第21話

 海秀の話はさらに続く。宋麗は今度は三体の石像のお手入れをしている。


「その計画とは双竜を封印してしまおうという計画であります。具体的には双竜をそれぞれ分裂させて男竜という暴れ竜を時の狭間に封印してしまおうというものでした。片割れである女竜を籠絡し双竜を分裂させて男竜を時の狭間に誘き出して男竜を封印してしまったのです。封印された男竜を想い、女竜は涙を流し流した涙は流星の涙となって時を駆けていくというのが流星の涙伝説です」


はあ、ジジイも最初からちゃんとこのように手紙に書いてくれれば良かったのにとジジイの石像の頭を叩いた。


 海秀はさらに話を続ける。本当にどうでもよいことだが宋麗は祭壇のお掃除だ。お掃除好きな娘だ。いいお嫁さんになるんだろう。オレみたいなクズには引っかからないことを祈るばかりだ。


「神竜大戦から数万年、神々は平穏な地上で暮らしていたが、ある日ドルゲードという神が誕生する。ドルゲードは他の神々を支配するため自らを覇王と称して宣戦布告をしてきた。これが後の世にいう覇王大戦です。神々はドルゲードを男竜と同じく時の狭間に封印しようしましたが結果的には失敗してしまったのです。困った神々はこの加檀の地にドルゲードを封印するように罠を張ったのです」


へえ、あいつはドルゲードって名前なんだ。今度会った時にそう呼ぼう。


「その罠とはその魔法陣です」


海秀の指差す先には例の魔法陣。

本当に魔法陣って呼び方で合っていたんだ。


 海秀の話は核心部分に入っていく。ちなみに宋麗、しつこいからやめておく。


「この魔法陣。いろいろ欠点がございまして。まず、このように三人で魔法陣を取り囲んで魔法陣の上にのった対象物を封印するのです。ここにドルゲードをおびき寄せるところまでかなりの犠牲を伴ったようです。もう一つは時の狭間ほど厳しい封印でないため、ある程度自由に動けてしまうのです」


「ある程度?」


オレはどうしても確認しておきたくて口を挟んだ。


「実は流星の涙の能力者が発現する時だけなのですが、覇王の能力者が発現するという話があるのですよ。これが覇王伝説という伝説の由来です。そして現在進行中の伝説が後の世に言うシューティングスター伝説です」


ハイハイ、現在進行中なのに後の世に言うってお前、いつの時代の人間なんだ!!


 宋麗はお掃除が全部終わったらしく、オレにべったりだ。


「で、なんでここが今回の大地震の原因なんだ?」


オレは核心部分について海秀に尋ねた。


「周総統、ここには何回くらいいらっしゃいましたか?」


「う〜〜ん。覚えてないけど、たくさん。それと大地震って関係あるのか?」


「もちろんございます。周総統はそうおっしゃっていました」


「だから、どこの周さんの話だよ!!」


「三千年くらい後のあなたです」


はあ?

オレって、そんなに長生きするの?


「じゃあ、私も三千年くらい長生きするのね。フッフフー」


宋麗は長生きする気まんまんだ。


「残念ながら宋麗様は人並みでお亡くなりになったとお聞きしております」


「私と周兄は二人で一人なのに。うぬぬ」


宋麗が唸っている。


そんなに長生きしてもいいことないぞ。


「じゃ、じゃ、じゃあ、私が死んだ後は浮気していいよ。そん時は私のお墓に連れてきてね」


「少なくても三千年は宋麗様お一人とお聞きしています」


「おいおい、いくらなんでもオレの話じゃねえよな。転生ってやつだよな」


「いえ、少なくとも私は周総統がなくなった話は聞いておりません」


そんな馬鹿な。

まさか不老不死?


