第13話
「流星の涙の能力を封じる法具って?」
「僕も詳しく知らないんだけどね。じゃあ、もう行く?」
「いや、もう一回麗ちゃんに会わせて」
「どうせ向こうに戻れば本物と会えるんだから、さっさと戻すよ」
「バカ。そういうんじゃない。お前、そういうんじゃないんだ。わからんのかい」
「もう、うるさいな。さっさと行って」
オレの意識が薄れゆく中、麗ちゃんの声を聞いた気がする。
「あ〜〜。宋兄、バカバカバカ。私の王子様が消えちゃう!!」
「周兄。なにニヤニヤしてんの?」
宋麗がオレの顔を覗き込む。
え?
「いやあ、麗ちゃんが可愛くて。可愛くてね」
「変な周兄」
まず、状況把握。
場所は廊下。宋麗と二人きり。服装は二人とも正装。
わかった。
宋清!!
ここじゃなくてもいいだろ。
ここじゃなくても。
「麗ちゃんさあ」
「待って。周兄、なんで呼び方変えたの?」
しまった。
幼い宋麗のつもりで話掛けてた。
「まあ、周兄がどうしてもっていうならしょうがないけど。どうしてもっていうならね。私はいいけどね」
ああ、まんざらでもねえんだ。
あれ?
なんだろ。
なにか大事なことを忘れている気がする。
仕方ない。
演説はあるけどカンペ読むだけだし。
オレは胸ポケットに手をやる。
ん?
なんだ。
カンペがねえぞ。
そのかわりに、この感触。
「麗ちゃんさあ。流星の涙って持ってる?」
「持ってるよ、ほら。どうしたの?」
「いや、聞いてみただけ」
「変な周兄」
おいおい、なんで流星の涙が二つあるんだよ。もう一つは崩れさって砂になったはずだろ。あ、そう言えばあの流星の涙も突然オレの胸ポケットに入っていたんだっけ。
さあ、次はオレの番だ。
カンペないけど。
頑張んなきゃ。
オレは席を立ち、マイクの前へ。
ん?
どうしたんだろう。
みんなポカンとしている。
なに言えばいいんだろう。
「本日をもって共和国を建国し、私が臨時大総統に就任する」
オレは前回の演説の中身を思い出し宣言した。
なんだろ。
騒然としている。
オレが建国宣言を行うと宋麗が目をキラキラと輝かせてオレに駆け寄ってくる。
おい、宋清。
オレをどこに戻した?
「周兄!! 信じてたよ。周兄が王国なんかに屈服するわけないもんね。さすが、私の周兄!!」
どゆこと?
政府軍の兵士たちがオレと宋麗を取り囲んで銃口をこちらに向けてくる。さあ、ここからがクズの本領発揮だ!!
「ガタガタぬかすな!! 強いものが国を統べる。これ大昔からの常識だろ」
うわっ、オレってば。
相変わらずのクズっぷり。
宋麗は幻滅してんだろうな。
そう思い、宋麗を見る。
ダメだ。
目をキラキラ輝かせている。
ハイハイ、そうでした。
この娘、こういうのに免疫ないから、こういうのに憧れちゃうタイプでした。
ハイ、忘れてました。
オレはとりあえず会場を取り囲む兵士たちの群衆に向かって、挨拶代わりの流星群!! 会場に詰めかけた兵士たちは散り散りに逃げ惑う。どっから見てもオレが悪役だ。どうしよう。状況が分からないだけにやり直したいが、脳裏に男竜の姿が浮かんで決断できねえ。
その間にもオレたちを囲む兵士たちは銃弾の嵐をオレたちに撃ち込んでくるし、突撃もかけてくる。全部オレたちには届かないが、物的には届かないけど精神的には届いているはずだ。オレは宋麗の顔を確認する。宋麗はオレを見て笑っているが目が怯えているようにみえる。
やり過ごしたとしても、宋麗の心に傷が残るくらいなら。
オレはふたたび男竜と対峙する覚悟を決めた。
オレと宋麗は加檀の洞窟にいた。
よし、まず状況確認。
場所は加檀の洞窟だね。
三体の石像と魔法陣はあるね。
宋麗の作った流星ちゃんのお墓も健在だね。
オレの胸ポケットに流星の涙はないね。
よしよし。
順調。順調。
オレは永昌基地で着替えた軍服だ。
よし今度は大丈夫!!
で、宋麗は。
ん?
えっ。なんで?
「わっ、私の王子様だあ!! やったあ」
いやいや、おじさんとしては全然やってねえ!!
オレの隣には麗ちゃんがいた?!
おいおい、なにがどうしてどうなった。確かにオレは麗ちゃんに会いたいって言ったよ。確かに言った。それは否定しない。だけど、ここで麗ちゃんですか?
オレは呆然としていて洞窟で座っている。麗ちゃんはオレの足に腰掛けてこっち向いて笑っている。かわいい。。誰がなんと言おうとかわいい。さっさと、やり直せばいいだろって声が聞こえそうな気もするが、いやもうちょっとだけこの時間を楽しみたい。
オレだってここが現実でないことぐらいわかってる。だって、洞窟から見る光景は何一つ動いていない。現実逃避くらいさせてくれよ。もう頭がパニックでどうにかなりそうなんだよ。
ん。
動かない。
時が止まる。
とまる。
やっぱり、なにか大事なことを忘れているような気がする。
オレは意を決してやり直す。さよなら、癒やしの時間。
オレは宋麗を見る。大丈夫だ。いつもの宋麗だ。
そんなオレを見て宋麗はキョトンとしている。
オレたちは城陽へとつづく道を歩いていく。
止まる。う〜〜ん。わからん。
「麗ちゃん。麗ちゃん」
麗ちゃんは何かの暗示かもしれない。何の暗示?やっぱり、わからん。
間もなく城陽というところで宋麗がぎゅっとしてきた。
ああ、そうか。
またかと思い、オレも宋麗をぎゅっとする。突然、宋麗が耳元で囁いてきた。
「私はそれでいいけど、へへへ」
ん?
【宋麗視点】
城陽へとつづく道を私たちは歩いていく。さっきから周兄は難しい顔をしてぶつぶつ呟いている。
「麗ちゃん。麗ちゃん」
はい?
周兄、今なんて言った?
私のことを麗ちゃんって言ったよね。
私は呼び捨てでもいいけど。むしろ呼び捨てで呼んでほしいいけど。
ちゃん付けか〜〜。
宋麗って呼ばれるくらいなら、ちゃん付けでもいいけど。
私は周兄をぎゅっとした。
そしたら、周兄もぎゅっとしてくれた。
私は周兄の耳元で囁いた。
「私はそれでいいけど。へへへ」
オレと宋麗は城陽に入城する。ホイきた。複数の兵士がオレたちを取り囲む。
さあ、クズの本領発揮だ!!
「おい、范将軍を騙る痴れ者をここに連れてこい」
オレは大声で宣言する。いや、本当は大声出す気はねえけど気の関係で大声になっちまう。
「何を政府軍幹部の分際でぐぬぬ」
オレは取り囲む兵士たちを上から気で地面に押し付ける。全員、オレにひれ伏す格好だ。クズなオレはさらに続けた。
「おいおい、オレはひれ伏せとは言ってねえぜ。范将軍を騙る痴れ者を連れてこいと命令したんだよ。どうやら聞こえなかったみたいだな」
クズは死ぬまでクズかもしれん。
オレは兵士に先導されて城陽の中心部へと歩いていく。やがて、偉そうに座っている男を見た瞬間思い出した。
どうしよう。
魏礼総統置いてきた。
どうしよう。
あの部屋、どう行ったっけ。
どうしよう。
なんか偉そうに座っている男がずっとオレになんか言っているが、オレはそれどころではない。
あまりにしつこく言ってくるので、気で押しつぶしてしまった。范将軍を。
ヤバいって、この男かもいろいろ聞かなきゃいけなかったのに。
もう死んじゃってるじゃん。
よし、やり直し!!
オレと宋麗は城陽を目の前にいる。よし、これでいい。正面突破だとなあ。
「なあ。宋麗。話ががあるんだけど」
あれ?
宋麗さんシカトですか?
「宋麗さ〜〜ん」
宋麗はムッとしてオレに言う。
「私はそれでいいって言ったよね。バカ周兄」
え〜〜。
どゆこと?
たぶん呼び方だよね。
でも、あの廊下での出来事を覚えているってこと?
わからん。
ここはギャンブルだけど、やってみるか。
「麗ちゃん」
「にゃあに、しゅうに」
おいおいおい、いったいどゆこと?
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