こちら王立冒険者【再就職】支援ギルド!!~無能冒険者さんいらっしゃいませ!中堅冒険者のオレが究極ダメ冒険者といっしょに社会復帰をサポートします!?~
第一話 『魔王はいないが、立ち上がれ冒険者よ!冒険者ギルド滅亡の日!!』 その7/白き戦女神ロカと、黒き混沌女神ルメ
第一話 『魔王はいないが、立ち上がれ冒険者よ!冒険者ギルド滅亡の日!!』 その7/白き戦女神ロカと、黒き混沌女神ルメ
混沌神と冒険者は、相性がいい。わりとカンタンな契約で力をもらえるし……。
とくにルメは、厄介ごとが大好きだから、冒険者向き。ほら。さっきから、オレにも見えるよ。ああ、幻覚じゃない。ルメは実在する。剣をぶつけ合わせているオレたちを、フワフワと浮遊しながら、すぐそばで見ていた。
奇術師の少女みたいに胡散臭いゴスロリドレスで、人形みたいな白い肌で細身。何をどこに仕込んでいるかわかったものじゃないな。
あと、マニュキュアたっぷりの爪は赤い。謎の混沌神パワーでツインテールの黒髪は空中に浮かんで泳いでいる、爪とおそろいの赤い瞳はルビーのようだ。
ふつうに可愛いんだが、けっきょくは混沌神だからね。どこか恐ろしくもあるよ。ガキの時代に、初めて契約できたときは、ルメを見ると『性癖が歪む』と伝えられていた理由もわかったよ。ロリコン野郎になるとね。だが、見た目はともかく、こいつの性格ときたら。「もっとやれ。血を見るのは、楽しいもんねえ!」。
こういう性格だ。他人様が過酷な状況にあるほど、こいつは気持ち良さそうなスケベ顔で笑いやがる。「力を貸してあげるよ、私のレオ! もっとひりつく、ギリギリの死闘を見せなさい!」。
大剣が闇をまとう。闇の世界からやってきた混沌神の力が、ゆらゆらとした漆黒の螺旋を鋼に走らせるんだ。うずまく黒い炎。カッコいい。しかも威力だってすごいよ。ドラゴンの首さえ、落としたんだからね。
ルメのささやきが聞こえる。びびったよ。いっしゅんでオレの耳元に近づいていた。「運に見合った力はあげるから。ちゃーんと、ロカに恥をかかせてやってね」。あいかわらず仲が悪いらしい、さすがは姉妹神か。
何であれ、勝ちに行く!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「はあああああああああああああああああああああああ!!」
純白の一刀と、漆黒の斬撃がぶつかり合った。爆音と、灼熱。白と黒が交互に混じるフラッシュの連続だ。髪も皮膚も焦げそうなほどの熱のなかで、世界が揺れちまう。王城の上半分がガタガタゴトゴトと。それだけの衝撃だった。
兵士どもが爆風に吹き飛ばされ、王さまは怒鳴っていた。「城を壊す気か、このバカども!!」。そのつもりはないが、それをしちまう気合いはいるさ。神さまの力を借りて奥義を放つときはね。
混沌神と、戦女神の争いは―――互角だったよ。白のかがやきと、黒い力のながれが暴れて混じり合うなか。破壊と衝撃と灼熱の中心で、オレとクレアは『つづき』をする。
大技同士の撃ち合いで勝負がつくほど、我々はシロウトじゃないんだ。『竜角折り/ゲイボルク・ブレイカー』と『ロカの百牙/シャル・フェイン』、余裕があれば叫び合いをすべき超カッコいい必殺技たちが、ターゲットに不発だったとしてもへこまない!
灼熱の空気のなかで、斬撃のラッシュをぶつけ合わせていく。
頼るべきは結局のところ、基礎的な力だ。大技が防がれたぐらいで、オレたちは何の感情も持たんよ。剣術勝負になって、オレは大剣の重量を使う。無呼吸化での超高速の乱打戦では、重さが有利なんだよ。クレアのロングソードを、手から弾くようにして、落とさせた。
……まあ。これも駆け引き合戦。
半分ぐらいは、クレアの策でもある。
彼女は筋力と体格ではオレに劣るから、剣の斬り合いを捨てていた。彼女からすれば、剣を弾かれるという認識ではなく、弾かれるならあえて手放して、自由になった手を使っただけ。つまり、オレの顔面にパンチをぶち込んだわけだ。
「ぎゃふ!?」
クソ痛い。ダサい声も出ちゃう。しかも、次の瞬間には大剣を握った手首を狙われた。肘の一撃だ。ガントレット越しでも骨が割られるコトもある凶悪なテクニック。つづけて、膝蹴りがオレのお腹にドストライクだ。
「ぐふう!?」
聖騎士が剣術だけやっているわけがない。接近戦の達人は、体術だって超一流に決まっているじゃないか。
うん。『わかっていたから、誘う』というのは……接近戦の達人同士では、当たり前の発想なんだよ。「ポーカー勝負で、私の奴隷が、ロカの下僕に負けるはずないよねえ」。カードは、クレアより得意だった。運を混沌神に喰われたあとでも、演技力と計算は失墜しない。
「……っ!?」
クレアも気づいた。オレは、『あえて膝蹴り』をお腹で受け止めていたという事実にだよ。彼女が狙いやすいように、ガードを開けて誘っていたんだよね。
マゾってわけじゃない。ルメの契約者には多いが、オレは違う。ただこの痛みに耐える価値があるからだ。間合いを詰めたぞ。ゼロ距離までに。両腕で、オレに接近し過ぎていたクレアを『抱きしめる』。クリンチだ。剣を失った彼女に、体格で勝るオレがやるべき有効な格闘テクニックのひとつだな。
「ちょ!? レオン……っ」
甘い香りがした。おっぱいのやわらかさも。戸惑うクレアは可愛かったよ。マジメすぎて男になれていないから、抱きついちまえば混乱してくれると信じていた。三年間で、恋愛の価値観は変わっていないようで、安心する。戦女神と契約できる系の女子は、恋愛が奥手になるのが相場。
抱き着かれただけで、乙女の顔になっちまっていやがる。
「は、はなせ……っ。み、皆の前で、こんな……っ。は、ハレンチだぞっ」
「いいや、もうお前を、はなさない!」
「……っ!」
「お前を、人質に取る!」
「な、何だとおおお!?」
「王さまよ! よく聞け! クレアを人質にするぞ! 知っているんだからな、こいつは有力貴族の令嬢でもある! 彼女を解放して欲しければ、冒険者ギルドに金を寄越せ! オレたちの冒険の日々を、復活させるんだ!!」
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