第六話 『天涯より来たりて』 その16/秘密の多いお仕事!


 頼りになる言葉だったな。


 抱きしめたくなる……ああ、抱きしめていいのか。抱こう! エッチじゃない意味でのハグを―――。


「―――しかし。私が思っていた以上に、ルクレート王国は……分裂気味なところもあるんすね……っ」


 抱きしめるような空気じゃなくなった気がする。まあ、いいか。夜にでも。そろそろ、本気で……。


「ダーリンに、モザイクがかけられているぞ」


 戦女神ロカは、クレアの貞操に対して保護者面が厚すぎる気もするな……。


 まあ、今は……マジメなときの空気になっていた。


「安心しろ。王さまのカリスマがあるうちは、そうたやすく内戦にはならんだろう」


「王さま、人気あるっすから」


「だが。王さまも、永遠に生きておられるわけではないのが問題だ」


「そ、それは、そうっすね……」


「エリアス王子の死が、契機となるかもしれん。諸々と、おかしな動きもあったわけだからな」


 ベクトラ伯爵なんて、『私設軍』を作っていたし、部下に裏切られて放火と暗殺未遂、さらには王子さまに刺されたらしいし、本人は密偵による暗殺未遂だとも言い出すし、エリアス王子も亡くなられた。


 キナ臭いことのオンパレードではある……。


 思えば。


 目の前にいる、『盗賊王』一家のプラムさんたちもだ。トルーバ王国との国境近くで、大暴れしていたし……何より。


「……シオン。お前たちも、大砲を持っていたな」


「ああ」


「騎士団に配備されるためのものか」


「その予定だったらしい」


「本当に?」


「らしい、と言っただろう」


「では、違うかもしれんのか」


 だったら、テロに使われる危険性があったのかもしれない。まあ、証拠があるわけでもないが。


「王さまの盟友である『盗賊王』の子供たちが、国境近くを運ばれている大砲を奪った。王さまは、安心しそうだな」


「その通り」


「怖さもあるぜ。まるで、どこかの密偵みたいだなと感じた」


「私はそういう繊細な行いは苦手だな」


 飄々とした表情だけど、どうだろうか。


「ああ、そうだ。キナ臭さに鼻が利き始められたら、ギルド長としてはレベルアップしたと言える。その調子で、勘を磨くといい」


 ……もしかして、『盗賊王』一家というのは、王さまがコッソリと用意した、一種の密偵みたいに機能していたのかも。トルーバ王国に対して、みらみを利かせるような存在として。


 まあ、王さまの盟友である『盗賊王』が、自発的に王国を守ろうとしていたのかもしれないが……。


 思っていた以上に、いろんな連中が身を捧げながら、王国の平和って作られているのかも。


 そこのひとつに、王立冒険者【再就職】支援ギルドも組み込まれるわけだ……。


 ノックが聞こえる。


 王さまがノックなんて、するはずもないだろうから。別のヤツだとわかった。そもそも、王さまにしては『気配がなさすぎる』んでね。


「入れよ、ラキア」


 ドアが開いて、昨夜からの知り合いである密偵ラキアが、あの無表情のまま入室してきたね。公務員のくせに、あまりにも愛想がなかったな。


「どうして、拙者だとわかったでござる?」


「さあね。慣れだろうか」


「……アドルフ・イェーガーの血か」


「そいつは知らん。じいちゃんと出会ったコトもないんだからな」


「まあ、どうでもいい」


「見破られて悔しかったか」


「そんな顔をしているように見えるでござるか?」


「ああ。違うのか?」


「足を踏みつけていいか?」


「そんな問いかけに、こころよい返事が戻ってくるハズないだろ」


「陛下からの伝言がある」


「何だ?」


「お前と、クレア・ハートリーだけ、拙者と来るといい」


「私もか」


「そうだ。大貴族の娘だからな。信頼していい情報提供者となる。ハートリー家は、とくにマジメでござる」


「他のみんなだって、かなりのマジメなメンバーだぜ。『盗賊王』ご一家もいるが?」


「彼女たちとは、また別のルートでハナシが行く」


 密偵の仲間からかな。


「さっさと来るがいい。これは要請ではなくて、命令でござる」


「わかった。じゃあ、みんな……スイーツとか、そういうの食べたり、王子の哀悼をしたりして、待っていてくれ」


「わかったわ。粗相のないようにね」


「……苦手分野だな」


「苦手分野が多過ぎっすよ」


「成長中なんだ、そのうち、立派なギルド長になるかも」


「はいはいっす」


「レオお兄ちゃん、き、気をつけてね。何となく、嫌な予感がするんだ」


「おう。安心しろって。密偵も、暗殺したりはしないだろ」


「うん。あ、暗殺しないでね、密偵」


「王城でろくでもない発言をするなでござる。拙者たちは、とても良心的な公務員でござるよ」


「暗殺者集団だよね。だ、だって。たくさん殺している証拠に、悪霊が見えるの」


「必要経費は、払うだけでござる。レオンハルト・ブレイディは、対象ではない。クレア・ハートリーも。拙者たちは、平和の使徒でござるよ」


「似合わないよ、そ、その名前」


「好きにとらえるといいでござる。拙者は、傷つかない。さあ、来い」


「おう」


「わかった」


 クレアとふたりで、ラキアを追いかける。


 無言は、苦手だから。


 質問してみよう。


「盗み聞きしていて、『盗賊王』一族と、密偵がつながりそうだから、あわてて入室してきたんだろうけど。何か、問題あった?」


「と、『盗賊王』一族が、密偵の一部というコトか……っ。あ、ありえるハナシだ」

「ノーコメントでござる。そもそも、密偵とか言うなでござる」


「悪かった。秘密なんだな」


「貌神の力で、何にでも化けられるから、拙者については問題ないが。『他の密偵』たちには、この能力はない。基本的に、秘密にしているのが吉でござるよ」



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