第14話

「麗ちゃん、ちょっといい」


オレは宋麗の返事を聞かずにお姫様抱っこ。ん、毎回思うんだけど、お姫様抱っこ抵抗しないよな。最近の娘はこれが普通なのかなあ。


よし、今回は正面突破はやめて上空から攻めるか。オレは宋麗を抱いて城陽上空に移動、その中心部に向かう。あ、いた。オレは范将軍の前に降り立つ。ん、宋麗が降りてくれない。もういいや。宋麗をお姫様抱っこしたまま范将軍と対峙する。


「お前、范将軍って名前だったんだな」


オレが挨拶代わりにそう言うと、范将軍はこう言った。


「いや、確かに私は范将軍だが、貴殿とは初対面である。誰かと勘違いをしているのではないか?」


「ウッソだあ!! 作戦会議をしたときにも魏礼さんの隣にいたでしょ」


宋麗がオレの腕の中で范将軍に反論する。とんだ絵面だ。


「魏礼さん? 残念ながら私は総統とも面識はないぞ。人違いではないか?」


あれ、違う。

この間、こいつと会った時はこいつはオレと面識が会ったはず。

いったい、どうなってる。


一回、あいつと会ってみるか。


 オレの目の前には男竜がいる。


「やっと戻ってくれる気になったか。なあ、もう一度やり直そ。な、な」


相変わらずこいつは未練たらたらのクズ竜だ。


「おう、やり直してやるぞ。その前に聞きたいことがあるんだよ。いいか?」


「もちろんいいぞ」


あ、こいつ。

何度も詐欺にあうタイプだ。

ある意味ラッキーだな。


「やり直しをするとだな」


「やり直し? ああリセットのことかい。それがどうした?」


え〜〜。

そんな安直な名前だったのかよ。


「そのなんだ。リセットをすると人が混じったり、時間軸が混ざったりするんだよ」


「あ〜〜。時の部屋に誰かいるんじゃないか。だから、戻るところが定まらないんだよ」


ああ、魏礼総統かい。


 オレは身写しの鏡の前にいる。相変わらず鏡の中には化け物がいる。

気が滅入る。さっさと行こう。


「おい、また行っちまうのかい」


うるせえよ。

なんで男竜にモテるんだよ。


「すぐ帰ってくるよ。あんた」


男竜が鼻の下のばしてる。

気持ちわりいから、さっさと行こう。

オレは前回と同じように右の手のひらを天に向けるの。すると、オレの身体は白く輝く光に包みこまれていく。


成功だ。

オレの前には魏礼総統が座っている。

これどうやって起こすの?


オレはしばらく悩んでクズの結論を出す。そう、ここに人がいるからダメなんだよ。要はここに人がいなければいい。ただ、それだけだ。


よいしょ。

ギイ。

エイ。


そして、オレはリセットを使った。


 オレと宋麗は城陽を目前にしている。う〜〜ん。自信ないけど言っちゃえ。


「麗ちゃん」


「にゃあに。周兄」


おお、正解だった。


「お姫様抱っこしていいですか?」


宋麗は黙って頷く。

よし、かわいい。


だから、どうしたというのは受け付けん。かわいいは最強だ!!


オレは宋麗をお姫様抱っこして、城陽上空、そして中心部へ。


ん?

あれ。

あれ。

あれ。


あれが正解だったの。


范将軍の隣には魏礼総統がいた。

さっきは魏礼総統を起こさずに時の部屋の外に置いてきただけなのに。


「お久しぶりです。魏礼総統。えっ、これですか。あ、やっぱり。気になりますよね。麗ちゃん降りてくれないんすよ」


オレは宋麗をお姫様抱っこしたまま、魏礼総統に挨拶。


「お幸せそうでなによりよ。あなた、しばらく見なかったけどどうしてたの?」


よくぞ、聞いてくれました。


「実はですね。魏礼総統っていう女が時の部屋にずっといましてね。リセットするたびにへんてこなことになっててね。やっと、現実世界に戻ってこれたんですよ。姐御、出所お疲れ様でした」


ん?


そりゃ、ん? だよね。

魏礼総統はずっと時の部屋で静止してたんだから。


「ところで魏礼総統。その隣の男は誰でしょうか?」


オレは本題に入る。


「あなたも会ったことがあるでしょ。私の私設秘書の田勇雷よ」


「范将軍ではなくて?」


范将軍の顔が引きつる。


「あなた、何言ってんの。田勇雷って言ったでしょ」


魏礼総統が少しキレ気味に言ってきたので、オレは范将軍に向かって言い放った。


「おいおい、ネタはあがっているんだよ。さっさと吐いちゃいなよ。范将軍!!」


「どのようなネタか見てみたいのは山々ですが、もうこの女には用がないので」


そう言って、魏礼総統に銃口を向ける。向けたはずだった。


「てめえの頭を撃ち抜きたいなら引き金を引け!!」


范将軍の銃口は本人の頭に向いていた。


「おいおい、あんたオレの能力ぐらい知っているんだろ。オレの前で拳銃を抜くということは、そういうことじゃねえのかい」


オレは精一杯イキって范将軍に言い放つ。


「こんなこと、田さんから聞いてない。助けてくれ。俺は田さんから頼まれただけなんだ」


ん?

