第十話 『治安維持のための冒険者雇用!?』 その49


 マークはしばらくのあいだ、アオと……そして、ハルについても見つめていた。とても強い警戒心がある。「魔族に殺されかけたのかしらね」。そうだとすれば、誤解も深まりやすいだろうが……解こう!


「アオとハルは、悪霊だ。そして、気のいい悪霊なんだ。だから、お前が思っている固定観念は、捨て去るべきだよ」


「……ぎ、ギルド長になって、あんたアタマがおかしくなってるんじゃないか?」


「そんなコトはない。オレは、いたって精神的にも健全だ。考えろ。いいヤツは、いいヤツだろ? 違うか?」


「いや。それは、そうだが」


「アオとハルは、見ての通り。素晴らしくいいヤツなんだ。悪霊だからって理由で差別してはいかん。人の形しているとかしていないとか、イケメンだとか、見た目が美少女であったとしても、内面だって、ちゃんと評価するべきなんだ。つい、見た目で評価されがちなのは、人類の悪癖だろう」


「あああああ!! うるさい!!」


「大事なコトだからうるさく言ってんだろうが!!」


「はいはい。レオさんも、熱くならない。短気は損気っすよ」


 ばあさんみたいなコトをシェルフィーは言いやがる。「おばあちゃん子だったのかもね。エルフの共同体は、狩猟文化の名残を誇っているもの」。おばあちゃん子のシェルフィーは、容易に想像がついた。そうじゃないと、ここまで冒険者のお宿を完璧に回せないよな。


「何をうなずいているっすか、レオさん」


「アタマのなかに魔神を飼っている男は、いろいろと脳みその回転が速くなるんだ。オレは、砂糖を入れなくていい。苦いコーヒーで、ちょっとアタマに活を入れたい」


「ヘンテコな状態にあるっすねえ。マリさんに診てもらうのも、ありっすよ」


「大丈夫だ」


「大丈夫って言葉が冒険者の口から飛び出ると、『無理してがんばるから大丈夫』だとか、『命をかければどうにかなるから大丈夫』だったりするんすよね。そういうの、魔王戦争時代はともかく、現代じゃ流行らないんす」


「わかった。コーヒーを飲む。マークにも。オレのおごりだからな、マーク。お礼は別にいらんぞ」


「ありがとうよ」


 お礼を催促したつもりはない。ただ事実を述べたまでだった。シェルフィーの入れてくれた、お客さん用のコーヒーを飲んだ。コーヒー豆は、相変わらず、お値段と比例して味やら風味やら酸味などなどがパワーアップされていた。「普段飲みのコーヒーでも、悪くないって、レオは思ってるのにねえ。運が悪いわ」。


 じゃあ。返してくれ。「決まっているでしょう。嫌です」。知ってた。


 マークは、年齢の割りに甘党なドワーフだった。ミルクも入れるし、砂糖もいくつも入れた。五個なんて、うちじゃローズぐらいしかありえない。ローズだって、そこまで入れんぞ、高級豆のときは……敬意を払うもんだ。


「うあああ。砂糖、入れすぎちまった。甘ったるいや」


「じゃあ。コーヒーを追加して、苦味を足してあげるっすよ」


「いいアイデアじゃねえか。エルフ、やるな」


「ドワーフの大工さん、ちゃんとゆっくり砂糖の量は決めるっすよ」


「任せろ。過ちは、繰り返したくないタイプだ。だから、生き延びられた。オレは、だから、あの白骨の馬たちを信用できない」


「はあ。差別主義者め。うんざりするぜ」


「ダーリン、けんか腰になるな」


「そっすよ。アオとハルが、いい子なのは、大勢の方々が知ってくれてるっすから」


「現状では足りんと認識した。仲間が、不当な差別を受けている。立ち上がらなくて、何の冒険者だというのだろうか」


「ダーリン、カッコいい……っ」


「……それで。あんたらは、どうしてあのミスリルの釘を持っていたんだい?」


「昨日の夜、この天井から落ちてきたんだ」


「そう、か。作業のときに、落っことしてしまったのか……」


「大切な釘なんすね?」


「おう。オレの実家は、大工の一族の棟梁だった。古い家を何度も立て替えて、四百年以上は、同じ土地に住んでいたんだ。それが……魔族のせいで」


「アオとハルは魔族ではない、悪霊だと言っている」


「ああ。もう……知らねえよ。どっちにしても、ろくでもねえだろ」


「マークさんも、意固地っすね。理由は、想像がついてしまったけれど」


「マーク殿の故郷は魔王軍との戦いで」


「滅ぼされちまった。だから、オレたちの親父は焼け落ちた屋敷から、この守り釘を回収して、オレたち五人兄弟に渡したんだ。それぞれ、一本ずつ……王都に逃げ延びて、オレたちは王さまの要請に乗り、冒険者になったんだ」


「それで、ご兄弟たちは壮健なのか?」


 クレアの言葉に、ドワーフの男は顔を伏せた。太くて短くて筋肉質の首を前に曲げてしまい、あごは行方不明になる。下唇を突き出したまま、鼻からため息を吐き出した。「全滅かしらね」。そうでないコトを祈る。


「二人だ。二人、生き残った。オレと……二つ下の弟。三人死んで、親父も死んだ。病気でな。戦死じゃあない。悪いか?」


「いいや。三人の戦死者を出したご一族に、敬意を」


「……ハートリー家のご令嬢さんらしいよ」


「クレアを知っているのか? オレとは、面識があるだろうが」


「ハートリー家を建てたのは、うちの一族なんだよ。同じような守り釘が、あの屋敷のあちこちには刺さっている」


「なるほど。世の中は、せまいもんっすね」


「うむ。意外な縁があったな、マーク殿」


「いい屋敷のだいたいには、我がマクガフィの一族が関わっているもんだ」




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