こちら王立冒険者【再就職】支援ギルド!!~無能冒険者さんいらっしゃいませ!中堅冒険者のオレが究極ダメ冒険者といっしょに社会復帰をサポートします!?~
第一話 『魔王はいないが、立ち上がれ冒険者よ!!冒険者ギルド滅亡の日!!』 その9/文明と命を守るための賢い決断!?
第一話 『魔王はいないが、立ち上がれ冒険者よ!!冒険者ギルド滅亡の日!!』 その9/文明と命を守るための賢い決断!?
レオさんが情けなくも気絶してしまったので、状況報告を私ことシェルフィー・メイメイが『木漏れ日亭冒険日誌』に書いておくっす。
それからは修羅場というべきっすね。いや、さかのぼるコト、十数分前。倉庫で縛られながら藻掻く私をマリカーネさんが見つけたときも、怖かったっすけど。縄でしばられ、炭で『レオンハルトさまの所有物』と書かれた、服装の乱れた私を見たとき……ああ、必死に縄をほどこうと身をよじったりしていたからっすよ。その、そんな状態の私を見てしまったマリカーネさんは、めちゃくちゃ怒っていたっす。
誤解したんすね。私がレオさんとエッチな関係にあるヒトだって。カワイイ誤解っすけど。怖かった。嫉妬って怖い。眼鏡の下にある青い瞳は、とっても冷たくて……。
まあ、そんな人がですよ。クレアさんとキスするレオさんを見たから、ブチギレ。クレアさんにも問題はあります。あんな事故のようなキスごとき一発で、一気に『正妻気取り』になっていたから。うん。純情すぎて、これまたタチが悪いというか。恋愛経験ゼロだと、キス一発でああも意識するのか……そもそも、前々からの感情があったせいなのかも。
一般人女性にはモテないとレオさんですが、不思議なコトに冒険者の女性からはモテるんです。魔神のたぐいとか、魔族の女性にもモテたとかいうハナシもあったりする。普通じゃない変な女たちに、愛されやすいんでしょうね。
とにかく。
痴話ケンカみたいなものが発生していたわけっす。王さまの危機はそっちのけで。
お二人のヒステリックな言い合いが響くなか、おそらく魔力が切れていたシデンさんは状況の不利を悟ったみたい。ぞろぞろと騎士サマたちや衛兵が集まっていたので。「また来るぞ!」と逃亡する姿は、もう完全に社会の敵のようでしたが……見事な撤退だったのは確かっすね。『煙玉』まで用意していたのは、さすがの準備の良さ。
レオさんに対して、一切の救助を試みなかったのも、ある意味、あの人らしいっす。冒険者の一部は、正気を疑えるほど他人にも仲間にさえもドライっすから。
とまあ。
とっても大混乱だったわけです。
もちろん、王さまは大激怒していたわけっすけど……「さっさと! シデン・ボニャスキーを捕らえろ! どうして、捕らえられんのだ! この無能どもがああ!!」。
……知恵はないけど、良識はある『木漏れ日亭』の看板娘、シェルフィー・メイメイ、王さまへの直訴のいいチャンスだと思ったわけですよ。騎士も衛兵も、私には無警戒だったので。
「王さま、王さま」
「なんじゃ、エルフの小娘!?」
「冒険者たちは、かなり怒っているっす」
「怒っているのはワシの方だ」
「いやいや。状況は深刻でして。冒険者さんたちは、『とっても短気で、しかも戦闘兵器のような力を持った人々』だから……レオさんを逮捕しても、きっと、脱獄するし。シデンさんを捕らえられる人は、おそらく騎士団にはいません。さらに厄介なコトに……『他の冒険者さんたちも、お二人を真似して、王さまの命を狙ってくる』かも。短慮な方々なので、常識や良識が通じないトコロがたくさんあるっすよ」
「た、たしかに……ッ」
王さまは冒険者さんたちと長年触れ合っては来ましたから。彼らがどういう人々なのかを、よくわかっておられっす。感情的で、粗野で……どこか疲れた瞳で、王さまはすぐ近くにいる冒険者たちを見ておられました。
「離れなさいよ、クレア!」
「離せないさ。心からの、絆は!」
「あんなのは、事故!」
「運命だ。我々は、そう。『めおと』となったのだ」
夫婦と書いて『めおと』と言ってしまう古風さには、ちょっとガチな真剣さがあったっすね。
「冒険者さんたちは、ああいう風にノリと思い込みのはげしい動物なんすよ。お相手をさせていただいた宿の者なので、よーくわかっているっす。王さま、冒険者ギルドを復活させるべきっす。テロリストたちに、命を狙われつづけるのは嫌ですよね?」
「嫌に決まっておるが。そもそも、予算のムダじゃ。もはや、魔王はいない。モンスターの動きも沈静化しておる。だいたい、こいつらのためだ。生産性のない大勢の若者たちを、未来も仕事もない職業に縛っていては不幸になるだろう」
さすがは王さま、とても賢い方っすね。レオさんたち冒険者を利用していたトコロは多々あるっすけど。一応は、考えていてもくれたわけで。
となれば。
良識あるシェルフィー・メイメイは、知恵を使うっす。地獄の住人のような金銭感覚をしている冒険者さんたちと、最前線で交渉をしてきたから、なかなか賢いっすよ。
「では! このような案はどうでしょう! 冒険者『再就職』支援ギルドを作るっす! 時間と予算をかけて、冒険者さんたちを、ゆーっくりと、社会復帰させていくっすよ! そういうギルドにすれば、どうにか丸くおさまるかもしれません!」
「……妙案、かもしれないな」
心が弱っているときは、救われそうな案に飛びつくもんっす!
「ですです! じゃないと、テロリスト傾向のあるシデンさんみたいな方々が団結し、暴力による『国盗り』だとか、隣国への侵略行為をするかも!」
「う、うむ。こいつらのアホみたいな行動力と、過剰な戦闘能力なら……国家転覆も夢ではない。各国、魔王軍との戦いで疲弊はしている状況である……我が王国もだが」
「はい! もはや、彼ら冒険者は、魔王軍の魔族よりも潜在的な世界の脅威っす!」
「こ、こんな無学でアホな野蛮人どもが、権力を得た日には……文明の終焉だ!」
冒険者による、冒険者のための、冒険者だらけの国……たしかに、筋肉のにおいがし過ぎて、原始猿並みの文明に落ちぶれそうっすね。世の終わりだ。
「そうです。暴力とアホさが支配する『ポストアポカリプス/終末世界』の訪れを回避するためにも、どうか、冒険者『再就職』支援ギルドとして、ギルドの存続をお考えくださいっす!」
歴史的な一ページになるっすね!
ただの宿屋の看板娘である私が、路頭に迷いつつあった冒険者さんたちに、救いの希望をあたえてあげたわけっすよ! これで、レオさんはじめ、冒険者の方々は『木漏れ日亭』に足を向けて寝れませんね!
「試してみるとしよう。冒険者たちを再就職させ、真人間にしていくのだ! 大臣! 予算を組み直せ! 冒険者『再就職』支援ギルドを立ち上げるぞ! 冒険者どもに、ワシが寛大な王であり、生産性のない無能なボケナスどもにも手を差し伸べる、賢王であると示す! でなければ、逆恨みした暗殺者どもが、ワシを襲うかもしれんからな!!」
王さまはご自身の命と、世の中の安定のために。
偉大なる選択をしてくれました。
「ただし、そのレオンハルト・ブレイディは、監獄行きだ!!」
ま、まあ。すべてが丸くおさまるほど。
世の中って、あまくはないっすよねえ……。
ついに、レオさん、前科者っす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます