第16話

 オレは宋麗をお姫様抱っこして加檀の洞窟にいる。


ん?


宋麗がニヤケ顔でこう言ってきた。


「で、で、周兄、周兄。私のことどう思っているって」


「どうも思ってないよ。なんだよ。いきなり」


「はあ、周兄。そういうのはダメだぞ。男はビシッと言ってやらなきゃ」


「だから、なにをだよ」


「まだ、すっとぼけるつもり。さっき宋兄の前でかっこよく宣言してたじゃん。もう一回聞きたい」


「麗ちゃん。まさか」


「覚えているって言ったよね。はい、もう一回」


しまった。

こっちも覚えているのかよ。


「男がこういうのは何度も口にするもんじゃねえ。一回だけだぞ」


「もう早く言ってよ」


「オレは麗ちゃんが大好きだ。たとえ世界を敵にまわしても麗ちゃんだけは守り抜く」


「私も周兄大好き!!」


そう言って宋麗はオレにさらに抱きついてくる。


あれ、目の前の風景揺れていないか。オレは咄嗟に自分と宋麗の身体を気で包む。




九月十三日午後一時三分。

首都城陽を巨大地震が襲った。



九月十三日って。

どゆこと?


 首都城陽への道をオレと宋麗は歩いていく。二人とも黙り込んだままだ。リセットする前も覚えているということはこの地震で自分になにが起きたのかも覚えているはずだ。無言にもなるか。オレは宋麗を強く抱きしめた。


【宋麗視点】

へへへ、世界を敵にまわしても私を守り抜くって!!

これって。

あれだよね。

プロポーズだよね。

キャア。

やったよ。

宋兄。

麗、今日大人になります。


えっ?

周兄。

もう、抱きしめたいなら早く言ってよ。


今日もスレ違っていく二人であった。



 オレは宋麗を抱きしめ首都城陽に入っていった。そう言えば、オレと宋麗、そして魏礼総統がいないのに誰が新政府をまとめているのか疑問でもあるし興味をそそる。


 城陽はやはりといってはなんだが、本震に加え余震によって建物は崩壊し、追い打ちをかけるように度重なる火災によって完全に崩壊していた。でも、なんだろう。違和感がある。以前見た光景となにかが違う。


軍服だ。

救助にあたっている人間が旧政府軍の軍服を着ているのだ。


共和国軍は負けたのか?

ん?

なんだろう。

後ろからオレたちを尾行している人間がいる。

一人。

男だ。

しかもオレはこの男を知らない。


オレは瓦礫の陰に隠れるようにその男を待ち伏せた。


「おおっと!! 周総統。なにやってんですか。こんな状態とはいえここは敵の本拠地ですよ」


その男はオレを見てそう言った。


周総統?

敵の本拠地?


どゆこと?


「で、君は誰なんだい?」


オレがそう聞くと彼は不思議そうに答えた。


「周総統、冗談きついですよ。周総統に張副総統ですよね。海秀ですよ。またまた。本当困っちゃいますよ。周総統が直々に城陽偵察を僕に命じたんじゃないですか」


オレが首を捻っていると、宋麗は横から口を挟む。


「私は涼ちゃんじゃないよ。宋麗だよ」


「副総統、冗談でもそれはさすがにダメだと思います。宋麗様といえば公開処刑された革命の女神ですよね」


宋麗が公開処刑?


 宋麗を助けられなかった世界。いや、本来宋麗の公開処刑は止められなかったはずだ。あの流星の涙がなければ。そういう意味では本来あるべき世界の気がする。しかし、オレはなぜ受け入れた。オレがそんな世界を容認するわけがねえ。決めた。オレは過去を変えてくる。リセットだ。


「君、その宋麗が公開処刑された場所ってわかるのかい」


「いえ、それが不明なんですよって、これ前にも周総統に報告しましたよね」


なるほど。

オレは諦めたのか。

ふ〜〜ん。

タイムなんちゃらが怖くて諦めらめたのか。

このクズは!!