よくわからん。


「魏礼総統、オレにはよくわからん。めんどくせえから、こいつ殺っていいか?」


「あんた、やっていいわけないでしょ。まず、状況を整理しましょ」


おお、さすが一国の指導者。オレとは大違い。


「あんた、名前は?」


魏礼総統はその男を問いただすが、男はダンマリだ。


「私はいいけど、この男は私と違ってねえ」


魏礼総統はオレを指差して言うとその男は口を開き語りだした。


「いや、俺は田さんとは学校の同級生なんだよ。この間久しぶりに田さんと会った時にこの顔に整形して台本通り演じてくれたら一生遊んで暮らせるくらいの報酬くれるって言うんだよ」


「おいおい、それいくらだ。いい仕事だな」


オレが口を挟むと、魏礼総統が咳払いをして言った。


「続けて」


気にならねえのかよ。

オレだったら、すげえ気になるけど。


「金額は終わった後でって」


こいつ、あれだ。

クズ竜と一緒だ。



「ここでシューティングスターを騙る周恩楽と宋麗を騙る張涼青を捕らえて公開処刑しろと」


オレはこれみよがしに口を挟むと、その男は驚いたような顔で言った。


「なんだよ。知ってたのかよ。ひどいじゃないか。なあ、助けてくれよお」


「シューティングスター。あんたもいちいち話の腰を折らないの。で、私が聞きたいのはあんたの名前だよ」


「俺の名前は王学冒だ。なあ、助けてくれよお」


あれ、王学冒って、どこかで聞いたんだが、どこだっけ?


「周兄、私知ってるよ。革命軍の王学冒だよね。へへへ、周兄、いい子いい子していいよ」


宋麗がオレの腕の中でそう言うので両手が誰かのせいで塞がっているからできないと伝えると宋麗は素直に降りて、頭をオレに差し出してくる。


「ほら、いいよ。早く。早く」


オレは仕方なく、宋麗をいい子いい子する。どんな絵面だ。


「革命軍。違う。違う。あれは張白に頼まれて名前貸しただけなんだ。なあ、助けくれ」


はあ、なんだ。

あの革命騒動は。


「一つ分かったことがある」


魏礼総統が指摘する。


えっ、今のでなにが分かったの?


「今ので分かったって。いい子いい子でなにが分かったんすか?」


オレが素朴な疑問を魏礼総統に投げかけると彼女は笑ってこう言った。


「ふふふ、本当に面白い男だねえ。シューティングスター。嫌いじゃないよ。嫌いじゃないけどさっき黙っててって言ったよね」


少しお冠の様子だ。


「要は田と張は裏でつながってたってことだよ。ということは、田はこの官邸にいるんじゃないかい」


「前に突入した時はこんな顔の奴いないかったぞ」


オレがそう言うと魏礼総統は笑って言った。


「この顔でいるわけないだろ」


そりゃそうか。


「じゃあ、どんな顔ですかね」


オレはすかさず魏礼総統に尋ねると彼女はこう言った。


「田に歳の近い人間だと思うが私にも分からないよ」


「この顔は范将軍で間違いないんですよね」


ふたたびオレが魏礼総統に尋ねる。

すると、彼女は首を捻って考え込む。


しばしの時間が流れた後、彼女は口を開いた。


「范将軍って、もしかして范栄のことかい。でも、この顔は范栄の顔じゃないしね」


「范栄って誰ですか? オレの知っている人にそんな名前の人いないですが」


「そりゃそうだよ。范栄は三年前に死んでるんだから」


魏礼総統はそう言って、ふたたび考え込んだ。



 魏礼総統はオレの顔を見てこう言った。


「でも、なんでこの顔が范将軍だって思ったんだい」


「前にここで会った時に自分は范将軍だって言ったんだよ。あ、こいつの気でもなければ、以前会ったこの顔の男の気でもなかったぜ」


オレがそう言うと、彼女はすかさずこう言った。


「そうなると、この顔の人間が三人いることになるね。だけど、オリジナルは一人。王さん、その顔は田の顔で間違いないんだよね」


彼女がそう言うと、王と名乗る男は答えた。


「いや、俺が知る限り田さんはこの顔じゃない」


「うむ、そうなるともう一人この顔の男がいることになるね」


そう言って、彼女はふたたび黙り込んだ。


「それか、この中に嘘ついているか勘違いをしている人間がいるかだね」


オレが茶化すと彼女はこう言った。


「それだ!!」


それって、どれ?


「シューティングスター、あんたの答えは正確だからあんたの勘違いでないことはまず消去できる。じゃあ、私か王さんのどちらかが勘違いをしているってことになるね。どっちだろね」


「俺じゃないよ。もう助けて」


「ところで、魏礼総統。時の部屋にはどうやって入ったんだい」


オレがそう言うと、彼女はめんどくさそうに答えた。


「部屋に入るってことはドアから入ったんだろ。私は今忙しいんだよ」


「じゃあ、あの部屋の扉はどこにあるか知っているのか?」


「部屋ならどこにでもあるだろ。私は忙しいんだよ」


「あんた、誰だ?」


オレは魏礼総統の顔をした女に尋ねた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る