第11話

 建国式典が始まり、いよいよ次はオレの番。宋麗が三分間スピーチを考えたので、オレはカンペを読むだけ。どうやっても間違えようがない。たぶん。


 オレの番。あれ、右足と右手が同時に出て転びそうになる。なあに、いざとなったらやり直せばいいんだからと考えはじめる。演説が始まる。心臓の鼓動がうるせえ。もういいや。あ、終わった。ん、宋麗がキラキラとした目でこっちを見てる。


「三倍速、三倍速!!」


そんなに早口だったの?


 それからというものオレは旧政府軍の残党狩り、宋麗は各地の有力者に共和国支持を取り付けるため地方行脚。やはり、宋一族のネームバリューは凄いらしい。ちなみにウルファイは独立国家として共和国とは同盟関係を結ぶことになった。張女史は宋麗の顔を持つので、こちらも有力者に共和国支持を取り付けるため地方行脚。こういうとき整形組は役に立つ。共和国政府の中枢はというと、やはり数の力によりオレの故郷の国の人間たちに牛耳られる結果となった。


九月十三日午後一時三分。

首都 城陽を激震が襲った。


 その日、オレは香亮の旧政府軍の残党狩りに参加していた。やはり、香亮は古い都市らしく狭い路地が迷路のようになっていて攻めづらく守りやすい街であった。特にオレのように大技しかないタイプにはお手上げの状態であった。そんな折である。首都城陽を襲った大地震の急報を聞いたのは。


 オレは首都城陽に急行する。治癒魔術を使えるオレがいればいくらかは助けになるだろうと思ってのことだった。


 本震に続き余震が多数にわたり首都城陽は完全に崩壊していた。もう取り返しがつかないくらいに。


 首都城陽は地震とその後の火災により焼け野原となっていた。オレは必死に生存者がいないか探していた。その時、オレは自分の感覚を疑った。なんで今日に限ってここにいたのかと思い呆然とした。

そう、間違いなくそれは宋麗の気であった。オレはやりきれなくなった。ずっと考えていたのだ。何をって。ひょっとしたら宋麗の寿命は永昌基地で周恩楽に殺された時に尽きていたのではないかと。でも、宋麗の顔を見るたびにそれをオレは否定してきた。しかし、宋麗の死を回避するためだけにやり直していて、世界の本当の姿を歪めてもいいのか。


オレはこの日誓った。


たとえ世界のすべてを敵にまわしたとしても宋麗だけは守り抜くと。


 オレと宋麗は加檀の洞窟を出て首都城陽に向かって歩いていく。オレは悩んでいた。何をって、どうせ一ヶ月もしないうちに崩壊する城陽を多少なりとも犠牲を払ってまで攻略するのは策としてはどうなのかってことだよ。オレはクズだから楽して勝てればそれがいいってわけだ。


はあ。


オレは一つため息。

あれ、宋麗がむくれている。


「周兄!! 女の子と一緒にいるのにため息をする男はクズだから気をつけろって清兄が言ってた。周兄クズじゃないもん」


宋清、大正解。

オレはクズだから。

でも、クズのオレに大事な妹を託していったお前も相当のクズだぞ。


 オレの中の優先順位は世界より宋麗。これは絶対動かない。だったら、全部放り投げて故郷に一緒に帰ればってことにもなるが、残念ながらここは宋麗の故郷。そんな簡単に放り投げるなんてできん。宋清、お前だったらどうした?


 そんなことを考えているうちに城陽に入ってしまった。ん、宋麗がぎゅっとしてきた。ああ、前のことを身体が覚えているんだなと思ってオレもぎゅっとしてやった。彼女はオレの耳元に顔を寄せて囁いてきた。


「周兄。なんかこの人達変だよ」


オレたちの前には銃口をこちらに向けた友軍の兵士たちの姿があった。


「おいおいおい。なに味方に銃口向けてんだよ。オレが誰か分かっているのか?」


クズなオレは威圧的に兵士の一人に言い放つ。


「承知の上だ。お前は政府軍幹部の周恩楽。そっちが宋麗様に化けた張涼青。范将軍から指名手配されている」


兵士の一人がご丁寧に黒幕の名前を添えて説明してきた。嫌いじゃない。嫌いじゃないよ、そういうの。でも、范将軍って誰?


