第22話
オレと宋麗は城陽の街に入った。街はいつもの活気があった。そう、いつもの首都城陽だった。街の人に今日はいつかを尋ねるが、いずれも答えは八月十二日。オレが想定した通り。ただ一つ違うのは首都城陽に友軍が到着していないことだけ。
しばらく宋麗と城陽の街を歩いていく。宋麗はウキウキだ。こんな五十歳独身男と街を歩いていて何が楽しいんだか。
さてと、確認したいことができた。友軍が城陽に入城していないとすると、この国はどうなっているかだ。オレと宋麗は政府官邸に入っていく。衛兵たちは敬礼するばかりで誰もオレたちを止めようともしない。
「やあ、楽ちゃん。遅かったじゃないか。宋麗も久しぶりだね」
ニセ宋清が現れた。
あれっ?
オレはそいつを見て思う。
こいつ、田勇雷ではない。
オレが最初に会ったニセ宋清だ。
おそらく張白だ。
「周兄、こいつニセもの。宋兄は私を宋麗なんて呼ばない」
そう呟いて、オレの背中に隠れる宋麗。
「何だよ。二人とも黙り込んで」
張白は黙り込むオレたちを不思議そうに見ている。ドルゲードのことがある。できればリセットしたくないオレは慎重に言葉を選ぶ。
「ところで例の軍はどの辺まで進軍しているんだい」
「例の軍って、なんの軍だよ。楽ちゃん?」
どゆこと?
「例の軍って、ほらあの軍だよ。あの島の軍だよ」
オレは核心部分に触れないように張白に確認していく。
「何言ってんの、楽ちゃん。あの軍は楽ちゃんが葬ったって昨日、通信報告してきたじゃないか」
「あ〜〜、そうだったね。ハハハ」
え〜〜。
オレが友軍を葬ったって。
オレ何してくれてんの。
「で、賊軍はどんな状況?」
オレは仕切り直して話を進める。
「そっちはかなり苦戦しているよ。香亮とウルファイだよね。例のシューティングスターが圧倒的でね。ごめん。昨日はこのこと黙ってて」
「いや、大丈夫だよ。そうか。じゃあ、後はここを陥落させれば革命成功ってわけだ」
「ハハハ、そうなんだよ。楽ちゃんが来てくれて良かったよ」
「本当ビックリしたよ。オレが友軍を葬ったって聞いた時は」
「楽ちゃん、何言ってんの?」
「張白の旦那。そろそろつけを払ってもらわねえとオレも困るんだよ。ほら、旦那の胸ポケットにあるもん出せよ」
オレは張白に拳銃を握らせる。
「え、何。何。僕、拳銃なんか握ろうとしてないよ。楽ちゃん、勘違いしないでね。楽ちゃんを撃とうなんて思ってないよ」
オレは張白にその銃口を自分の頭にもっていくようにさせて、こう言った。
「旦那、さっさとつけ払えって言ってんだよ」
オレは張白の人差し指に力を込める。一発の銃声が鳴り響いた。
現在の状況は理解した。友軍はなし。香亮とウルファイの革命軍は健在。張白の話を総合するとここ城陽が政府軍の最後の砦。ってことは、オレがここで引導を渡しに行けばいいだけだね。政府首脳が全員自害しているシナリオも十分考えられるが、ニセ宋清が田勇雷でない以上その線も消えているのだろう。
「麗ちゃん、引導渡しに行くけどついてくる?」
「周兄、私と周兄は二人で一人でしょ。行くに決まってんじゃん!!」
だから、なんで二人で一人なんだろ?
