第15話

「あんた誰だって。私は魏礼だろ。あんたとずっといた魏礼だろ。あんた気で判断できるんじゃないのかい。じゃあ、あんたにとって私は魏礼で問題ないんじゃないかい」


この女、よく喋る。

クロだな。


「時の部屋で静止していた魏礼総統からは気を感じなかった。ということは、彼女はまだ時の部屋の外にいるということかな? 李教授」


オレはカマをかける。

ダメならリセットだ。


「おい、お前。なんで私を知っているんだ」


あ、宋清の記憶の世界で聞いた声。

ビンゴだ。


「なんでお前を知っているかって。そりゃ、お前と会ったことがあるからに決まってるだろ。おかしなことを言う奴だ。で、この間の話の続きだ。お前の後ろにいる人間は誰だい」


オレはさらにカマをかける。

こいつなら吐きそうだ。


「そんなこと訊いてどうする。お前なんかじゃどうにもならない相手だぞ。お前なんかじゃ。お前なんかじゃ」


まあ、今回はこんなもんで許してやるか。オレは王学冒の拳銃の銃口を李教授に向ける。


「次は核心に迫ってもらうとするよ」


オレは王の人差し指に力を込める。目の前で銃声が鳴り響く。


 さてと、次はあいつの番だな。王は呆然としている。ひょっとして初めてか。結構、こいつはオレよりはクズじゃねえかもしれん。オレは王の首根っこを掴んで歩くように指示した。


政府官邸に行くと案の定、そいつは玄関の前で待っていた。

そう、待っていたのだ。


「楽ちゃん、ひどいよ。もうどうなるかと思ったよ」


「そうかい。田勇雷!! 君の親友の王学冒を探すのに手間取ってね。あ、そうそう。さっき、君のお仲間の李教授も王が片付けてきたから地獄で二人反省会でも開くんだな」


オレがそう言うと、王が田に何発も銃弾を浴びせる。


「こいつのせいだ。こいつの。みんな。こいつの」


王の恨み節だけがこだまする。


 さてと、どうすっか。中に入っても政府首脳たちの自害した遺体を見るだけだし。そんなことを考えていると宋麗がオレの上着の袖を引っ張る。


「王学冒っていう人、あっちに走っていったけど追わなくてもいいの?」


上目遣いでオレを見て、そう言ってきた。


「大丈夫だよ。彼はもう出番ないはずだし」


オレがそう言うと、宋麗は真顔になってこう言った。


「ずっと周兄に黙ってきたことがあるの。聞きたい?」


あれ。

このタイミングでカミングアウトですか?


ちょっと待て。心の準備がね。五十歳のおじさんには必要なんだよ。


そんなオレの心の叫びを無視して宋麗は語りはじめた。


「私ね。他の人と違うみたいなの。みんなは周兄がリセットしても気付かないみたいなんだけど。私はわかるんだよ。最初はすごいこわかったけど周兄と一緒だから平気。へへへ」


なんだよ。

そっちかい。


ん?

それって、どゆこと?


「麗ちゃん。本当にわかるの?」


「そうだよ。嬢ちゃん呼びから麗ちゃん呼びになった理由も知ってるよ。王子様」


 固まる五十歳独身のオレに宋麗はさらに追い討ちをかけてくる。


「最初のうちはリセットしたのは分かるんだけどほとんど思い出せなかったんだよ。だけどね、今はほとんど覚えているんだよ。周兄、これって私と周兄が心で繋がっている証拠だよね。へへへ」


オレは赤面して固まったまま。

これって、リセットしても一緒ってことだろ。

どうすりゃいいんだよ。

オレはこういうの免疫ねえんだよ。


「まあなんだな。ほれ、その、う〜〜ん。そうだ。流星の涙だよ。そうだ。そうだ。そうに決まってる」


「でも、流星の涙もらう前からリセットに気づいてたよ。変な周兄」


 あまりの居心地の悪さにオレはリセットさせた。もちろん行き先はここ。あれ、男竜がいない。ラッキー。オレは身写しの鏡へ向かって歩いていく。よし、身写しの鏡の前に来て、あああ、ここに来ると化け物の姿見るのをすっかり忘れてた。オレは右の手のひらを天に向ける。そして、光に包まれる。そう、逃げ場所は時の部屋。オレだけのフリースペース。


そこにある椅子に座る。

宋麗の記憶はどう考えても流星の涙と関係があるような気がする。


すると、扉をノックをする音が聞こえた。


「入ってます」


オレはそう答えた。


ん?

