第10話

 彼はそう言ってオレの後方を指差す。オレは振り返る。やはり、真っ直ぐ細く長い道が続いているだけだ。

オレは彼に礼を言おうと振り返る。既に彼はいなかった、最初からいなかったのかもしれないが。とにかく、今は手掛かりは一つしかない。この細く長い道の先にある時の狭間だけだ。




そして、オレはこの細く長い道を歩いていった。すると、どうだろう。最初にいた場所からはなにも見えなかったその道の両側に明らかにオレが知っている光景が広がっていく。


そう、オレはこの光景を何度も見ているのだ。


そう、何度も何度も。

オレはここを歩いていった。

そうだよ。

あの手紙もこの道を歩いていった時に読んでいた。

なんでそんな大事なとを忘れていたんだろう。


なんだろう。

いつもと違う。

なにかノイズのようなものが聞こえる。


やがて、左にクニホシ右に宋麗いや宋麗の顔をした張涼青が見えてくる。


じゃあ、次は宋麗のはずだ。


オレの直感がそう叫ぶ。


何故だろうか。

オレの眼は右側に釘付けだ。


先ほどからのノイズはだんだん大きくなってきた。

なにかを言っているようにも聞こえるが、なにを言っているかは聞き取れない。

なんだろう。


そして、その瞬間がやって来た。


オレは細く長い道の右側を見て固まった。正確に言うと凍りついていた。


そこにはオレは睨みつける男竜の姿があった。



 オレは男竜と対峙する。勝てる気がしねえ。ノイズはさらに大きくなっていく。なにを言っているのかわからんが、オレはこの呪文を聞いたことがある。そう、加檀の洞窟で覇王の封印を解くためにジジイたち三人が唱えていた呪文だ。その呪文は一気に大音響となってオレに降り注ぐ。やがて、オレは白く輝く光に包みこまれていく。そして、オレの意識は消えていった。




気がつくと、オレは宋麗を抱き洞窟に立っていた。そう、あの三体の石像が立つ魔法陣の上に立っていたのだ。


 オレは宋麗が目を覚ますまで洞窟に座っている。おとぎ話ならここで王子様がお姫様にキスをしてってところだが、ここは現実だしオレは王子様じゃねえ。なんだろう。起きねえな。試しに。オレの顔が宋麗の顔に近づいた瞬間、宋麗の目が開いた。いや、すぐに閉じた。

気のせいだったかとしばらくと待っていると、宋麗が大きな声で文句を言ってきた。


「おいおい、周兄!! 待ってんのになんで。なんでだよ!!」


あ、やっぱりあの瞬間起きたのか。


「私と周兄はこの流星の涙でつながってんだからね。ん? あれ? なにこれ。周兄の流星の涙。なんか変」


オレは胸ポケットからもう一つの流星の涙を取り出す。


確かに変だ。


どこが変かと考えていると、その流星の涙は崩れさって砂となっていく。


この場所は知っている場所なんだからさっさと城陽に向かおうとオレの提案に宋麗はお墓お墓と言って流星の砂を埋めていく。


子供かよ。

まあ、そこがかわいいんだけどね。


「へへへ、流星ちゃんのお墓つくっちゃった」


おいおい、名前までつけてたのか。


「まあ、これでオレは嬢ちゃんのもとに飛んでいけなくなったってことだろ」


宋麗は真っ赤になって抗議してくる。


「なんでだよ。あれは流星ちゃんの能力じゃなくて、周兄の私の想いの強さじゃん」


何を言っているんだろうか。

意味がわからん。


 オレと宋麗は城陽に向かって歩いていく。城陽は三ヶ月ぶりだ。

オレが今回、宋麗をお留守番させたのは実は彼女に城陽にこさせたくなかったからだ。

ひょっとしたら彼女はここで何度も殺されたことを覚えているのではないか。いや、頭では覚えていなくても身体が覚えている可能性はあるだろう。


オレたちは城陽の街に入っていく。


やっぱりだ。


街に入った途端、宋麗はオレに抱きつき、震えている。

なんとか励まさなきゃと思い、彼女の肩を強く抱き、大丈夫だよと励まし彼女の顔を見る。


えっ?

宋麗さん。


ニヤケ顔の宋麗の顔がそこにあった。


【宋麗視点】

もう、まったく周兄ったら照れちゃって。さっきから黙り込んで真面目な顔してる。


手ぐらい繋いだって別にいいんだけどね。添い寝してもらった仲だしね。


あ、城陽だ!!


へへへ、ここで周兄と私は結ばれたんだよね〜〜〜〜〜。

ニヤケがとまらん。


思い切って周兄に抱きついちゃえ!!


えっ?

周兄が私の肩を強く抱き寄せてくれてる!!

わ〜〜〜〜〜〜〜〜〜い。

へへへ、もうニヤケがとまらん。


覚えていないどころか記憶を改ざんしている宋麗であった。




 オレたちは政府官邸まで歩いていこうとするが、友軍が大挙して押し寄せているため一向にたどり着かない。仕方ないので宋麗を抱いて飛んでいく。前にも思ったけど高いところこわいのかな。やたら強く抱きついてくる。そして、政府官邸玄関に到着。バリゲートを築いて抵抗している。めんどくせえな。さっさと白旗挙げろよ。すると、向こうから若い軍人がやって来る。


張白だ。


「やあ、楽ちゃん。遅いよ。もうどうなるかと思ったよ。あれ、後ろに隠れてるのは姉ちゃん? 久しぶり元気?」


「ハイハイ、両方不正解だね」


オレは張白を気で拘束して抵抗できないようにして、こう言った。


「そろそろつけを払ってもらわにゃ困りまっせ。張白の旦那」


さあ、クズの本領発揮だ!!


「よし、まずは言い訳を言わせてやる。張白の旦那さあ。なんで宋清を殺したんだ?」


「なんのことだ。知らん。知らん。知らん」


張白の顔を掴み上げ、怒りに任せ拳を顔面に一発!!


「わかったよ。張白の旦那、宋清を殺した理由はいいよ。宋清を殺したのはお前か?」


「宋清を後ろから殴り殺したのはお前じゃねえか!!」


もう一発!!


えっ、宋麗も顔面に一蹴り!!


宋麗はこっちを見てドヤ顔だ。


お嬢様、それはそれでご褒美かも。


「では、李月麗を殺したのはお前か?」


「俺じゃねえ。お前が部下にしたんじゃねえか」


もう一発!!


宋麗をオレは止める。


いかん、これ以上ご褒美をやっちゃ。


「じゃ、そこにいる宋麗を殺したのはお前か?」


「えっ、ぴんぴんしてんかねえか!!」


宋麗がポカンとしているので。オレが判決を下す。


「主文、張白を銃殺刑に処す」


「待て、待て、待て。俺のような優秀な男を殺したらこの国の損失だ!!」


「分かったよ。チャンスをやるよ。お前をここに縛っておいてオレたちは立ち去ろう。優秀な男なら誰かに助けてもらえるだろうよ」


オレと宋麗は政府官邸内に歩いていく。


こんだけクズっぷりを見せたら、宋麗もドン引きだろうと思い、彼女の顔を見る。


ダメだ。

お嬢様には免疫がなかったせいか、目をキラキラさせてオレを見つめていた。


これ、やり直したほうがいいのかな。



 オレたちの後ろから断末魔が聞こえてくる。首脳たちはどうするかだ。とりあえず捕まえて城陽裁判でも開くか。はあ、気が滅入る。


あれ?

全員自害してる。


おいおいおい。

責任取らずに自害って、オレよりクズだな。

自殺しようとした過去を棚に上げるオレ。いいんだよ。クズなんだから。なにやっても。


友軍が突入してくる。

この状況を見て歓声をあげる。


なぜか宋麗はオレの右手を掴み、右手を上げさせる。宋麗はドヤ顔だ。いやいや、オレはなにもやっちゃいねえ。



 官邸陥落から三日。八月十五日、オレたちは共和国の建国を宣言した。まだ、国内には旧政府軍の残党が小競り合いを起こしている。それに対抗するためにオレたちは建国式典を開き、臨時大総統となったオレと革命の女神と崇められつつある宋麗の演説を行うことになった。


 オレと宋麗は仲良く並んで式典会場に面するバルコニーに向かって歩いていく。もちろんクズのオレにそんな大観衆の前で演説するなんてできない。もうカンペ頼り、時間は宋麗が埋めるだろう。よし、この作戦なら問題ない。


オレはすっかり忘れていた。

そう、魏礼総統がなぜ失踪したのかを。





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