第17話

「本当の敵? 李祭月の後ろにいる奴のことか」


オレがそう言うと、鏡の中のオレは笑いながら言った。


「まあいい。そのうちあいつも痺れを切らしてお前に接触してくるだろう。で、あたしになんかようかい」


「いや、オレはオレに手紙の内容を事前にインプットして、この流星の涙をオレの胸ポケットに忍び込ませる。こんなことできる?」


鏡のオレはみるみる女竜の姿になっていく。そして、オレは人間のオレに戻っていった。


「そんなの簡単だよ。お前、人間みたいなこと言うね。まだ覚悟ができていないみたいだね。まあいい。お前が手に持つそれと胸ポケットにあるものをお前に渡せばいいだけだ」


オレは胸ポケットに手を伸ばす。


手紙だ。


手紙の内容を確認してフッと笑ってしまった。


場所が書いていない招待状ってねえだろ。そりゃ、思い出せねえはずだ。


「あの女は大丈夫だ。時間稼ぎをさせておく。お前はあいつとゆっくりと対峙しろ。そして、まあいい。早く行け」


女竜がそう言うとオレの身体を光が包む。



 オレは見覚えのある部屋にいた。永昌基地の司令室だ。オレはテーブルの上に手紙と流星の涙を置く。


これでいいのかな?


すると、ドアをノックして男が入ってきた。白い軍服を着たオレだ。


「随分時間かかったね。待ちくたびれたよ」


彼(オレ)がそう言う。


「そう言うな。こっちはこっちで大変なんだよ」


オレは彼(オレ)に言った。


「例のものはこの二つだね。もらうよ」


え、それでいいの?


 彼(オレ)は流星の涙と手紙を手にとって胸ポケットに入れた。


「待て。女竜は」


オレが彼(オレ)にあの詩を教えようとすると、彼(オレ)は言った。


「流星の涙伝説の詩だね。知ってるよ」


え、いつ知ったの?


「じゃあ、オレはもう行くよ。麗ちゃんを待たせるわけにはいかないから」


彼(オレ)は政府軍の軍服に着替えている。

処刑場に潜入するんだ。なにも不思議ではない。不思議ではないはずなのになにか違和感がある。


「じゃあ、行ってくる」


彼(オレ)はそう言って消えていった。


なんだろう。

ものすごい違和感が残った。


 オレはあの時、処刑場に潜入するために政府軍の軍服に着替えた。そのまま、自分の白い軍服をここに置いていった。なにも意図はなかった。でも、彼(オレ)がそうする姿を見てなにか違和感を感じた。

違和感といえばもう一つある。

それはオレ自身だ。

オレはこの部屋にいる必要があるのか。


オレはこの二つの違和感に頭を悩ませながら部屋の中をぐるぐると歩いている。オレの前に彼(オレ)が置いていった白い軍服!!

オレは得心し、彼(オレ)が置いていった白い軍服に着替える。


そう、そんな難しい話じゃないんだよ。


白い軍服に着替えたオレはソファに座りそいつを待った。


あれ。

オレは軍服の胸ポケットに手を伸ばす。

なんで流星の涙がここに?



やがて、ドアをノックしてそいつが入ってきた。


「まあ、シューティングスター。早かったのね。でも、こんなところにいて大丈夫? 革命の女神が大変なことになっているっていうのに。薄情ね」


魏礼総統の顔をしたそいつはオレにそう言って向かいのソファに座る。


「李祭月さんだっけ。これで三回目かな。彼(オレ)に行かせているから大丈夫だよ」


「あらやだ。なに言ってるの」


オレの問いに女の声で対応する李祭月。諦めたのか。男の声で話しはじめた。


「いや、私は君に会うのは初めてだがね。やはり、流星の涙というのは厄介なものだね」


「そうかい。そう言えば魏礼総統を時の部屋に封印するなんてよく考えたね。クズのオレでも思いつかなかったよ」


オレがそう言うと、彼は笑いながら言った。


「君のような凡人以下の人間には思いつかないだろうよ。なんたって、私は天才だから」


自分を天才と呼ぶ奴に天才はいねえ。


「前回の続きなんだけど、オレではどうにもならない相手って誰だよ。もったいぶらずに教えろよ」


オレがそう言うと、李祭月は今度は素直に答える。


「流星の涙が復活する時、覇王復活するって聞いたことがないかい」


「ああ、流星の涙伝説か?」


「いや、覇王伝説だよ」


「う〜〜ん。流星の涙伝説でさえマトモに聞いてねえのにその先の覇王伝説なんて知るわけねえだろ」



「フフ、お前は復活した覇王に殺される運命(さだめ)ってことだよ」


「覇王って、ひょっとして加檀の洞窟に封印されていたあれか。あれならオレが取り込んでいるはずだけど」


「あいつらか。私があれほどやめろと言ったのに。うぐぐ」


李祭月はそう言って泡を吹きながらその場に倒れた。オレは李祭月に駆け寄る。すでに息はなかった。


おいおい、こいつ肝心なところでいつも死ぬよな。よし、リセットだ。


「あいつらか。私があれほどやめろと言ったのに。うぐぐ」


いや、もっと前だ。

どうした。

オレ!!


「無駄だよ。この男はもうお前の前には現れない。久しぶりだな。シューティングスター!!」


不思議なことに、それはオレの口から発せられた。


「おいおい、お前。さっきは俺様を取り込んだってこの男に言っただろ。別に不思議じゃないだろ。お前の声を使って喋るくらい。それともなにかい。お前、まだ人間のつもりかい。流星の涙と俺様を取り込んで人間のままでいられるわけないだろ」


クソ。

オレが喋れない。

こいつが覇王か。


「まあ、今回は挨拶程度だ。次はこんなもんではすまんぞ。シューティングスター!!」


「おととい来やがれ!!」


なんで雑魚キャラみたいなセリフのところで喋れるようになるんだよ。


 李祭月の死体を見ながらオレは考える。


なんで李祭月は革命の女神の公開処刑を知っていた?

なんでこの軍服に流星の涙がある?


手紙はないのに、流星の涙はある。

手紙はないのに、流星の涙はある。


要はオレにこれを使って宋麗のもとに行けってことかい。


じゃあ、李祭月はなんで、公開処刑のことを知っていた?


う〜〜ん。

オレの頭じゃわからん。


とりあえず、行けばいいってことだろ。

シンプルに考えよう。


オレは流星の涙を握りしめ強く願う。



ん?

ここは見たことがある。

というよりも時の部屋だ。



やられた。

ベットの上に流星の涙と手紙。

手紙の内容なんて、おおよそ予想がつく。だから、李祭月が公開処刑のことを知っていたのか。


いや、別にいいんじゃねえか。宋麗のもとには彼(オレ)が行ったわけだし。ここはポジティブに考えよう。そうだよ。宋清に相談にきたと思えばいいんじゃねえか。


よしと言って、オレはギイと扉を開ける。


そこには何もなかった。

オレは時の部屋の後ろまで見にいったがやはり何もない。


どゆこと?



 オレは時の部屋に戻り、椅子の上に置いてあった流星の涙を眺めている。これは宋麗が肌身はなさず持っていたと思うと五十歳独身男には刺激が強すぎる。


うわ、、鼻血出そう。


もう一回、見てみる。


へへ、おじさん興奮しちゃうんだけど。


ん?

なんか変だな。

宋麗に渡した流星の涙って、こんな形だったっけ。


オレは無性に椅子の上に置いてある手紙が読みたくなったが、李祭月の屈辱的な手紙だったらと思うと、封を開けるのを躊躇ってしまう。


じゃ、とりあえず送り主だけ。

ビンゴ。

ほら、李祭月。


ん、なんか変?


 オレは手紙の送り主を見て考え込む。確かに送り主は李祭月。これは間違いない。

でも、おかしい。何がおかしいって。

なんで送り主のところに李祭月って書いたんだろう。


オレは手紙の封を開け、手紙を恐る恐る読みはじめた。



周恩君様


君がこの手紙を読んでるということは私はこの世にいないのだろう。

これは君への遺言と思って最後まで読んでほしい。

流星の涙の能力者である君の前には私たちではどうにもできなかった相手が存在する。

君もいつか出会うであろう覇王の能力者だ。


流星の涙の能力者と覇王の能力者は相容れない存在であり、流星の涙の能力者では覇王の能力者に勝ち目はない。

流星の涙の能力者である君が覚醒した今となっては覇王の能力者が覚醒するのは時間の問題だ。

月麗を看取ってくれた君に非業の最期を迎えさせたくない。

とにかく覇王の能力者からは逃げろ。

これが私からのアドバイスだ。



この先は破れていた。

大事なことが書いてあったのか。

挨拶程度のものが書いてあったのか分からない。


今度会った時に聞いてみよう。



この遺言。

オレはどう受け取ればいい。



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