第二部 魔力流入事件

第1話

 建国式典の後、オレと宋麗は結ばれ三年後結婚をした。その後、円満な家庭生活を送り一男二女の子宝に恵まれた。宋麗もオレもわかっていたことだが、オレはあの時の姿のままだ。宋麗は一人で逝くのはやだよと最後までオレを困らせたが、八十三年の生涯をとじた。オレは宋麗を幸せにできたかは自信がない。それから、あれ以来リセットは封印している。もちろん時の部屋も時の狭間にも行っていない。覇王ドルゲードもあれ以来オレに接触していない。オレの仕事は共和国総統のままだ。共和国なのにずっと総統が一緒なのは気になるが、海秀の話だと三千年後もオレは総統らしい。そう言えば海秀もあれ以来見ていない。あの半年は異常だったのだとオレは思っている。子供たちも他界し、その後孫たちも他界する中オレ一人が残った。


 そして、事件は起きた。あの革命から二千年近く経過したある日のこと。ある情報がはるか西方の国から届けられた。まさかこの国、いやこの世界の未来を変えてしまうことになろうとはこの時は誰にも予想がつかなかった。後の世に言う魔力流入事件である。その情報とは木が喋り始めたというものであった。作り話にしては稚拙すぎる。それから三年後、この影響がこの国にも影響してくることになる。

 この国の西方にはウルファイ国という同盟国がある。この同盟国から急報が届いた。西方の国から魔物が大群で押し寄せてきており被害が甚大であると。そこで同盟国であるこの国に援軍要請をしてきたのだ。おいおい、魔物って。ここはファンタジーの世界ではなく、現実世界なんだぞと心の中でツッコミながらオレは千の援軍を差し向けた。

オレは行かないのかって。魔物の大群が襲ってきたって言われてもねえ。


 ウルファイ国での魔物討伐の結果は惨敗というものだった。この現実世界で本当の魔物だったのだ。

オレは責任を感じあの能力を使う決断をした。そう、リセットだ。


 オレの目の前には細く長い道が続いている。そうだよな。ここにくれば当然あんたがいるよな。男竜である。涙流して喜んでいる。ああ、こうやってこいつの流星の涙は量産されるんだなとオレは思った。


「やっと帰ってきてくれたんだな。本当に嬉しいよ。な、何でもするからな。もうどこにも行かないでくれ」


二千年前と変わらないクズ竜である。逆に嬉しいの一言。

オレは何も言わずに男竜に背を向けて身写しの鏡に向かって歩いていく。当然、男竜もついてくる。


 オレは身写しの鏡の前まで来た。この鏡も女竜も二千年ぶりある。さて、とりあえずウルファイ国から使者が来たところまで戻ろうとすると男竜がオレにこう言った。


「お前、あいつと戦う気か?」


「あいつって、覇王ドルゲードか?」


「違う、お前忘れたのか。魔王バルバロを」


おいおい、魔王って。

こいつ頭おかしいんじゃねえか。


「覚えてねえが覇王じゃなきゃ問題ねえだろ」


オレは男竜を無視して、そのまま現実世界に戻っていった。



目の前にはウルファイ国からの使者。よし、問題なし。二千年ぶりだったから、ちゃんと戻ってこれるか自信がなかった。


「同盟国からの使者殿、大儀であった。オレが直々に行くゆえ貴殿はしばし城陽に滞在されよ」


うっわあ、すげえ偉そう。


ただし、オレがこのセリフを考えたわけではない。宋麗が作ったマニュアルにそう書いてあるのだ。オレはマニュアル人間ではないが、宋麗の言うことには逆らえないのである。まあ、尻に敷かれているというやつである。宋麗の尻ならいくらでも敷かれてやる。


 オレはウルファイ国の上空にいる。確かにオレが知ってる魔物だ。元は普通の動物なのだろう。牛やら馬やらの顔みたいのが頭についている。オレはその魔物の大群の前に立つ。気の障壁を張っているためオレにはその攻撃は届くことはないが、確かに魔法である。オレは魔法なんて実際には見たことはないがね。オレは気の塊をウルファイ国上空に集める。


う〜〜ん。

もうちょい前に戻ってきたほうが良かったかもしれない。

これではウルファイ国にも被害が出てしまう。


流星群で様子を見てみる。どうやらこちらの攻撃も効果はあるようだ。あるにはあるんだが。これ百万とか千万の戦力じゃねえだろ。流星群程度の攻撃では出鼻をくじくのがやっとだ。オレはどうしたもんかと考えながら流星群を連発して魔物の行軍を止めていく。


仕方ねえ。

最初に喋る木のタイミングまで戻ろう。あの時点であればどうにかなるはず。


よし、リセットだ!!