外からノックって。

どゆこと?


 オレはギイと扉を開ける。そこには宋清がいた。彼は呆れ顔でこう言った。


「君さあ。これどうにかしてよ」


ん?

これって。

ああ、すっかり忘れてた。


「どうにかしたいんだけど、どうすればいいんだよ?」


オレは忘れていたくせにそう言ってごまかす。


「君はこの部屋にどうやって来るの。同じように持って帰ればいいんだよ」


はあ?

同じようにって。

そんなの無理だろ。


オレは身振り手振りを加えて彼に説明すると彼は笑いながらこう言った。


「君は本当に面白いやつだね。それ、誰に教わったの?」


「我流だけど」


オレがそう言うと、今度は驚いた顔でこう言った。


「が、我流でここに辿り着くのかよ。本当、君すごいね」


褒めれているのか、呆れられているのかわからん。


「それだとこれ持って帰れないんだけど、正解はどうやって出入りするんだよ。もったいぶらずに教えろよ。これずっとここに置いとくぞ」


オレがそう言うと彼は静かに口を開いた。


「流星の涙の能力者である君なら簡単だよ。ここを出たい、ここに来たいと強く思えばいいはずだよ」


宋清にそう言われたので、オレはここを出たいと強く願った。


オレは加檀の洞窟にいた。


あ、ヤベ。

あれ、忘れてきた。


急いで戻ろうとしていると、オレの上着を引っ張る感覚。宋麗だ。


「もう、なんで私が話しているのに、どっか行っちゃうの。私のこと嫌い?」


え〜〜と。

オレ 生まれて五十年。

こういう経験ないんだけど。

どうすりゃいいんだよ!!


「まあ、なんだ。ほら、男には女の子には分からないことがあるんだよ。な、な、わかるだろ」


「一つわかることは周兄がテンパって嘘ついていること」


これか。

女の第なんちゃらって。

嘘ついてもわかるってやつだ。

仕方ねえ。嘘つかねえ範囲で吐くか。


「ごめん。麗ちゃん。実は宋清と会ってたんだよ」


宋麗は驚いた顔でオレにつめ寄ってきた。


「宋兄!! 宋兄に会えるの。周兄すごい。すごいよ。私も会いたい。会わせて」


そうなるか。

そうだよね。

あれを持って帰ってこれるってことは宋麗も連れて行けるんじゃないのか?


「できるかどうかわかんないけど、やってみるよ」


オレは宋麗をお姫様抱っこして、強く願った!!


オレは時の部屋にいる。宋麗をお姫様抱っこして。

成功?

いや、そりゃそうだよね。

宋麗は静止している。


オレがギイと扉を開けると宋清が呆れ顔でこう言った。


「そうなるのはわかってたよね。これもそうなっているんだから」


「ですよね〜〜」


オレは宋清の指差す方を見てそう言った。


「でも、久しぶりに麗ちゃんの顔を見れて。あれ!!」


どうした。

どうした。


「麗ちゃん、女の顔になっているぞ」


こいつアホなのか?

宋麗は女だぞ。


「やっぱり、相手は君かい。シューティングスター」


「なにがだよ」


オレは意味がわからない。


「宋麗の恋の相手だよ」


はあ?


「君の気持ちは僕には筒抜けなんだよ。なんだよ。急にカッコつけちゃって」


宋清に図星をつかれ困惑するオレ。


「五十年こんなんとは無縁だったんだぞ。お前みたいなリア充になにがわかる」


「今は君の方がリア充じゃないかい。大好きな女をお姫様抱っこしてさあ」


少しムッとする宋清に、オレは言い放つ。そう、やめときゃよかったんだよ。冷静に考えればね。だけど、その時のオレは冷静でなかった。


「オレは宋麗が大好きだ。たとえ世界を敵にまわしても宋麗だけは守り抜く」


「だって、麗ちゃんよかったね。そうと決まれば現実世界に戻ろう。あれは後で回収しにくればいいから」


「麗ちゃんに伝言は?」


「僕たちの分も幸せになるんだよって伝えておいて」


涙ぐむ宋清を見ながらオレは強く願う。

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