第9話
オレはその男に駆け寄り、とりあえず治癒魔術をかけてやる。前にも言ったがオレは魔法使いじゃねえ。じゃねえが、結果が治癒魔術と一緒だから治癒魔術と勝手に呼んでいる。とりあえず、傷を完治させた男がオレにすがってくる。
「あんた。あんただよ。お頭を助けてくれ」
「お頭って誰だよ」
オレがその男に問いかけるとその男はオレの知っている名前を答えた。
「お頭の名はクニホシ。クニホシだよ。頼む。お頭を助けてくれ」
クニホシか。
その男の話はこうだ。自分はクニミツという名で、ここから西にあるウルファイという街の人間だと。ウルファイ族も今回の蜂起に乗じて一気にウルファイ族の国を建国しようとしたが、政府軍に察知されて逆に追い込まれている。
魏礼を選ぶか?
クニホシを選ぶか?
それが問題だ。
「クニホシさんって、この間会った人だよね。助けてあげなよ。周兄」
飯を食い終わった宋麗が口を出す。
「そうか、あんた。革命軍の人か。助かった」
いや、オレはまだ助けるなんて言っていないが。
「へへへ、エッヘン。周兄に全部任せておけば大丈夫!!」
なんだ。
この娘のオレに対する絶対の信頼感。
オレたちはクニミツが乗ってきた車でウルファイを目指す。オレが一気に飛んでいくっていうことも考えたが、もっと情報がほしいし、宋麗がお腹いっぱいのお休みタイム。まあ、間に合わなければもう一度やり直せばいいだけだから。オレはそう思って、クニミツから話を聞く。
「俺達はお頭が作戦会議から帰ってくるのを待ってたんだ。Xデーは六月十八日零時というのは通信で伝わっていたので挙兵の準備をしていたんだ。事件は十六日の夜明け前に起きたんだよ。鶴泳という男が率いる民兵部隊によりウルファイの街は襲撃されたんだよ」
鶴泳?
どっかで聞いた名前だけど、思い出せん。
オレの頭のポンコツさを恨む。
「う〜〜〜ん。周兄。もうそんなに食べられない」
宋麗のかわいい寝言だ。あんなに食って夢の中でも食ってたのかい。
話をもとに戻す。
「その民兵たちは俺達を容赦してくれなかった。政府から許可された組織だから略奪し放題だって言っていたんだよ。もう、あんなに破壊されたら街は復興できねえかもしれねえ」
ん、鶴泳って革命軍第四部隊の鶴泳か。
じゃあ、ひょっとしたらジジイ以外の革命軍の部隊長は最初から政府側?
とんだ茶番だな。
「俺達は街を捨て近くの山に逃げ込んだのだが、あいつら足の遅い年寄り子供を集中攻撃して」
クニミツはすすり泣く。そういうのはいいから、ちゃんと前向いて運転してくれ。
「でも、今の話の中にはクニホシは出てこないけど」
クズのオレは話の腰を折る。
「お頭の話か。作戦会議も終わって孟将軍という男と一緒にこっちに戻ってくるという話だったけど、明日の正午にウルファイの街でお頭の公開処刑が決まったって発表があって、俺は居ても立っても居られなくなってあの街に助けを求めに行ったんだよ。奴らから逃げるときにボロクソ撃たれたんだがね」
ここも孟将軍か。
そこまで言うなら、その時点まで戻ればいいと思うが、魏礼総統にタイムなんちゃらが危険だからあまりやり直すなと言われたので、素直なオレは、いや頭のよくねえオレはビビってむやみにやり直せない。なんか時間がなんとかで世界がなんちゃらでって、要はよくわからんけど世界が危険だからあまりやり直すなってことだろ。
オレたちは車をウルファイの街の直前で停める。
「わ~〜い。今日はお泊まりだ。てへ」
宋麗がすっごく嬉しそう。
「お喜びのところ大変申し訳ないのですが、これからオレはクニホシ救出に行くから」
オレがそう言うとクニミツがどこに捕まっているか分かるのかと言うので、頭のよくないオレは素直に言う。
「いや、君たち二人が明日捕まったから救出に行ったんだよ」
クニミツはポカンとしている。
そりゃ、そうだよね。
「えっ、誰が捕まったの?」
宋麗が無邪気に聞いてきたので、こいつとこいつと言って、宋麗とクニミツを指差す。
「あ〜〜、いけないんだ。人を指差しちゃ」
君が聞いたんだよね。
本当、かわいいとなに言ってもいいと思っている。どんな教育したのか兄貴の顔が見てみたい。
「と言うことで、君たち二人は今回はお留守番。以上」
オレがそう言うと、宋麗がやれ、こわいだの、やれ、さみしいだの文句を言ってる。クニミツはまだポカンとしている。
「じゃ、三人で行けば大丈夫ってことで」
宋麗がまとめに入る。
それ、明日やったことと一緒なんですけど。
オレが抵抗していると、宋麗がアホなことを言う。
「ふふふ、周兄。周兄は大事なことを忘れてる」
「オレが?」
「そう、周兄が言っているのは明日の話。でも、私が言っているのは今日の話!!」
あれ、宋麗ちゃん。最近劣化してね?
オレはさっき、もとい明日三人で打合せた内容を発表する。
「実は明日君たち二人を救出するためにいろいろやったんだよ。君たち二人は救出できたんだけどね。肝心のクニホシの救出には間に合わなかったんだよ」
そう言うと宋麗が素朴な疑問をオレにぶつける
「それってあれを使えば私のところに来れるから問題ないんじゃない。もう、周兄は私のことが大好きすぎて変な能力つけちゃって。うふ」
真っ赤になってわけの分からないことを言う宋麗にオレは言う。
「あれはね。確かに君のところには行けるんだが、どこに飛ばされるか分からないんだよ。目的はクニホシ救出なんだから、それじゃダメじゃねえか」
「むむむ、それはそうだけど。目的は私じゃないの」
ん、言ってる意味がわからん。
「でな。戻ってくる時に君たちと打合せしたんだよ。あれ、どこ行くの?」
「だから、三人で行くんだよ」
宋麗、大丈夫?
仕方ない。もう出たとこ勝負でダメならもう一度。クニホシが監禁されていた場所に行く。
あれ?
いない。
なんで?
ていうか。
なんでお前が捕まってんだよ。
そこに捕まっていたのは宋麗、いや張涼青だった。
どゆこと?
とりあえず、張女史を助けて今回の経緯を説明する。タイムなんちゃらだからそれは控えろって怒られた。
いや、そもそもタイムなんちゃら自体がよくわからんのだが。
「じゃ、クニホシはどこにいるんだ?」
オレは張女史に尋ねた。
オレはクニホシの行方を張女史に尋ねたが、当然首を振るばかり。確実に言えることは公開処刑の場に行けばそこにはいるであろうということだけ。
ん?
あのテーブルの上の手紙って、もう一度やり直したらどうなっていたんだろう。そんな疑問がオレの頭を支配していく。そして、オレは実行した。
そこにはクニホシがいた。
ただし。
いたのはクニホシだけだった。
「おい、久しぶりだな。元気だったか」
「よくこの状況で冗談が言えるわね。早くこの拘束を解きなさいよ」
「うるせえ女。口も拘束してもらえば良かったのに」
相変わらずのクズっぷりだなと思いながら、クニホシの拘束を解いた。
そのまま、さっき車を停めた場所へ。
おっ、あった。車あった。
えっ?
そこにいたのは、クニミツと宋麗の顔を持つ張涼青だった。
宋麗がいない。
オレは迷わず、もう一つの流星の涙に向かって念じた。
オレの目の前には細く長い道が真っ直ぐ続いている。
ここは見覚えがある。加檀の洞窟で見た光景だ。
そして、男竜がやって来てって。
あれ、人だ。
男の人が向こう側から歩いてきている。
オレはこの男に会ったことはない。
だけど、この男の気はよく知っている。
宋清だ。
彼はオレの前に来るとにっこり微笑む。
だが、一言も発しようとしない。
オレは堪らず口を開いた。
「おい、宋清。宋麗の居場所を知らねえか?」
彼は黙ったままだ。
「お前の大事な妹だろ。なんとなくだが、お前が知っていることぐらいオレだってわかるんだよ。なあ、頼むよ。宋清、教えてくれよ」
彼はふたたび微笑んでこう言った。いや、言ったようにオレには思えた。
『時の狭間』
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