オレは覚悟を決めた。


「麗ちゃん、君を助けるために行ってくるよ」


「私も行くよ。だってだって」


泣きわめく宋麗にオレは言った。


「たとえ世界を壊すことになってもオレは君を助けてくる。そこで大人しく待ってろ」


宋麗は静かに頷く。


手掛かりは手紙と流星の涙だけか。


男竜は遠くにいった女竜を想い涙を流す。流した涙は流星の涙となり空を駆けていく。


確かこんな詩だったはずだ。なんであんな詩を口ずさんだのかなんて覚えちゃいないが、とりあえず男竜に会わないことには始まらんことぐらいオレにもわかる。


オレは細く長い道に立っている。

あいつはやってこない。

本当に使えねえクズ竜だ。

だから、女竜に振られたんだろう。

仕方ねえ。

オレから行ってやるか。

そう言えば、こっちに向かって歩いていくのは初めてだな。


あいつ、どこに行ったんだ。


 オレはさらに奥に歩いていく。あいつはこないし、ゴールも見えない。だからといって、諦めるわけにはいかねえ。宋麗の命がかかっているんだ。しばらく行くと、右側に爺さん、左側に婆さんが座っていた。お婆さんだけなら三途の川だけどお爺さんさんもいるんなら大丈夫だと思って、二人に話しかけた。


「どうもすみませんね。この辺で男竜さん見ませんでしたか?」


おかしな絵面だ。

爺さん婆さんに竜の居場所を聞くなんて。


すると、二人は道の先を指差す。

やっぱりこの先にいるのか。

あいつは。

すると、婆さんがオレに言った。


「なんで、あんた飛ばないんだい」


「なんか飛んじゃいけない気がするんですよね」


オレは婆さんの問いに答える。

すると、爺さんがオレにこう言った。


「飛んでみろ、シューティングスター。そこにお前さんが探しているもんがある」


この爺さん。

オレを呼び捨てかい。


「へえ、オレの名前を知っているんだ。でもな。オレはここでは飛んじゃいけねえと思うんだけどな」


「世界を壊す覚悟はもうなくなったのかい」


今度は婆さんがオレに言ってきた。


「翔べ シューティングスター!!」


二人がそう叫んだ瞬間、オレは女竜となって飛んでいった。


 オレは飛んでいく。どこまでも。確かにこれを歩いていくんだ。知ってるもんからすれば、なんで飛ばねえんだって思うよな。

やがて、ゴールが見えてきた。ゴール板があるわけじゃねえが、それ以降向こうが見ないんだ。ゴールで間違いない。


そこには男竜ではなく人間がいた。しかも、オレはこの人間を見たことがある。


「やあ、シューティングスター。随分遅かったね。待ちくたびれたよ」


「はじめましてでいいんだよね。魏礼総統」


「そのはずだね。私と会ったことがあるのかい」


「あんたの姿をした李教授には何度もね」


「そうかい。私を時の部屋に封印した後は私のフリをしていたのかい。本当憎たらしいね。李祭月」


「あいつ、李祭月っていうんだ。へえ」


「そうだ。あんたに渡さなきゃいけないものがあるんだよ。ほれ」


魏礼総統はオレに流星の涙を渡す。


「魏礼総統さあ、一つ聞いていいか。オレはオレの胸ポケットにこの流星の涙を入れて、事前にオレの頭の中に手紙の内容をインプットしたいんだけど、どうすりゃいい?」


魏礼総統は少し考えてオレにこう言った。


「難しいなぞなぞだねえ。そんなの人間には分からないことだね。あんた、向こうにある身写しの鏡は知ってるかい。そいつに尋ねるとよい」


え?

でも、あれはオレじゃねえのかよ。


 

「わかったよ。戻ったら時の部屋から現実世界に戻してやるから、もう少し待っていてくれ」


「ああ、期待しないで待ってるよ」


オレは魏礼総統と別れ、身写しの鏡に向かって飛んでいく。



オレは身写しの鏡の前に降り立つ。

鏡の中にはオレがいた。


「随分ゆっくりしていたね。で、覚悟はできたのかい」


鏡の中のオレが話しかけてきた。


「ああ、世界を壊す覚悟ならすでにできている」


オレは鏡の中のオレに答える。


「そんなじゃないよ。あんた、あいつと戦う覚悟はできたのかい。なんだい。まだお前の本当の敵が分かっていないのかい」


本当の敵?



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