質問です。この泉の底に魔界の裂け目はあるかなあ? では、右の魔物さんから張り切って答えてもらいましょう」
鳥、答えず。
気でぶっ潰す。
豚、答えず。
気でぶっ潰す。
「おいおい、旦那。おいら答えるよ。この泉の底に魔界の裂け目があるんだよ。助けてくれ」
カバの魔物が答えた。
「ハイハイ、残りのみなさんもそれでいいですか?」
残りの魔物もみんな頷く。
よし、場所は特定できた。
あの喋る木の前までリセットだ。
チャッピーの記憶がなくなる前にね。
オレはリセットした。そうそう、お前がいるんだよな。
「おい、本当に魔王バルバロと戦う気か? 一度勝負がついた相手だぞ。やめろ、いややめようよ」
相変わらずのクズ竜だ。
クズと付き合うとクズになる。
昔死ぬほど聞いた言葉だ。
そう言ってみんなオレの前からいなくなった。
あれ、麗ちゃんと会ってから、なんか人が寄ってくるようになった。
気がするだけか。
しかし、このクズ竜はよく喋る。
よくこれだけクズみたいなセリフが出てくるなとある意味感心するぐらい。
オレは身写しの鏡の前へ。
あれっ、チャッピーがいる。
鏡の中の女竜の肩にチャッピーが座っている。オレがチャッピーを凝視するとチャッピーは手を振る。ちなみにこのチャッピーは明らかに魔物ではない。
ん?
女竜の肩に座っているって。
まさかオレの肩に座っているわけがねえよな。
うわ〜〜。
小さなチャッピーがオレの肩に座っている。
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