范将軍?

范将軍?

しょうぐ〜〜〜〜ん!!


「お前ら、ひょっとして香亮の部隊か?」


あ〜〜〜〜〜。

また、あそこか。

面倒くせえ。

ハイハイ。

やり直し。




オレの目の前には男竜がいた。


「お前はなぜ力を使いたがる。なぜ、あの女のためにこの力を使う?」


「わかんねえよ。使えるものは親でも使えってね。ハイハイ、オレはクズだからって答えでいいかな。オレは急いでいるんだ。早くそこをどけ!!」


「なぜ、そこまであの女にこだわる?」


「はあ、お前みたいな化け物にはわかんねえ感情じゃねえのかい」


「前にも言ったが、お前だってあいつら人間から見たら化け物だぞ」


「能力が化け物じみているだけなんだがね。見た目は人間だぞ」


「女竜、戻ってこい!!」


はあ?


「おい、それをなんでオレに言うんだ。オレは女竜になった覚えはねえぞ!!」


「もういい。俺が悪かった。なんでも直すから戻ってきてくれ」


本当、こいつダメ男だな。

女なんて捨てた男のことなんてこれっぽっちも覚えてねえのにな。


「お前がいないと俺はダメなんだ」


ハイハイ。

わかってますよ。

だから。

急いでいるんだから、そこどいて。


「お前、ひょっとして自分の姿見たことないのか?」


「ねえぞ。鏡もねえのに自分の姿が見られるのかい。おかしなことを言う化け物だ!!」


「お前、俺とここで何回会った?」


男竜は意味深なことを言ってくる。


「はあ? これで三回目だ。それがどうした?」


「俺はお前に会うのは二回目だ。お前、身写しの鏡を見たろ!!」


「おいおい、なに寝ぼけてんだ。オレは急いでいるんだよ。もういいだろ。そこどけ!!」


男竜はなにも言わずに道をあけた。


そうそう。

最初から素直にどけよ。

化け物。


両側にはこれまでオレが見てきた光景が広がっている。


そして。


「おいおい、先回りなんてひどいぜ。化け物」


ん?

おかしい。

今、男竜の口が動いた気がする。


「わかったかい。そいつがお前の姿だぞ」


男竜がオレの背後から言い放つ。


身写しの鏡に二体の竜が写しだされている。そうだね。鏡に写っていたらオレから見て左の首が男竜だよな。どうすっか。


「あれ、でもこの間はここで呪文が大きくなっていったんだよね。あれはどうしたんだろ?」


「俺に聞いているのか? 知るわけないだろ」


あれ、なんだ。

なんか全部わかった気がする。


「おい、クズ竜。さっさと次の恋をみつけたほうがいいぞ。そういうのみっともねえから」


オレはそう言って右の手のひらを天に向ける。オレの身体は光に包まれていく。


「待ってくれよお」


未練たらしい男竜の声だけが身写しの鏡の前に残った。



ここはどこ?


やっぱり、よくわからんものは使うもんじゃねえ。わかった気がするって気がしただけだった。


ん?

オレの前には魏礼総統が座っている。


「ん、なんか喋れよ。オレ、そういう冗談嫌いなんだよ」


魏礼総統は喋るどころか身じろぎ一つしない。


「おい今度はなんだよ。なんの冗談だ。頭の悪いオレをイジメて面白いか!!」


この空間で動いているのは、ひょっとしてオレだけ?


えっ。

でも、オレはこの部屋の名前を知っている。


『時の部屋』


う〜〜〜〜〜〜ん。

どこで聞いたんだっけ?



オレはその部屋を観察する。

まず、中央にはベットがある。

その隣に魏礼総統が座っている椅子がある。この部屋には窓がない。


ん、扉があるぞ。


だけど、オレの直感がそこを開けてはいけないと叫んでいる。


ハッハッハッ。

そこに山があれば登り、そこに扉があれば開けるのが人の道理だろう。


オレは迷わずその扉をギイと開けた。


ほら、やっぱり城陽だ!!


ん?

なんか変だ。

なんだか、今の城陽にしてはすべてが古臭いっていうか。


ヤバいと思って、もとの部屋に戻ろうとして振り返る。


そこにはなにもなかった。




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