第2話

 オレは今、エルブラン国の首都クエンタにいる、まずはこの国のどこで喋る木が発見されたかだ。情報収集といえば酒場と昔から決まっている。もっとも、ここでいう昔とは二千年前からみての昔だ。オレは酒を注文しマスターに話しかける。


「そういや喋る木が発見されたらしいじゃねえか。どこでだい?」


マスターは首を振る。


分かったよ。

酒一杯じゃあ教えてくれねえか。

オレは少なくない金をカウンターに出して、もう一度聞く。


「喋る木はどこで見つかったんだい?」


マスターは金を受け取り、奥の部屋を指差した。まあ、誰がきたってオレにはかなわねえだろと思いながら、オレは奥の部屋に入った。


その部屋には一人の女がいた。女はオレに気づくと話しかけてきた。


「はじめまして。あたいはこの街を仕切っているエイミーだよ。あんたこの辺じゃ見ない顔だね」


「エイミーさん、はじめまして。シューティングスターと申します。はるか東方の街城陽を根城にしているものです」


嘘はついてない。

嘘はだ。


 エイミーはオレを一瞥して話を続ける。


「城陽かあ。随分遠いところから来たね。貿易かなんかかい。あんた。うん。悪くない。あたいの男になるんだったらいくらでもいいよ」


そんなこと言われてもねえ。

オレは宋麗に操立てているからねえ。


「姐さん、そういうんじゃないんですよ。喋る木の情報を知りたいだけなんですよ」


「喋る木でもなんでもいいよ。あたいの男になるんだったらいいって言ってんだよ」


「姐さん、勘弁してくれ。操立てた女がいるんだよ」


「それでもいいよ。で、その女はどこにいるんだい?」


「もう亡くなっているんですよ」


「へえ、亡くなった女に操立てるか。ますます気に入った。何年前に亡くなったんだい」


「そうですね。もう二千年くらい経ちますかね」


「はあ」


そりゃそうだ。


「そうかい、二年前ってことかい。まだ、忘れられないくらいのいい女ってことだね」


いや、だから二千年前だって。

いい女っていうのは合っているけど。


「いいよ。ついてきな」


エイミーはオレを裏口に誘う。


え〜〜い。

もういい。

最後は土下座だ。

どうせクズなんだから。なんでもやってやる。

オレは生涯、麗ちゃん一筋だ。


裏口に行くとオープンカータイプの車がおいてあり、エイミーはすでに運転席に座っている。


「早く乗りな。女に恥かかせんなよ」


いや、オレはクズだから。

いくらでも女に恥かかせてやる。

場所を教えてくれれば飛んでいくのに。


「姐さん、オレ飛べるんですよ。飛んでいくんで。場所だけ教えてもらえないですかね」


「あんた、本当に面白いねえ」


オレはエイミーを抱き寄せて勢いよく踏み込み、一気に跳び上がる。そのまま上空へ。


「喋る木はどっちの方向ですか?」


「あんた、本当にいい男だねえ。惚れちゃうよ」


だから、本当そういうのはいいから。


失敗した。失敗。失敗した。

あのまま、車で行けば良かった。

この体勢はこの女の思う壺だぞ。


「あんたが昔の女に操立てるんなら仕方ないねえ。あんたの気が変わるまで待つよ。あっちだよ」


オレはエイミーが指差す方向に飛んでいく。


「あ〜〜ん。そこじゃないわ。もっと、む こ う」


こいつ、わざとやっているんじゃねえか。


「あ、そ こ」


エイミーが指差す方向には森が広がっている。そう、森が広がっているのであるが、言い方ってもんがあるだろ。



 オレとエイミーは一本の木の前に立っている。オレは二千年間、そんなにやることもないため様々な国の言語を習得した。そのおかげでエイミーとも普通にコミュニケーションが取れている。取れているのであるが。


「おい、お前。そんなブス連れて恥ずかしくねえのか」


そう、木とコミュニケーションが取れるような言語は習得していないはずだが。


「気味悪いね。何言ってんのか分からないよ」


エイミーが喋る木を気味悪っている。


知らぬが仏というからね。

ここは黙っておこう。


「ところで、君は魔王バルバロって知ってる?」


喋る木は黙り込む。


「あんた、何言ってんのさ。あたいにも教えてくれよ」


エイミーがオレにせがんでくる。だから、オレの身体触んじゃねえよ。触っていいのは麗ちゃんだけなんだよ。


「おい、何黙ってんだよ。燃やすぞ、コラ!!」


昔は何度も言ったセリフだが、本当に燃える相手に言うとは。長生きするもんだ。


「あんたなにもんだ?」


喋る木が言う。


どうすっか。

そうだ。

あれにしよう。


「オレは女竜だ。バルバロの野郎においていかれた双竜の片割れだよ。バルバロはどこだって聞いてるんだ。早く吐けよ」


相変わらずのクズである。


「そんなわけないだろ。お前、人間じゃねえか」


「おいおい、オレが人間だって。よく見たほうがいいぜ。次、答え間違えたら本当燃やすぜ」


「ねえ、あんた。さっきの謝るからさあ。教えておくれよ」


「魔界語が喋れたってね。双竜様の名を騙る奴に教えてやることなんかねえんだよ」


そう喋る木が言ってきた。

オレの中で何かがキレた。


「エイミー、こいつ。そんなブス連れて恥ずかしくねえのかって言ってんるんだけど燃やしていいかい」


うわっ、空気が変わった。


「へええええええええ。こいつ、そんなこと言ってたのかい。あんたの手を煩わせないよ」


その日を境に喋る木の噂はプツリと途切れた。



失敗した。

情報がなにもなくなった。



 オレは喋る木付近を散歩がてら捜索している。何をって。ドルゲードの話の中に出てきた魔界の裂け目だよ。まったくわからん。

何がどうなると木が喋ったり、動物が魔物になったりするんだろうか。原因があるはずだ。

ん、そういえば。

あいつがこの件に関して詳しいはずだが、とにかくウザい。二千年ぶりに会ったけど変わらんかった。


でも、背に腹は代えられない。

ええい、リセット!!


えっ、違うじゃねえか。

今回、なんかおかしいぞ。

なんで時の部屋なんだよ。


ん?

なんか椅子の上に置いてある。

怖え。

ひょっとして二千年前から置いてあるってこと?


オレは椅子の上にある手紙の封を開けた。送り主は宋清だった。そういえば、鏡の中に引越して以来、会っていない。


『 ま り ゆ う 』




って、おちょくってるんかい。

義兄だからって、舐めやがって!!


オレはふたたびリセット。

元に戻ってきちゃったよ。

なんか今回はリセットが安定しない。


ん?


そんなことはない。

前回も安定なんてしてなかった。

今回に限ったことではないのだ。


 オレは前回同様森の中を捜索している。しかし、頭のいい宋清がまったく意味のないメッセージをあえて時の部屋に残しておくか。あの生真面目な宋清が遊び心であんなメッセージを置くわけがない。あのメッセージ自体に何か意味があるのかも。


まりゆう。まりゆう。まりゆう。


さっぱりわからん。


「ねえ、あんた。さっきから、何一人でブツブツ言っているのよ」


そう、ここに戻ってきたらエイミーが一緒にいたのだ。昔なら宋麗だったのに、はあ。そう言えば、宋麗の前でため息ついて説教されたっけ。


「昔の女の名を呟いていただけだよ」


相変わらずのクズである。


「それでもいいよ。あんた、あたいが忘れさせてあげるよ」


いや、麗ちゃんを忘れるくらいなら死んだほうがいい。




わかっちった。

魔力だ。

オレって天才!!

宋清はバカだから間違えたんだ。



バカは二千年経ってもバカである。

まりゆう。魔竜以外にないだろ!!



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