第六話 『天涯より来たりて』 その17/相反する力学


「秘密が、身を守るのにつながるってわけか」


「そうでござる」


「やっぱり、大変なお仕事だな」


「やりがいを感じている。人手不足のせいで、処分もなさそうだ」


「良かった。失業したときは、うちを手伝ってくれ。きっと、馬が合うと思う」


「そうとは思えないでござる」


「仲良しだろ?」


「違うでござるよ」


「チーム王さま」


「……それは、正しいでござるな。さて、陛下の……休憩室でござる」


 物々しい警備がついているから、予想はついた。


「彼らも密偵か」


「見たコトのない兵士だと思ったら、そういうコトか……っ」


「バラすなでござる。彼らの顔を、覚えようとするな。手術で顔を変えてしまいたくなる」


 さすがの密偵たちも、顔が引きつっちまっていたな。


「脅してやるなよ。ちょっと、つけヒゲでもしたらわからん。今でも、そうしているじゃないか」


「だから、見抜くなでござる」


 冒険者としての洞察の力は、なかなか弱くはならんから無理だった。


 ラキアの到着を察して、室内の護衛たちが動いたのだろう。陛下の声が聞こえた。


「入るがいい、レオンハルト・ブレイディ。クレア・ハートリー」


「はい!」


「失礼いたします」


 はい、じゃなかったのかもな。ちょっと、失礼だったかもしれん。喪に服している最中の王さまに対して、あまり元気な声は、よくないかもな。


 王さまは、疲れていた。


 あと、少し酒くさかったな。夜景と、哀悼に沈む王都を窓越しに見つめながら、大きめのグラスに度数強めの酒がたっぷりと注がれていた。


「飲んでおられるんですね」


「息子に先立たれるとな、飲みたくもなる。このような気持ちを、味わうべきではない」


「ええ。お悔みを……」


「……それは、もう十分だ。この後も、聞かねばならん。エリアスめ。私に、このような感情をあたえてくるとは……」


 王さまは、ため息を吐いた。王都の街並みと、星空を見上げる。


「あいつは、子供の頃、星を見るのが好きだった。母親の影響かもしれない。病弱で、私といっしょにいるよりも……母親といる時間が長かった。あいつも、星が好きだ。魔神たちのやってきた場所であり、神秘と願いの根源だ」


「魔神たちは、宇宙からやってきたと」


「らしい。真実は、人に計り知れるようなものでもないだろう」


「……オレも、星空を見るのは好きですよ」


「冒険者には、必須の力でもある」


「ええ。星と月と太陽で、方角ぐらいは秒で把握できなくては、初心者の域を出られませんので」


 船乗り以上には、鍛えているよ。


「……好きな星座はあるか」


 王さまから聞かれるとは、思ってもいない言葉だった。オトナの男に、そういう質問を年寄りがするなんて、普通はない。しょうがない。今は、極めて普通ではなくて、感傷的な時間だったから。


「ええ。混沌神ルメの星座です」


「それと、契約しているからか」


「……そうですね。星座のくせに、フラフラと動く星がいくつかあるのが、面白くもあるので」


「……あいつの母親も、混沌の星座を好んだ。数多の魔神星座の頂点とも言われるから。権力志向なのは、王族や貴族の、悪癖かもしれんな……」


「エリアス王子さまは、どの星座がお好きだったのでしょう」


「お前と、同じだ」


 空を見上げる。


 星座を見る王さまの顔は、どこか険しい。混沌神ルメの星座は、好きじゃないのかも。あるいは、泣くのをこらえているのかもしれないだけか……。


「彼と、話してみたかったです。きっと、会話が弾んだ」


「……どうだかな。あいつは、根暗だった」


「そうでしょうか? その、舞踏会などでお会いしたときは、社交的な……ようにも、見えました」


「演技だ。教師をつけて、その振る舞いを叩き込めば、どんな者でもマナーを使える。それもまた、重荷だったか。星を見る学者の家にでも生まれておれば、もう少し、長生きしたかもしれない」


 王族はたいへんだ。自分の生まれ持った性格でさえも、押し殺したり、矯正させられるらしい。病弱な者なら、そのストレスだけで病を悪化させてしまうかもしれないな。


「これも、また『天命』に過ぎないか」


「王さまは、魔神よりは、『天命』が好きなのですね」


「そうだ。魔神信仰については、あまり個人的に良い思い出がない。子供の頃から、私へ差し向けられた暗殺者どもの少なくない数に、魔神憑きがいたからな」


 魔神憑きである、オレとクレアからすると、居心地が悪くなる発言だった。


 それを、王さまも察したのだろう。


「ただの個人的な経験である。私は、お前たちのどちらも信用しているぞ。でなければ、呼びはしない」


「ええ」


「わかっています……」


「一般論として、魔神信仰と『天命』の徒は、異なる価値観を持ちやすい」


 エルミー・ブラネットが、ほぼ無条件で魔神に否定的だったりするようなものだ。


「魔神は、宇宙の意志とやらだ。良くも悪くも積極的で、状況を変えたがる。『天命』はこの世界のみの力であって、保守的かつ閉鎖的だが……調和があった」


「どっちも使いこなせるといいですね」


「……理想が過ぎるな。矛盾を使いこなすなど」


「はい。ですが、けっきょくは、それを目指すのがいちばんかと。どちらにも、良い点がありますので。そもそも、どちらかを否定すれば、対立になってしまう。すでに、どっちも、あるわけだから。仲良くするのが、いちばんですよ」


「アホな発言であるが、悪くはない」


「でしょう。王さま、オレも……一杯だけ、もらえませんかね?」


「お、おい。ダーリン……」


「いいぞ。飲むがいい。レオンハルトよ。いい酒だ。あいつの生まれた年に、作らせたものだ」


「ありがたく、いただきます」



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