 不老不死かどうかはどうでもいい。とにかく今回の大地震とオレの行動がどう関係しているかだ。それに海秀の能力も気になるけどそれも後回しだ。


「話をもとに戻そうよ。今回の大地震とオレの行動が関係していると未来のオレは分析しているってことだな。その分析結果だけでいいよ。どうせオレが分析したんだ。大したことじゃない」


オレは海秀にさっさと結論を話すように促す。


「ハイ、周総統の話では城陽と香亮の地震の日付に周総統がその場所にいたことがあるということでした」


「じゃあ、そのうちウルファイも地震が起こるってことかい。そんな馬鹿な」


「私の知ってる歴史ではウルファイでの大地震はこの時期には記録されていません」


「ハイハイ、オレの分析はそんなもんだよ」


「私の知ってる歴史ではそういう記録はないとお話しただけです。途中でかわった可能性もあります。そもそもこの時期には大地震の記録そのものがございません」


「なんでだよ。オレがいた場所は全部狙い撃ちされんだろ」


オレは自分で言って、大地震の記録がない原因が分かった。


「つまり、オレがここで覇王退治をしていることだな」


「少しニュアンスが違いますが、ここでは覇王を止めています」


ここではって、どこかで止められなかったってことじゃねえか。


「ところでさあ、オレはそこまでわかっているんなら自分で止めりゃあいいんじゃねえか。なんでお前を間に挟んでいるんだ?」


オレの素朴な疑問だ。


「周総統は私のいる世界では、いや何でもないです。それでは」


「おいおいおい」


何だよ。

肝心のとこは喋らずじまい。


「要は周兄が覇王ってやつをコテンパンにやっつければいいんだよ!!」


ポジティブっていいよね。


さてと、どうやって覇王をおびき寄せるか。多分だが、この魔法陣が関係している。


ん?

何だ。

いつもと違うような気がする。


オレはなんとなく魔法陣にのってみる。


ここはあの場所。

時の部屋の外の何もない世界。

ここで覇王と戦えってことかい。


 やがて、向こう側から男がやって来た。ゆっくりとこっちに歩いてくる。そして、オレの前で止まる。


「お前から来たか。まさかと思ったよ」


ドルゲードがオレにそう言う。


「なんか今回オレ負けないらしいっすよ」


オレの挑発にはのらないドルゲード。


「お前、俺様を前にしてもなんともないのか。相変わらず面白い奴だ。負けないだけで勝てはしないんじゃないか」


「ハッハッハッハ、今回は負けないでお前を止めればオレの勝ちだから。クズ舐めんなよ!!」


自分で言ってて悲しくなる。



 オレは海秀の話を聞いてどうしても確認したいことがある。覇王の能力者と覇王の関係だ。それをこいつに気取られずに確認する。それはオレがこいつに近づくのか、こいつがオレに近づくのかだ。


「なんかドルゲードさんってもともと神だったらしいじゃないっすか。すげえっすね」


うわあ、宋麗には聞かせたくない。バカっぽいセリフ。


「まあな、お前も俺様の偉大さが徐々にわかってきたのか。ハハッハ。もっと俺様を崇めてもよいのだぞ」


あっれ〜〜。

どうやら答えは出たようだ。



「ドルゲードさん、これから兄貴って呼んでいいっすか」


「まあな。お前が呼びたいなら、そう呼ぶがいい」


「じゃあ、仲直りの握手ってことで」


オレが右手を出すとこいつも右手を出してきた。こいつとしたくもない握手。


リセット!!


あれ〜〜。

ここじゃあダメなのかなあ?

もともと何もない世界だから、無理なのかなあ。


もういいや。

別の手を考えよう。


いい加減、手を離せよ。

気持ちわりいな。


ん?

あれ、こいつ。

固まってる?


オレはそっと手を離し、魔法陣へ。


「もお、周兄。どこ行ってたの? 寂しかったんだぞ」


いきなり宋麗が抱きついてきた。

オレは宋麗の身体を離しながら言った。


「じゃあ、城陽に行くよ」



オレと宋麗は城陽へと続く道を歩いていく。オレの手順が正しいなら今日は八月十二日。最初に首都城陽が陥落した日のはず。おそらく宋麗も今日がいつか分からないだろう。城陽に行って確認するしかない。








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