第19話
オレは諦めて部屋に入った。どうやら友軍の反乱分子とウルファイ軍が第三勢力として手を組んだらしい。それを画策したのは宋麗らしい。どうせ裏には宋清がいるんだろうが。でも、どうやって宋清と連絡をとっているんだろう。血のなせる技ですむもんなのか。さっぱりわからん。
ここにはクニホシ、宋麗、クニミツら七人のリーダーが集っている。
「こういうのは本人抜きで画策していいもんじゃねえだろ。おい、宋清出てこい!!」
出てくるわけがない。
そのはずだった。
おいおいおいおい。
なんで君がそこにいるんだ。
「あら、お久しぶりなのに。随分なご挨拶ね」
オレが間違うはずがない。
そこには李月麗がいた。
李月麗がオレの前に出て言った。
「宋清がこんなことを画策するわけないじゃない。ねえ、宋麗」
「そ、そうだよ。そんなことあるわけないじゃん。変な周兄」
なるほど。
やはり、あいつか。
「しかし、あいつ今どこにいるんだ?」
「鏡だって、あ違っ」
どうやら隠す気がないらしい。
鏡といえば身写しの鏡だが。
でも、違う気がする。
「まあ、いい。どうせもう引き返せないところまで動いてんだろ」
「そうだよ。後は周兄が帝国建国宣言の演説するだけだよ」
いや、その演説が一番つらい。
そこだけとばしてくれない?
演説はオレは原稿を読むだけになった。それにしたって学のないオレにとっては一苦労だ。
鏡か。
でも、タイミング的に身写しの鏡ってことはない。
じゃあ、どこの鏡?
さっぱりわからん。
あれ以来、李月麗の姿も見ない。
まさか魏礼総統と同じで最初から別人だったってことはないよな。
ないかな?
ないはず。
もう勘弁してくれ。
人間信じられなくなる。
そもそも、オレは前回の革命騒動では途中入場なんだよな。最初から全員が別人だって、気付きはしないね。
いよいよ、その日がやって来た。
そう、帝国建国宣言の日だ。
リセットしたい。
リセットしちゃダメかな?
え〜〜い、リセット。
できん。
宋麗に嫌われるのが一番こわい。
あれだけ、張り切っていたんだからここでやめたら失望されるよね。
そういえば、今日は朝から宋麗を見ないけど?
こんな日もあるのかな。
ふと、外を見る。
あ、なんだよ。
そんなところから覗いて。
もう、趣味悪いぞ。
ん?
変だぞ。
おいおい。
宋麗は窓ガラスの中にいた。
おいおい、どういうことだい。
冗談ならシャレになんねえぞ。
この窓ガラスを割ったら出てくるって、そういう単純なものではないだろう。
ということは、宋清もこの中にいるってこと?
それにしても、どういう仕組みなんだろ。
帝国建国宣言まで後一時間。
正直解決できるとは思えん。
「ああ、それリセットしないほうがいいよ。永遠に消えちゃうよ。フフ」
オレの後ろには李月麗。
「最初から別人だったってことかい?」
「さあ、どうかしら」
「君は本当は誰だい?」
「さあ、誰でしょう」
時間がねえんだよ。
お前と遊んでいる暇はねえんだよ。
「周総統、なに一人で喋ってんですかい」
「うるせえな。オレは今忙しいんだよ。海秀」
ん?
海秀。
「お前、なんでこんなところにいるんだよ? というか、なんで総統なんだ?」
オレが不思議そうに聞くと海秀は当然のように答える。
「私にとっては周総統は総統ですよ。それに周総統に命じられてここに来たんですけど。鏡の世界に行きたいってことですよね」
ツッコミどころがたくさんありすぎて、逆にツッコめないオレの両肩を海秀は押してきた。
「おいおい、だからオレは忙しいって」
あれ、なんだ。
おかしい。
海秀が目の前でオレに敬礼をしているのになんか変だ。
あ、またか。
もう驚かねえぞ。
海秀の口が動いている。
声は聴こえない。
か が み。
ちょっと待て。
ここは鏡の中?
「やっと来たね。さっさと行くよ!!」
オレの背後から声をかける女。
李月麗だ。
「だから、お前は誰なんだよ」
「李月麗であり、李月麗ではないもの」
「なぞなぞかよ」
「かつて李月麗と呼ばれた存在。それでいい」
え〜〜。
それって。
つまり、霊ってこと?
オレ、オバケこわいんだけど。
「さっさと行くよ」
オレは彼女についていく。
こいつは李月麗じゃない。
李月麗じゃない。
絶対違う。
別人だ。
だから、オバケじゃない。
五十歳独身男だって、オバケはこわいんだ。
悪いか。
そんなオレの気持ちなど気にせず、彼女はスタスタ歩いていく。しばらく歩いていくとふたつの人影。一人は宋麗。もう一人は宋清。宋麗はオレに駆け寄ってきてこう言う。
「周兄、なんできたの? 演説に間に合わなくなっちゃうよ〜〜」
いや、そんなの間に合わなくていいんだけどね。
「やあ、シューティングスター。あっちがあんな状態になったから、こっちにお引越し」
そんな城陽からウルファイにお引越しみたいなこと言われても。
「お前がここにいるのはわかったけどなんで宋麗がいるんだ」
「私はなんて名前?」
はあ、めんどくせえ。
「麗ちゃんでした。人前だと恥ずかしいからさ。勘弁してくれ」
「ダメだよ。人前だからだよ。周兄」
「麗ちゃんは呼んでないよ。勝手に来ちゃったんだよ。どうするとここに来れるか僕だって分からないよ」
宋清がそう言うと宋麗は反論する。
「宋兄が周兄は皇帝には向いてないって言いはるからだよ。私は周兄は皇帝になるべきだと思うんだよ。だから、私はここに来て、宋兄を説得しに来たんだよ」
もう、オレには何がなんだか分からない。
「とういうよりも、宋清お前オバケなの?」
オレが一番気になっていることを聞くと、宋清は笑って答える。
「オバケって。女竜の流星の涙は人の想いを繋げることもできるんだよ。僕は、そこにいる李月麗も流星の涙によって繋げられた僕たちの想いなんだ。こわがらないでくれよ」
そっか。
オバケじゃねえんだ。
「でも、どうやってここをどうやって出るんだよ」
オレが宋清に聞くと、李月麗が代わりに答える。
「そんなの簡単だよ。身写しの鏡まで移動して、いつも通り戻れば海秀がどうにかしてくるよ。あんたの優秀な部下だろ」
海秀って、そんなことできるの?
というより、ここも海秀が送り出してくれたんだっけ。
「さあ、行った。行った」
李月麗がオレたちを追い立てる。
「ちょっと待って。私の用事は、あっ、宋兄!!」
オレたちは身写しの鏡の中にいた。
身写しの鏡まで来て、いつも通り戻るって。
「うわっ、竜だ!! 周兄、竜がいるよ」
ヤバい!!
宋麗は女竜を見たことがなかった。
「おやおや、お嬢ちゃんかい。フフ」
「あれ、周兄みたい?」
よせ。
頼む、女竜。
言わんでくれ。
「お嬢ちゃんはそいつが嫌いかい?」
「そいつじゃないよ。周兄は大好きだよ。私、周兄のお嫁さんになるんだよ」
え?
その瞬間、オレの頭はショートした。気がついたら海秀が目の前にいた。
「周総統、帝国建国宣言は無事終了しました。皆様にご挨拶をお願いします」
おいおいおい。
誰が演説したんだよ。
どうやらオレがいないんで、急遽クニホシ臨時報道官が声明を発表したらしい。
き、気まずい。
帝国建国によりこの国には三つの政権がひしめき合う、いわゆる三国鼎立の状況だ。
まあ、政府軍は首都城陽が間もなく崩壊するので事実上の東西分裂だが。
城陽の民衆を助けずにこのまま政府軍の自然崩壊を待つのはどうかという疑問は残るが、これが帝国政府の公式決定なのだから。もっとも決定者のほとんどは巨大地震のことなどまったく知らないのだが。
そんな時であった。共和国の魏礼総統、正確に言うと李祭月がウルファイの街に直々にやって来たのであった。オレは内心ほくそ笑んだ。これで大手を振ってリセットする機会をつくることができると。やはり、オレには皇帝なんてお上品なもんは向いていないんだよ。ただ、宋麗の手前仕方なく、皇帝を演じている。ただ、それだけなのだ。
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