第12話
ここは城陽で間違いない。出会った人とも会話ができる。あれ、この国の暦覚えておけば良かった。王国暦七十五年と聞いたんだが、もとの暦知らないんだから比較のしようがない。でも、なんだかオレの知っている城陽と比べると古臭いような気がする。しばらく歩いていくと派手な女が声を掛けてきた。
「兵隊さん、どこ行くの?」
「いや、間にあってるんで」
オレはそう言ってやり過ごそうとしてふたたび歩き出した。
「あらやだ。こんないい女、ほっといて何が間にあってるの?」
あれ、この声と絡み方。
知ってる気がする。
「兵隊さん、永昌基地でしょ。私、詳しいんだよ」
誰だ。
いったい。
「ねえ、なに黙ってんのよ。こんないい女前にして。ひょっとして私に惚れちゃった?」
あっ?!
わかった。
「もう、勘弁してくださいよ。張涼青女史」
「へ〜〜。あんた、あたいの本名とあだ名知ってるんだ。ちょっとつら貸せ!!」
おっかねえ。
張女史、こんな感じだったんだ。
しかし、クズさ加減ではオレも負けていねえ。
「おいおいおい、女史。オレとやろうっていうのかい。オレは高いぜ」
なにが高いかわからんが。
「ちょっと、あんたさあ。所属部隊は?」
尋問かよ。
オレは張女史の尋問におちょくって答える。ちなみに、なんで張女史かっていうと威張っているから張女史だそうだ。意味わからんかったが、なんかわかった気がする。
「ハッ、革命軍第二部隊副司令官シューティングスターであります。張女史!!」
張女史はというと。
えっ?
なんだ。
なんだ。
オレを化け物みたいな目で見てる。
えっ、ひょっとしてオレ、今女竜なの。
女竜なのか。
「あんた、流星か?」
呆然としていた張女史がようやく口を開き、そう言った。
「なんで流星がここにいるんだよ?」
張女史がオレの胸ぐらを掴んで聞いてくる。張女史の背後から男の声。
「僕が呼んだんだよ。あ、ここは僕の記憶の中の世界だからここで君がなにやっても現実は変わらないから」
「お前、宋清か。おい、随分久しぶりじゃねえか。なにやってたんだよ。おい、聞いてんのか」
オレは宋清に詰め寄る。
「ごめんよ。君の知っている宋清は僕じゃない。だって僕は君と会ったの初めてだから」
「いや、お前だから。おい、宋麗をどうすんだよ」
「僕が推測するに君の知っている宋清はなにかの事情で消滅したか。それとも、なにか別の役割を与えられたか。推測の域を出ないんだけどね」
オレと宋清の会話に張女史が口を挟む。
「清、君はこいつになにを見せようっていうんだい」
あれ?
「ああ、涼ちゃんね。うるさいから消えてもらったんだよ。僕の記憶の世界だから、どうとでもなるんだよ」
へえ、涼ちゃんか。
今度からかって呼んでやろ。
「僕についてきて」
宋清はさっさと歩いていくので、オレは走ってついていった。
しばらくすると、女の子が腕組みをして待っていた。
あれ、幼いけど宋麗だよね。
「清兄、遅い。遅い。おっそ〜〜い!! ん、隣にいるおじさん。誰?」
「ハハハ、麗ちゃんの運命の男性だよ」
宋清は笑って言う。
まあ、実年齢は五十歳なんで、おじいちゃんって言われなかっただけオッケーかな。
「へ〜〜。私、この人のお嫁さんになるんだ。へへへ」
幼い宋麗がニコニコで言う。
こんなクズ男だけはやめとけ。
宋清、お前がそんなんだから。
まあ、いいか。
「清兄。さっき李先生が来て。まだかって言ってたよ」
「李先生って、ひょっとして李老師のことかい」
オレは宋清に聞く。
「いや、月ちゃんのお父さん。君の本当の敵だよ。君に知っておいてほしくて、ここに君を呼んだんだよ」
オレの本当の敵だって。
初耳だけど。
ていうか。
オレは誰かと戦ってたんだ。
李月麗の父の話をしてたら、気づいたら幼い宋麗が消えていた。オレは宋清の胸ぐらを掴んで懇願した。
「頼む。宋清、あと少しだけでいいんだ。ほんのちょっとでいいんだ。宋麗に会わせてくれ」
オレも男竜のことは笑っていられない。未練たらしい男だ。
「大丈夫だよ。現実に戻ればいくらでも会えるから」
そうじゃないんだ。
お前じゃわからんか。
現実じゃねえんだよ。
そんなことをやっていたら、やたら偉そうな奴がオレたちの方へ歩いてきた。
「遅いじゃないか。人をこんなところに呼び出しておいて。で、僕に話ってなに?」
やたら偉そうな奴はオレたちに向かってそう言ってきた。
本当の敵?
こいつからは雑魚キャラ臭しかしていないが。
くんくんくん。
間違いねえ。
オレと同じ臭いだぞ。
「先生、申し訳ございません。少し準備に手惑いまして。それで、先生をお呼びだてした件ですが」
「おい、宋清。オレを紹介しねえのかよ」
「先生が昨日出した課題はどのような意図があるのでしょうか」
おいおいおい、シカトかよ。
それにやたら偉そうな奴もオレをしてるし、本当失礼しちゃう。
「どういう意図って、それを考察して自分なりの意見を述べるのが課題というものだろ。まさか首席の君からそんな発言を聞くとは驚きだよ」
「おい、だから」
「君は黙ってて!! 相手は君を認識できないし、君が絡む会話も認識できないんだけど、僕が集中できないから黙って」
へいへい、そういうことは先に言ってよ。
「納得できないんですよ。公的な教育機関である大学で出すテーマの課題じゃないんですよ!!」
いつも冷静な宋清がひどく興奮していらっしゃる。
「大学で出す課題のテーマにタブーなんてあったらナンセンスじゃないかね。宋君」
「民主派掃討なんて冗談でも言っていい話じゃないでしょ!!」
結局、宋清とそいつの会話は平行線のまま終わりを迎えた。平行線と言うよりはそいつには決定権がないから平行線にならざるを得ないようにオレには思えた。オレの本当の敵というより本当の敵への門のような存在なのかもしれない。そいつが話を一方的に打ち切りオレたちの前から消えていく。オレは学校というものに縁がない生き方をしてきたが、学校の先生とはこんなもんなんだろうかと思ったが、なにか違和感があると例によってオレの直感が叫んでいる。
「こんな感じだけど君はどう感じた?」
宋清がオレに聞いてきた。オレはよくわからんとすっとぼけた。宋清はフフと笑い、こう言った。
「君は本当に不器用な人だね。だから僕は安心して大事な妹を託す気になったんだけどね。君がどう思ったかは問題ではない。この後、周恩楽の論文が最優秀作品となり特別作戦三八五号へとつながっていったんだ。それに抗議した僕は危険人物とされ、ああこの話は知っているかな。僕の記憶の一部が君へと流れていったんだから」
オレはうなづき、こう言った。
「お前がなんでオレをここに呼んだかはわかったつもりだ。だがな。現実世界は大変なことになってるんだよ。早く向こうに戻せよ」
「君が急いで戻っても、ゆっくり戻っても、あまり変わらないことは君が理解しているだろう」
「時を遡る能力か。あれは男竜が邪魔するんじゃねえか」
「じゃあ、大丈夫だよ。僕がそいつを抑えておくからね。というより、君は男竜も取り込んだのかい」
宋清はにっこり笑って、さらに続けた。
「李教授には気をつけてね。流星の涙を封じる法具を持ってるらしいから」
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