こちら王立冒険者【再就職】支援ギルド!!~無能冒険者さんいらっしゃいませ!中堅冒険者のオレが究極ダメ冒険者といっしょに社会復帰をサポートします!?~
第一話 『魔王はいないが、立ち上がれ冒険者よ!冒険者ギルド滅亡の日!!』 その8/混沌神のとなりで、口づけを!?
第一話 『魔王はいないが、立ち上がれ冒険者よ!冒険者ギルド滅亡の日!!』 その8/混沌神のとなりで、口づけを!?
「ほ、ほざけ! お前のようなテロリストと交渉などするものか!」
「じゃあ、クレアにキスするぞ!」
「ま、待て! 早いぞ、まだ、そんなステップを踏んでいないじゃないか……っ」
これでクレアは完璧に無力化できた。あとは、王さまと交渉して、冒険者ギルドを復活してもらえばいいだけ……。
「断固として、拒否する! ハートリー家の娘とはいえ、成人した女性! キスごときでひるむような騎士ではない!」
「わ、私のファーストキスなんですよっ!?」
「そ、そうか。その。そうだとしてもだ! テロリストと化した冒険者と交渉など、このワシがするはずがないだろう!」
「そ、そんな……レオンのものに、なるしかないのか……っ」
「ちっ! こうなれば、王よ! 覚悟しろ!」
「おい! こら、シデン! 短気を起こすな!」
シデンが魔法を使おうとしていた。バチバチと逆立つ髪、紫電のかがやきが王さまに向けた杖に宿っている。かなり高度な魔法だよ。モンスターどころか、魔族も倒しちまいそうなしろもの。年寄りの王さまが、あれに耐えられるのだろうか? 「無理だよね!」。うん。いかんな。あれじゃあ、本気で、殺しかねない。
王さまは必死になった。
あんなに必死な彼を見るのは、初めてかもしれん。いつも、どこか余裕があったのに。
「お、落ちつけええい!! 正気に戻らんか!!」
「やらねばならない! すべては、我々、冒険者たちの理想世界のために!! 手加減ナシの、極大の一撃を!!」
「ワシを殺せば、謀反だぞ! 貴様の身内ともども、八つ裂きの刑だ! だ、だから、やめんかああああ!!」
「殺せば有罪。つまり、殺さないなら、無罪だな!」
「は、はあ!?」
……そうなるんだっけ? ちょっと、違っている気がしたんだ。法律とか常識に対して、冒険者たちは、うといからいけない。生き方が、だいたい野生動物的なところもあるからね。
「死なぬ程度に、半殺し! それならば、無罪である!」
「おかしな計算をするでない!?」
「実力行使である! 我々、冒険者に金を寄越す気になるまで、雷電の激痛が、貴様の老いたカラダを駆け巡る! ククク! すぐに、金を出したくなるさ!!」
ガチモンのテロリストを見ている気がした。言ってるコト魔族と変わらん。あれは、さすがに良くないな。どうしよう。止めるほどの体力は、疲れ切っているオレとクレアにもない……!?
「まちなさい!」
「やめるっすよう、シデンさあんっ!」
マリと、縛っていたはずのシェルフィーがいた。どうやら、マリが『木漏れ日亭』に顔を出した。冒険者ギルドがつぶされてしまって、オレが落ち込んでいると考えてね。そのさいに、シェルフィーを見つけ出して救助したのだろう。そして、シェルフィーが口を割った。つまり……。
「おい、シェルフィー! この裏切り者エルフっ!」
「人聞きが悪いっすよ!? 悪いのは、お二人っすからね!」
「シデン、やめなさい。ギルドが閉鎖されて悲しいって気持ちはわかるけれど、テロは良くないわ!」
「いいや。マリカーネ・フラッコ。王にはわからせる! 暴力は、およそのコトを解決するものだと、冒険で知っただろう!!」
「わからずや!!」
マリが『バリア』を張った。医者仕事で弱ろうとも、元・冒険者だからね。王さまと自分とシェルフィーを守るためのバリアを……。あ、あれ? オレたちの分がないのは、ちょっとおかしくないか!?
「権力の側に回ったメス犬め! 私の雷撃で、貴様ごと王を焼き払ってやる!」
嫌な予感がしていた。「当たり前だよね。あなたの幸運は、私が食べちゃったばかりだもんねえ」。混沌神のささやきが聞こえたよ。ああ、逃げるべきだ。だが、クレアの腕がオレを抱きしめて動けない。
「……け、けっきょく、ここは私のコトを想ってくれるような職場じゃないのかも……っ。居場所があるとすれば……たくましい、腕だな……っ」
「おい。クレア、さっさと逃げ―――」
「正義を、知れえええええええええええ!!」
紫色のかがやきが視界のすべてを埋めつくす。殺気に満ちあふれた雷撃が放たれて、即座に、マリの『バリア』に命中した。
破壊的な音が聞こえる。シデンが得意とする雷の魔法はけた違いだったな。久しぶりに使われた『バリア』では、防ぎきれなかった。一瞬で砕かれちまったが、そこはマリ。力で負けても、技術が利いていたよ。
どうにか雷撃を反らすコトには成功していたんだ。それは、良かったのだが。よりにもよって、オレとオレにしがみつくクレアに向かった点に関してはサイアクだったぜ。「幸運がないと、だいたいこうなるよね」。混沌神め!
ああ。
もちろん。
かばうよ。クレアをね。冒険者だから、古風な男だもん。雷撃が背中に命中していたよ。死ぬほど痛い。
「あがががががが!?」
面白い声が出ちまった。しょうがないだろ。全身に地獄の高電圧をながされたら、こんな悲鳴だって叫ぶに決まっている。『バリア』のたぐいに反射した魔法って、怖いんだぜ。手加減ないし、軌道がおかしくて読みにくいから、防御手段がほとんどない。
ほんと、シデン・ボニャスキーめ。ライバル・パーティーのメンバーだけはあり、いい腕してる。意識が、消えちゃいそう。
「お、おい。れ、レオン、だいじょうぶか!? 私をかばって、くれるなんて……っ!?」
ふらついた体を、いっしょに半分感電していたクレアが支えてくれようとして、体がもつれ合って……。
事故だよ。事故だけど。オレを心配してくれているクレアの顔は、かわいいし。すごく健気だから。ちょっとは、わざとかもしれない。酒も入っているから、なおさら、本能に素直だった。
「レオン……う、うわ……ッッッ」
「ちょ……れ、レオンくんッ!?」
「お、おお。レオさんとクレアさんが、キスしてるっす!」
やわからい感触だった。クレアの唇は、思っていた以上に。甘くて、あったかくて。感電しながらだけど、うん。なかなかに―――。
「こんなクソいそがしいときに、セクハラしてんじゃないわよ、アホレオおおおおおおおおッッッ!!!」
何度か経験のある衝撃を感じ取っていたぜ。マリのぶん投げた杖が、オレの後頭部に当たったらしい。脳震盪が起きる。冒険者には、つきものの症状だな。うん、つまり。オレは気絶しちまったんだ。「お休みー。面白かったよ!」。混沌神が喜ぶなんて、良くない状況だよな―――。
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