 やはり、久しぶりだからだろうか。ここにくるつもりではなかったのだが、オレの目の前にはドルゲードがいる。いるにはいるが、あの時と同じ体勢のまま固まっている。


固まっている?

今、目が動いたような。

勘弁してくれ。

オレそういうの苦手なんだ。


ここでもう一度リセットをかけても大丈夫なのだろうか。前回はここでリセットをかけて、こいつをこの状態にしたんだぞ。ここでリセットかけたらこいつの封印を解いてしまうかもしれない。



 オレはしばらく目を伏せてその場で考えている。リセット以外にここを出る方法が思いつかないのだ。


「お前、まさか魔王バルバロと戦う気ではないだうな。お前では絶対勝てんぞ」


おいおい、男竜がなんでここにいんだよ。オレは今忙しいんだよ。


「俺様と融合しろ。あいつに勝たせてやる」


俺様?


オレは目を開け、ドルゲードを見る。


「よお、久しぶりじゃねえか」


その言葉はドルゲードの口から発せられていた。


 なんだろ。いきなり語りはじめたドルゲード。目と口だけ動いている。ある意味ホラーだ。


「かつて地上は俺様たち神々が支配していた。ある時、魔王バルバロを名乗るたわけがこの地上に舞い降りたのだ。この地上以外にも様々な世界があり、こいつは魔界という世界から侵入してきたということらしい」


「らしいって、あんたも聞いた話か?」


オレがツッコミを入れるが、ドルゲードはさらに話を続けていく。


「神々は魔界とこの地上を結ぶ魔界の裂け目と呼ばれる場所を塞ぐことに成功したらしい。魔王バルバロを魔界に追いやり、こちらに残る魔物を時間をかけて駆逐していったらしいのだ。ただな、最後に残った双竜が圧倒的に強く神々の叡智を結集しても駆逐できなかったらしい。数万年の戦いの後、双竜を分裂させて男竜を封印した。これが神竜大戦の真実だ。お前なんかでは魔王バルバロには絶対に勝てない。俺様と融合することだけが魔王バルバロに対抗する唯一の手段だ。今考えうるという限定がつくがな」


こいつ相手見て話せよ。

オレがこんな話を理解できるわけないだろ。


「で、どうやって元に戻るんだ?」


「お前、この間自分で戻って行ったろ。その時と一緒でいいんだよ」


やっぱり、それしかないか。

後でもう一度来て、リセットすればいいか。


「そんなことは……」


オレはドルゲードの話を聞かずにリセットをかけた。


 なんかドルゲードがすっごい大事な情報を話していた気がする。


わからん。

まあ、どうにかなるっしょ。


クズは二千年経ってもクズである。



 オレは自分の執務室で座って待っている。もちろん喋る木の情報だ。待っていないで自分で動けというツッコミは承知している。詳しい情報を覚えていないのだ。いかんせん三年前の些細な情報だ。オレが覚えているはずがねえ。


 一人の部下が情報を持ち帰ってきた。


「総統、はるか西方のエルブランという国で喋る木が発見されたそうです。まあ、眉唾ものですが」


「で、エルブラン国のどこだい?」


「そこまでは聞いていないんですが、総統興味あるんですか。詳細については調査隊を派遣して」


「それじゃあ、間に合わねえだろ。オレがエルブラン国に行ってくるよ。後は頼む」


 オレはエルブランに向かう。ここでリセットしてもう少し前に戻ってもいいが、久しぶりなのでこの能力は不安定みたいだ。できるだけリセットしない方針でいく。

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