第20話

 帝国建国によりこの国には三つの政権がひしめき合う、いわゆる三国鼎立の状況だ。

まあ、政府軍は首都城陽が間もなく崩壊するので事実上の東西分裂だが。

城陽の民衆を助けずにこのまま政府軍の自然崩壊を待つのはどうかという疑問は残るが、これが帝国政府の公式決定なのだから。もっとも決定者のほとんどは巨大地震のことなどまったく知らないのだが。


そんな時であった。共和国の魏礼総統、正確に言うと李祭月がウルファイの街に直々にやって来たのであった。オレは内心ほくそ笑んだ。これで大手を振ってリセットする機会をつくることができると。やはり、オレには皇帝なんてお上品なもんは向いていないんだよ。ただ、宋麗の手前仕方なく、皇帝を演じている。ただ、それだけなのだ。


「先日は世話になったね。シューティングスター」


オレは固まる。


「今日はね。両国の今後について話し合いに来たんだよ」


オレは固まる。


「おばちゃんが周兄の部下になるんだったらいいよ」


宋麗、やめなさい。


「お嬢ちゃん、威勢がいいねえ。嫌いじゃないよ。だけど、今はトップ会談だから少し黙ってくれるかい」


「うるさい。周兄は皇帝なんだからおばちゃんが下にくるのが当然でしょ」


もう、本当にやめてったら。


「それでいつこちらにお帰りで」


オレは辛うじて口を開く。


そう、彼女は本物の魏礼総統だったのだ。



「何を言ってんだい。あんたが連れて帰って来たんじゃないかい」


記憶にございません。


「その時に今後について話し合いたいから、ここに来てくれって言ったのはあんただろ」


記憶にございません。


「おばちゃん、早く城陽攻めに行ったほうがいいよ」


宋麗はしたり顔だ。


おいおい、やめなさいってば。


「へえ、城陽で何かあるのかい」


「さあ、私わかんなあい」


かわいいけど、本当やめなさいってば。


「そんな未来のことがわかれば誰も苦労しないですよね」


オレはすっとぼける。


「あんたにとっては、明日のことも過去のことじゃないかい」


バレてる。


「まあ、あたしがあんたの下につくのはいい。あんたが国のトップでも、それはそれでいい」


魏礼総統はため息をつく。


「だけどね。皇帝はないでしょ」


そうですよね〜〜。


「おいおい、おばちゃん。失礼しちゃう。うちの周兄が皇帝でなにが悪いんだあ」


だから、そういうのやめてってば。


「王国を否定するのに帝国って筋が通らないんだよ。お嬢ちゃん」


そうだ。そうだ。

もっと言ってやれ。


「ハハハ、おばちゃん。周兄に嫉妬してんでしょ。私わかるんだから」


そんなことないに決まってんだから。

もうやめて。

よし、こうなったらリセットだ。


「嫉妬。当たり前じゃないかい」


えっ。


「為政者であれば流星の涙の能力者に嫉妬するのは当たり前じゃないかい。なに失敗してもやり直すことができるんだから」


魏礼総統は笑いながらそう言う。


「まあね、周兄はすごいんだから」


宋麗はご機嫌だ。


「あんたの旦那がすごいのはあたしだってわかってるよ。だから、皇帝はダメだって言ってんだよ」


宋麗が急に機嫌が悪くなったのでオレが口を開く。


「じゃあ、麗ちゃんが女帝になればいいんじゃない」


オレの口のバカ。

火に油注いでどうすんだよ。


「ハハハハハハハハハ!! そりゃいいね。それならいいよ」


魏礼総統がまさかの賛同。宋麗がなにか言いかけた瞬間。


「周総統。お時間です」


うわっ。

海秀、お前いつもどっから出てきてるんだ。


「時間って何の?」


オレがそう言うと、海秀が首をかしげてこう言う。


「いえ、周総統がご自身でそう命じたので私にはわかりかねます」


はあ?

オレがなんのために。


「周兄、何首かしげてんの?」


宋麗が不思議そうに言う。


「今、海秀がお時間ですって言っただろ。オレには」


オレが最後まで言うのを待たずに魏礼総統が口を挟んできた。


「おやおや、トップ会談中に居眠りとは感心しないね。海秀って誰だい?」


「今、ここに。あれ、今ここにいたよな。海秀が」


二人は首を振る。


えっ、オレが夢見てただけ?


