第8話
オレは三百万の政府軍を前に大流星群を発動し、結果も確認もせず香亮に向かって飛んでいく。まあ、こっちはどうやったって結果は変わらん。問題は香亮だ。あいつが寝返る前にオレが勝負を決めればいい。
オレは全力で飛んでいく。あれ以来、不思議なことに飛行力はまったく落ちていない。男竜はなんにも言ってこないが不気味だ。
香亮に到着した。開戦の際の陣形は作戦通りだ。オレは香亮の民主派部隊の前に立つ。孟将軍は慌てている。
「これはシューティングスター将軍。貴公は海秋基地攻略のはずであったな。何故ここに?」
オレはなにも言わずに彼の右手に彼の拳銃を握らせる。その銃口を彼の頭にもっていく。
「オレがさっきここに来た際にここは政府軍に蹴散られていたんだよ。あんた以外はな。オレを人間だと思わんほうがいい。さあ、懺悔の時間だ。たっぷり仲間に懺悔しろよ」
ここに至っても孟将軍の態度は変わらない。クズは死ぬまでクズだ。クズのオレが言うんだから間違いない。
「こいつ、化け物だ!! みんな、こいつの言うこと聞くな!!」
いや、化け物だから。
最初から悪役に徹しているんだから。
オレは奴の。
オレが引き金を引かせる前に孟将軍は民主派メンバーに銃殺された。クズの最期はこうなるのか。オレもこうなるんだろう。
さてと、仕事だ。
ざっと三十人ほど。
こんなにできるかね。
一人、二人。
あと三人、あと二人。
政府軍の足音が近づいてくる。
焦るな。
オレ。
あと一人。
よし、全員。
みんなごめん。
オレは民主派メンバーを気の綱で引っ張り上げる。なにも知らない民主派メンバーは阿鼻叫喚!!
オレはそれを安全な場所まで運んでいく。いや、どう見てもオレが民主派メンバーを拉致ってる。安全な場所まで運んだら解放する。
そして、なにも言わずに悪役は去っていく。
オレはふたたび北上し、永昌基地へ向かって飛んでいく。えっ、海秋基地はいいのかって。そんなの既に陥落しているに決まってるじゃん。
政府軍は撤退していく。無血開城だな。楽勝、楽勝。
友軍の軍勢も二万五千の兵力で永昌基地に入城してきた。
なにかがおかしい。
なにが?
う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん。
わからんが、なにかがおかしいのだ。
ここにあるべきものがないような気がする。
まあ、いいか。
オレの頭じゃわかんねえよ。
オレは司令室に足早に歩いていく。なんだろう。内容が思い出せん。うんうん唸っているうちに司令室に到着した。テーブルの上を見る。なにもない。そんなわけがない。オレはその手紙を読んでいる。
そのはずだ。オレが読んだのは前回ここに来たとき? 違う。今回だ。
そうだ。やり直してみよう。
オレは司令室に足早に歩いていく。
司令室のドアを乱暴に開ける。
テーブルの上に一通の手紙があった。
どゆこと?
その瞬間、オレの脳裏に浮かぶ手紙の文字。この手紙は宋麗の公開処刑の招待状。間違いない。
オレは手紙を読む。やはり、宋麗の公開処刑の招待状だった。
どゆこと?
ん、手紙?
手紙だよ。
司令室のテーブルの上に手紙があったんだ。
内容が思い出せん。
手紙を読み、呆然としているオレ。わかんねえ。まったく理由がわかんねえ。なんで手紙が突然現れた。なんで宋麗の公開処刑の招待状だってわかった。しばし、考えていると、胸ポケットに違和感、いや違和感ではなくいつもあるものを感じる。
オレは恐る恐る胸ポケットのそれに手を伸ばす。
えっ?
冗談だろ。
それは今、宋麗とお留守番しているはずだが。
オレはそれを取り出して目の前にもってくる。間違いない。流星の涙だ。だけど、いつもの流星の涙ではないような気がする。
ん、オレはこの流星の涙の使い方を知っている?
