第一話 『魔王はいないが、立ち上がれ冒険者よ!冒険者ギルド滅亡の日!!』 その6/聖なる剣、混沌の剣


「対人戦闘に特化だと……っ」


「暴れまくっているからな!! 魔族とやり合うのと等しいレベルで、私たちは日夜、大暴れしていたのだ!! 時計塔さえ破壊した、冒険者同士のケンカを王も知っているだろう! あれは、ポーカーでの誤魔化しがバレただけの、いわゆる身内のケンカである!! それが、あのレベルなのだ!! 我らの切磋琢磨は、ついに魔族の領域に達している!!」


 魔族。あまり人聞きの良い言葉じゃないが、魔族を倒すつもりで訓練していたのは確かだよ。この三年間、あいつら来てくれなかったけどね。


「ぬくぬくと事務的な仕事をしていた騎士団とは、違うのだ!!」


「い、いや、お前らは、もはやテロリストではないか!?」


「かもなあ! 大事にしてくれなくちゃ、何しでかすか、わからんぞ!!」


「とっくに、大問題を起こしているじゃないの!!」


 クレアが激怒しながら、剣を振り回す。速い、鋭さもある。でも、今のオレならしのげたよ。城勤めで、クレアの剣はどこか『すり減っちまっている』んだ。かつての強さがない。クレアらしさが、どこにもない。


「非常識だぞ、王城を襲撃するなんて!」


「常識なんて、語るなよ」


「騎士は、常識と秩序の守護者なんだ!」


「つまらん剣になったな。なんて、窮屈なんだ」


「話を聞け!」


「もっと全力を出せ。殺す気でいいぞ」


「な、何を!?」


「それでどうにか、互角になれるかも。もうオレには勝てねえから、思い切りやってみろ。パーティー最強の聖剣技を、ぶつけてみせてくれ」


「……ッ」


「なあ、クレア、騎士よりも偉大な英雄になりたかったお前は、もっと強かったはずだぜ」


「知った風な口を、きくなああああああああ!!」


「ちっ。レオンハルトの間抜けめ、眠れる獅子を呼び覚ましてどうする」


 本気のクレア・ハートリーに会いたくなっちまったんだから、しょうがない。冒険者は、そんなものだ。とくに剣を振り回すオレたちのようなタイプは、強さへのあこがれが大きい。


 剣の打ち合いから、クレアは間合いを取った。姿勢が変わる。騎士的なスマートな構えから崩れて、脚を開いて腰を沈ませる。口をすぼめるようにして息を吐いた。


 そのときから、彼女の全身に、獣じみた躍動感が戻る。次の瞬間には、もう目の前にいた。何ていう踏み込みの速さなのか。疾風にして、迅雷。烈火のような迫力と、冴えわたる一刀。


「はああああ!!」


 今までの数段上のキレをもつ斬撃の嵐だ。強敵になりふりかまわず有効打を浴びせまくる、実戦の剣。騎士の剣術ではなく、冒険者の動き。呼吸。目つきも。どんどん、かつてのクレアに戻ってくる。


「く、クレア殿、あ、あんなに強かったのか!?」


「す、すごい」


「で、でも……どこか、『おそろしい』……ッ」


 城勤めの騎士や兵士がおどろいている。そりゃそうだ。のんびり王城勤務では、こんな魔族と戦うときのような力を発揮しない。本当の冒険者の戦いっていうものは、魔が棲む。怖いのさ。普通の人たちからすれば、魔族と変わらない強さは、それだけで恐ろしい。


「そうこなくては!」


「この私に、お前が勝てるわけないだろ!!」


 しのぎながらも、悟れた。そろそろ、全力で、ぶちかましてくる気だ。だってね、あいつのロングソードが光っていやがる。破壊力抜群の『光の剣』だ!


「純粋な心を持つ者にだけ、『戦女神ロカ』は聖なる剣を貸与する。クレア・ハートリーには、それが出せる。『聖剣技』だ」


 解説癖があるのは、魔法使いの特徴だな。シデンは止まるコトなくつづけた。忠告をね。


「王も、周りの兵士どもも、気をつけろ。このフロアが聖属性の灼熱で満たされる。巻きぞえになれば、消し飛びかねん!」


「は、はあああ!? またんか、クレアああああ!?」


 まつはずがない。クレアの集中力は止まらないようにできている。『戦女神ロカ』の加護が、クレアの体を白い光でつつんだ。


 ロングソードには幾何学的な紋章が浮かぶ。聖句が描かれていた。「我は白光の千年王国をもたらす牙、闇と堕落した背信者に罰をあたえる」。ロカは融通がきかないことで有名な女神だ。「正義とは、まっすぐなものです」。


「陛下は退避を! レオンは、このアホは、責任もって、私が倒します!!」


「手段をえらべえええ!!」


「行くぞ、レオン!! 手加減しないから、死なないように!!」


「来やがれ! この三年間の成長を、見せてやる!!」


 魔剣を使うよ。魔法戦士だからね。クレアが戦女神に愛されているように、オレも魔神に愛さているんだ。『混沌神ルメ』に。


 いろんなタスク/契約をルメとしていくほどに、使える力をもらえるんだよね。三日間飲まず食わずのまま山を走りつづけるとか、剣一本で巨大なモンスターと戦って勝つだとか、一週間眠らない……激辛カレーを一口の水を飲むこともなく完食するとかもな。


 ルメは混沌神だから、アタマおかしいんだよ。オレたち契約者が悲惨な目に遭うほど喜んで力を貸してくれる。


 そんなルメから得たスキルのひとつが、魔剣だ。暗黒の力がこめられた強烈な斬撃を放つ。オレの生命力と……『これから数日分の幸運』をガンガンに消費しながらね。とっておきだよ。


 そうでもしないかぎり、接近戦でクレア・ハートリーに勝てない。わざわざ距離を取って魔法で勝つのは、剣を持った冒険者としてつまらない戦いだ。いいかね。矜持を捨ててまで、勝ちにこだわるのは、冒険者同士の決闘とは言わんのだよ!


「お互いの生き様全開でぶつかり合ってこそ、本当に楽しい戦いってもんだぜ!!」



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