突然、ドアが強くノックされクニミツが入ってきて報告してきた。


「閣下、急報が入ってきました。香亮で大地震が発生した模様です」


どゆこと?



どうやら、香亮は大地震で壊滅的な被害を受けているようだ。


「直ちに救護班を編成し香亮に向かわせろ。オレは先行して香亮に向かう」


オレはクニミツにそう指示を出して、魏礼総統に言った。


「一旦、休戦しよう。香亮の復興が最優先だ」


「あたしたちも急ぎ香亮に救援隊を向かわせる。すまないね」


どうゆうことだ。

このタイミングで香亮で大地震って初めての経験だぞ。

お時間って、このことか?

もう、なにがなんだかわからん。


「周兄、こんなの初めてだよね。なにが起こっているの?」


「とりあえず、香亮に行ってくるよ。宋麗は救護班を指揮して後から来てくれ」


宋麗は頷き、オレは部屋を出た。


 オレは今、香亮にいる。香亮の状況は思っていたより甚大なものだった。地震そのものの被害は城陽に比べれば軽微なものだが、いかんせん港街であるが故に津波の被害が甚大であった。今までこのタイミングでの地震はなかったと考えればここでリセットをかけてということも考えられるが、逆に自然災害が初めてなのがかなり気になってリセットがかけられない。


う〜〜ん。

原因さえ分かれば対策の取りようがあるんだが。


「周総統、ご命じられた案件について報告がございます」


うわっ、ビックリした。

海秀、お前いつも突然すぎるんだよ。


「で、首尾は」


よくわからんが、昔ドラマで見たセリフを吐いてみる。


「はっ、どうやらこの地震は加檀が関係しているところまで突き止めているのですが、それ以上は現在調査中です」


「かいし」


お前、言うだけ言って消えんなよ。

ホウレンソウって知ってるか?


というよりも、オレはいつ何を調べるように命じたのだろう。


加檀か〜〜。

あいつが関係しているとすると、なおさらリセットできない。

なにしろあいつは流星の涙の能力者が何をできるのかを知ってるはずだ。リセットしたタイミングで仕掛けてくることは十分考えられる。


しばらくすると、共和国と帝国双方の救護班が到着した。


「も〜〜〜〜。寂しかったよ〜〜」


宋麗である。


「麗ちゃん、ちょっと加檀に行ってくるよ。ここでお留守番できる?」


「できん。できん。できん。でっき〜〜ん」


ハイハイ、わかりました。


「じゃあ、一緒に行く?」


「私と周兄は二人で一人だかんね。当たり前でしょ」


まったく意味がわからん。


オレたちは加檀に向かった。



 オレと宋麗は加檀の洞窟にやって来た。やって来たのは、ある意味ここに初めて来た以来だ。この半年で何回目のこの洞窟だろう。なんか気が狂いそうだ。


 オレは洞窟内を確認する。三体の石像あり。流星ちゃんのお墓あり。海秀あり。


うわっ、ビックリした。

こいつ、いつも突然なんだから。


「周総統、お待ちしておりました」


「いや、別にオレはここで待ってろなんて言ってないが」


「ご冗談を」


一体、誰がオレになりすましてこいつに命令してんだろ。


「それでは、この洞窟の秘密について私が知る限りのことをご報告させていただきます」


もう何も言うまい。

どうせオレがそれを報告するように命じたんだろう。



 海秀はそんなオレのことなど気にせず語りはじめた。どうでもいいことだが、宋麗は流星ちゃんのお墓の手入れで忙しそうだ。


「まず、この洞窟の話をする前に神竜大戦のお話をしておく必要があります」


神竜大戦?

初耳だ。


「かつて地上は神々が支配しておりました。永遠と思えるほど長く地上を平穏に支配していたのですが、ある時双竜という化け物が生まれてしまい、この地上を大暴れしてしまったのです」


おお、双竜。

知ってる。

知ってる。

というより、片割れはオレだが。


「神々と双竜は数千年にわたり戦いを繰り広げていったのです。これが後の世にいう神竜大戦です」


ふ〜〜ん。

胡散臭え。


「この神竜大戦を終わらせるため神々はある計画を立てたのです」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る