そうか。
そうだよな。
展開がいつもと違うってことはこういうこともあるんだろうね。
オレたちが官邸に入った時には官邸はもぬけの殻だった。行き先は大体想像がつく。オレたちは西から来た。それに西にはウルファイがある。西はない。南には香亮がある。南もない。そもそもオレは東から来たことになっている。東もないとなると行き先は北だけ。北か。うってつけの基地がある。壇上河原基地という非常に堅固な基地だ。誰に選択させてもおそらくここを逃亡先に選ぶだろうという基地だ。
オレはウルファイと香亮に連絡をつけ、城陽の北に着陣させる。普通であれば壇上河原基地の戦力八十万に対して革命軍二千では話にならない。ただし、壇上河原基地だってそんなに戦力は残していないはず。一国を滅ぼすため特別作戦三八六号で三百万もの戦力を集結させたんだ。この基地だけ戦力温存ということはないだろう。
物見の報告によると現在の壇上河原基地の戦力は二、三万。こちらの二千の戦力に比べ十倍以上、通常であれば基地に籠城が考えられるが、今回は野戦が想定される。
広域展開されると結構つらい。
革命軍二千の戦力は北上する。政府軍一万八千の戦力は基地から打って出る。想定通り野戦の選択だ。ただ、予想より基地に戦力を残してきた印象だ。やはり、政府首脳を匿っているからだろう。
政府軍と革命軍は基地の名前の由来となった壇上河原で睨み合う形になった。
後の世に言う壇上河原の戦いである。
勝敗なんて初めから決まっている。たとえ一千万の戦力をもってしても覇王の能力者相手では三分保てばいいぐらいだ。本来ならそうなるはずだが、オレが目立って勝利するのは正直オレは望まない。結局、最初の共和国建国の際は内部分裂の状態で城陽大地震を迎えてしまった。要はこんなバカがトップに立ったからだ。宋清のような有能な男だったら話は変わったろう。
とにかく、裏方に徹して勝利に導き、故郷に帰る!!
オレの作戦はこうだ。全軍に待機命令。かなり広域だが気の障壁を展開し、敵の弾丸や突撃を防ぐ。後は目立たないように政府軍の戦力を削っていく。しかし、これだけ基地から離れていれば先に壇上河原基地を壊滅させたってオレの仕業と気付く奴はおそらく十人もいないだろう。折を見て基地もやっちまうか。
「周兄まだ〜〜。私お腹すいた〜〜
」
宋麗がグズりだした。
そうでした。
こっちはあまり兵糧がなかったんだ。
やっぱり一気に片付けるか。
仕方ないね。一気に決めちゃうか。本当この娘にはかなわん。オレは必死に基地上空に気の塊を集結させる。永昌基地の時を考えれば楽なもんだが、今回は広域に気の障壁を展開している上、宋麗がオレをベタベタ触るからまったく集中できない。五十歳独身男の身体なんて触って何が面白いんだろう。
準備はできた。その間に政府軍の攻撃が開始され、面白いくらいに弾丸や銃弾が宙に浮いている。
オレは壇上河原基地に向かい大流星群を発動する。永昌基地を襲った百万の大軍を葬った大技だ。壇上河原基地は流星の雨あられにより壊滅状態。ただでさえ、弾丸が途中で止まってしまって動揺してるのに、自分たちの基地が壊滅しているのだ。逃げるなというほうが酷というものだ。政府軍は一気に瓦解した。
さてと、どうごまかすか。
壇上河原の戦いに勝利したオレたちは壇上河原基地に突入する。そりゃ、あれだけ遠くから狙ったんだもんね。こんなもんか。確かに基地を壊滅はさせているが全滅ってほどではなかった。政府首脳が自害する余裕があるくらいに。
「もう周兄!! 食堂とか売店ぐらい残してくれったっていいじゃん。私お腹すいた〜〜」
腹ペコ麗ちゃんには誰もかなわん。
そして、オレたちは首都城陽に凱旋していった。
大地震など起きることもなく九月二十一日を迎えた。これが海秀が知っていたこの国の歴史なのかもしれない。
九月二十一日正午。オレは共和国の建国式典で総統就任の演説するために式典会場に隣接するバルコニーに続く廊下を歩いていく。隣にはもちろん宋麗。どこ行くにもオレについてくる。何か言われると二人は一人という例の論理だ。もう今では誰も何も言わなくなった。
これが最良の結果だとは思っていない。ただ、リセットをしてこの娘にこれ以上戦いや惨劇など見せたくない。
もう、リセットは使わないと決意してバルコニーに歩いていく。
「もう、周兄ったら泣くほど嬉しいの? ほら、生麗ちゃんだよ!! 好きにしていいよ」
宋麗が歩きながら寝言を言っている。
この時の宋麗の言動の意味、重大さがオレにはわかっていなかった。
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