第十話 『治安維持のための冒険者雇用!?』 その48


 アオはいつだって正しい言葉を語ってくれる。オレはクレアに腕を伸ばして、騎乗を手伝うよ。紳士だからね。貴族らしくもあるかも。あるいは、自由騎士であり……そして、冒険者。肩書きが多いと、自分が何であるのか分からなくなりがちだな。


 どうあれ。


 いいヤツをやろう。


「頼むぞ、アオ」


『はい。おまかせください』


 相変わらず、アオはとんでもなくいい悪霊だ。昨夜のクソみたいな貴族の残りカスみたいなものと同じ悪霊だとは、思えない。


 すがすがしいヤツだった。


 しかし、相変わらず誤解を受けやすくもある。


「ひ、ひい!!」


「魔族が、せ、攻めてきた!!」


『ちがいます、せいぎのものですので!!』


「そうだそうだ。アオは、めちゃくちゃ正義だぞー!!」


 朝もやの奥から、白骨でつくられた馬が飛び出してきたぐらいで、みんな驚き過ぎじゃないだろうか…「ムチャクチャ言ってるわね、レオ」。起きたか。「眠ってはいないわよ。魔神が眠り出したら、数百年レベルで眠っちゃうわ」。それだと、二度と会えないからさみしいじゃないか。「さみしがりやのレオが生きているあいだは、眠らないでいてあげるわ」。そいつはありがたい。フェアじゃないほどのありがたさだった。


 誤解にもとづいた悲鳴が、朝もやのあちこちから響いたよ。「かわいそうに」。そうだな、アオがかわいそうだよ。「身内びいきの赤毛さんだこと」。他人より身内のほうが大切に決まっているからね。


 だけど。


『わたし、こわがらせてしまっていますね……っ』


「世の中がなれてしまうまで、叫べばいいだけだ!! 誤解をするな、オレたちこそが正義なのだと!!」


「そうだぞ。アオ。ちゃんと、アオとハルが正義のスケルトンなお馬さんたちだというコトは、じんわりとだが広まっているのだ。遠からず、お前を見ても、誰も驚いたり、怖がったりしなくなる」


 ほんと。オレにはもったいない恋人だ。大人のレスリングをしたくなる……じゃなくて、愛おしさを帯びた誇りで、胸がいっぱいになるぜ。


『あ、ありがとうございます。おふたりのことば、とてつもなく、こころづよいです!』


 素直で善良なのに、悪霊ってだけで差別しては良くないよな。困っているヤツのために、これだけ走ってくれるヤツは心から信じられる。啓蒙活動が、必要な案件だぜ。「演劇でもやってあげる?」。演劇が、それはいい。「あるいは、あのバカな記者に記事でも書かせるとか」。ゾフィーをバカって言うな。あれは、演技なんだ。演技のハズなんだ。「どうかしらね」。


 不安な面もあるが、それは世の中が不安定であり、そして、成長の余地があるという証拠なのだと信じ込もう。演劇や新聞記事や、何でもいい。たくさんの方法で、アオとハルの善良さを知らしめるのだ。「がんばりなさいな」。おうとも。


 さて。


「朝もやに、ドワーフっぽい人影がいるぞ、ダーリン」


「マークっぽいな。おい、マーク!! 逃げるな、止まれ!!」


「誰も逃げちゃいねえよ!! ま、魔族め……っ。オレは、オレは、みんなの仇を、今日こそ討つんだ!!」


 作業用のノミを取り出すドワーフの大工がいた。「あれでは魔族に勝てないわね」。かまわんさ。魔族じゃないんだから。


 しかし。


 マークもひどい誤解をしていた。震えて青ざめる顔、唇なんて水死体みたいに青かったのだが。それでも、「勇敢ね。ドワーフの冒険者らしいわ。この魔族騎馬から逃げないなんてね」。魔族騎馬ではない。正義の存在である。


「く、くるなら、こいっ。さ、刺し違えてやるんだ、ちくしょうめええええ!!」


『ごかいしないで、わたしのめをみてください』


 おだやかな言葉で、アオは問いかけた。「レオの三倍は紳士な声だわ。大人のレスリングを繰り出しているときのレオは、見習うべきね」。紳士なハズだと思っていたのは、間違いだったのか……。


『このとおり、やましいきもちはどこにもありません。わたしは、せいぎをはたそうとしている、どこにでもいる、ありふれたあくりょうなのです』


「ど、どこにでも悪霊がいるかあっ。ま、魔界じゃないんだ、ここは、王都なんだあっ」


「混乱するんじゃない。私とダーリンが、わかるだろう? クレア・ハートリーと」


「レオンハルト・ブレイディだ。冒険者ギルドのギルド長であり、クレア」


「うむ。この釘を、お前に戻しにきてやったのだぞ」


 クレアの見せつけるミスリルの釘に対して、マークの視線は釘付けだった。「ダジャレのつもりかしら」。そうじゃない。ただの偶然なんだ。「大人のレスリングのし過ぎで、バカになっているのかも」。


「そ、その釘!! ま、魔族の手に……落ちてしまったのかっ」


 膝から崩れ落ちるマークがいたんだ。


『ごかいが、ふかそうです。れおさん、どういたしましょうっ』


「おう。まあ、ゆっくり誤解を解こうじゃないか。『木漏れ日亭』も近い。朝のコーヒーでも、おごってやるぜ、マークよ」


「こ、コーヒーを飲ませたあとで、オレを八つ裂きにするのが、魔族の最近のはやりの処刑スタイルか?」


「ほら、ちゃんと持っていろ」


 クレアから手渡された釘を、ドワーフらしい大きなげんこつがギュッとにぎった。


「お守りが、戻ってきた……」


 冷静さが少しは戻っただろう。マークに、コーヒーをおごる番だ。地味な出費だな、さすがは不運モードである。



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