オレは基地にある政府軍の軍服に着替え強く念じた。
【宋麗視点】
どこで間違ったの。私はただ周兄と一緒にいたくて香亮組の孟将軍って人に頼んでこっちに帰ってきたのはいいけど、孟将軍が私を政府軍に引き渡して、ここに磔にされている。
死にたくない。
死にたくない。
死にたくない。
周兄、助けて!!
なんかヤダ。
そばにいる兵士。
なんかずっとぶつぶつ言ってる。
銃殺されるよりこっちのほうがこわい。
こわい。
こわい。
こわい。
やがて、処刑の号令が鳴る。
あ、死ぬんだ。
私は目をつぶり、その時を待った。
あの後何発も銃声が聞こえたけど一向にその時は訪れない。
私は目を開ける。
ん、何だこれ。
私の前で銃弾が浮いている。
そばにいる兵士の声がだんだん大きくなっていく。
こわい。
こわい。
こわい。
「……は封印された男竜を想い涙を流す。流れた涙は流星の涙となり時を駆けていく。男竜は遠くにいった女竜を想い涙を流す。流れた涙は流星の涙となり空を駆けていく」
あれ、これ詩?
ぶつぶつ言っていた兵士が立ち上がる。
「嬢ちゃん、ダメだよ。ちゃんとお留守番してなきゃ!!」
宋麗が泣きべそかきながら、ずっと文句を言っている。やれ、遅いだの。やれ、さみしいだの。この娘には命のやり取りをしている自覚があるのだろうか。今だって銃弾の雨あられだし、敵兵は突撃してくるし。
まあ、銃弾も兵士も一定の距離でこちらにこれないようにしてるから。これも覇王を封印から解いた後の新ワザ。
しかし、ここはどこなのだろうか。この流星の涙ってもう一つの流星の涙のところに連れていってくれるのだが、それだけ。今わかっているのは。
ここはどこ?
オレはここの兵士たちを観察する。ん、あれ。どっかで見たことがある兵士が数人いる。第一部隊にいた兵士じゃねえか。ということは、ここは城陽と決めつけて大丈夫かな。でも、この場所見覚えがないんだよね。
ま、いいか。
オレはまだ泣きべそかいている宋麗をお姫様抱っこして上空に飛んでいく。不思議と宋麗が泣きやむ。
オレは上空から観察する。城陽とは違う。一体どこなのだろうか。とりあえず、流星群で政府軍を壊滅しておく。そう言えば、この国の東部や南部だったら今はこんなに戦力が残っているわけない。ここは西部か北部どちらかと見て間違いない。
たぶん。
オレは今、西部の街 郭陽にいる。宋麗がお腹、お腹すいたと叫ぶので近くの街に立ち寄ったのだ。
宋麗はって。オレの前でムシャムシャ飯食ってる。逆にかわいい。この細い身体にそんなに入るところがあるのかというぐらい食ってる。
オレはって。オレは覇王の封印を解いた辺りから食欲というものがない。食べられないというよりは食べる必要がない。魏礼総統が言っていた覇王伝説となにか関係あるのかもしれんが。
オレはコーヒーを飲みながら手元にある新聞に目をおとす。『首都城陽陥落』という衝撃的な見出しが踊っている。案外、苦戦したんだなという感想だ。
ん。
オレはその下の小さな記事に目を奪わた。
『魏礼総統失踪』
どゆこと?
う〜〜〜〜ん。どうするか。
通信機は永昌基地に置いてきている自分の軍服の中。
公衆電話?
どこにかける?
「嬢ちゃん。一応聞いておくけどさ。通信機って持ってる?」
「んぐ。ふぁいよ」
どうやら、ないよと言いたいらしい。そうだよね。磔にされていたんだから。食べ終わるのを待って、連絡先でも聞くか。
店に慌てて男が駆け込んできて店内が騒然となる。その男が叫ぶ。
「誰か助けてくれ。お頭が、お頭が」
今どきお頭って。
オレは顔を上げその男を見る。
その男は血だらけの軍服を身にまとっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます