第一話 『魔王はいないが、立ち上がれ冒険者よ!冒険者ギルド滅亡の日!!』 その5/自由の価値を知る男


「むろんだ! もはや、世の中は平和になったのだ! お前らには、再三、解散要請と、支度金は用意してやっただろう! 故郷に戻り、普通の仕事に戻るための金を!」


「あれでは足りん! ではなくて、私たちは、まだ―――」


「―――冒険者でいたいんですよ、王さま」


 そのために、こんなアホな襲撃をしている。


 他の冒険者たちも、きっとそうだ。じゃないと、あんな顔で『木漏れ日亭』からとぼとぼ逃げ出すハズがねえだろ。


「みんなのために、ここに来ている。衝動じゃない。これは、意志をもった選択なんだよ。冒険者たちの全員が、思っているコトだ」


「……レオン……っ」


「オレたちの世代、全員の夢だった。オレたちは、多くの貢献をしてきたはず。冒険をし、モンスターを倒し、人々の暮らしを守った。そのあげく、いきなり捨てられるのは、たまらなくてね。道具じゃない。『オレたちは、まだ冒険者でいたい』!」


「……ッ」


 クレアの顔が、悲しそうだった。思い出しているのかも。オレたちと別れて、騎士団に就職するときだったな。彼女のした問いかけに、同じ言葉で返事したからね。「お前は、騎士になりたくはないのか?」。ちがうんだ。そういうのじゃない。「名誉もある。そして、安定した暮らしだ。か、家族だって、持てるんだぞ?」。誰よりも、自由な暮らしがしたかった。


 自由が、そんなにいいものなのかって?


 当然じゃないか!


「困っているヤツがいる。家も村も捨てて、逃げなくちゃならない者たちが。騎士団だって、どうにもならない。モンスターの群れと戦えば、もちろん大勢が死ぬからだ。そんなクエストに、『マトモな組織』は参加するのに二の足を踏む。冒険者は、違った。危険だからこそ、挑みたくなる」


 ほんとに、ビックリするほど大勢が死んだからね。危険が好き? そういうトコロもあるけれどさ。そう単純な理由からでもないよ。


「その危険が、どれだけ周りを不幸にするか知っているからだ。見捨てられるような連中は、庶民だしな。そして、冒険者のほとんどが、庶民だ。痛みが、わかる。だからこそ、ムチャなクエストであるほど、やるべきだと信じられた。どこまでも困っているヤツを救えるのは、オレたちみたいに自由でアタマのおかしい連中だけだ!」


 これこそが、自由だよ。


 自分の意志で、無限の困難に立ち向かえることを言うのだ。危険だって理解していても、ムチャだってわかっていても。どこまでも自由に、誰かのためのクエストを、自分のために成し遂げられる。


 あのときね。スゲー、『つながっている』気持ちになれるんだよ。自分と、依頼主と、世界そのものとか、時代とか……そういうのが、いっしょくたに感じられる。めちゃくちゃ、幸せ。それをするのが好きなんだよ。冒険者っていう生き方を選んだ連中は。


「命をかける価値が、冒険にはある。誰も知らない、遠い土地。道の果てから吹いてくる風が、どこからやってきたのか確かめたい。鳥を追いかけ、山を越えて。砂漠も、海も。まだまだ、冒険をしたいんだ」


「……レオン……っ」


 クレアが泣きそうだった。そりゃそうだ。こいつも、冒険者だから。


 だが、王さまはちょっと違っていたね。冒険者じゃないから。


「さ、酒臭いぞ。おい、レオンハルトよ、貴様、酔っているのか!?」


「酔っていますよ、夢に!!」


「これはビールのにおいだろうがあああ!?」


 そうだな。酒のせいかもしれん。じゃないと、語ったりしないよね。でも、本気だよ。アルコールのせいかもしれないけれど、素直な気持ちしか口に出来ていない。そうじゃないと、クレア・ハートリーはあんな顔をしないさ。


「レオンハルト、らちがあかん。王に、『わからせろ』! 我々を軽んじるなかれと! 冒険者ギルドを、力で復活させるのだ!」


「ど、どんな理屈だ、このテロリストども!? ひ、ひえ!?」


「何もせずにあきらめるなど、冒険者がすたるぜ」


「こ、この酔っ払いめ!」


「冒険者の遺族へ渡る金がしぶかったりとか、騎士団との共闘作戦に予算少なすぎたりとか、冒険者保険の金が高いとか……王さまには、いろいろと不満があるかもな!」


「王国経営も難しいんだぞ!? 魔王軍と戦いながら、政治をやるのは―――」


「―――何人もいたな。何十人も。何百人も。助けられたかもしれない、命が……」


「全員を、救えはしない!!」


 知っているよ。でも、ほんとうに。そうなのか? みんな、勇気が足りなかっただけじゃないか? もっと行動していれば……あいつも、こいつも。いろいろと、不満があるよ。理想的な状態からは、ずっと遠いからね。『我々を軽んじるなかれ』、シデンよ、マジでいい言葉だった。オレたち、生き残った者は、軽んじさせちゃいけないよね。


「この感情に対しての、適切な選択が何なのかは、オレにもわからん。だが。だが、今は……せめて、一発、殴らせてもらおう! 王さまあああああああ!」


「レオン!!」


 ああ。そうだ。久しぶりの感触だったよ。素早い踏み込み、冴えわたったロングソードの軌跡。初見であれば、見逃して、こっちの大剣を弾かれていたかもな。でも、やったぜ。受け止めたよ。クレアの突きに、三年前は反応できなかったのに。今は、完璧だ。


「私の、突きに、反応する!?」


「なまっているぜ、クレア」


「なん、だと!? お前に、こんな技術は……なかったのに!?」


「ハハハハ! いいか、クレア・ハートリー。冒険を奪われた私たちはヒマを持てあまし、冒険者同士によるケンカに決闘……いや、『模擬戦』を行い。『対人戦闘スキルを極限まで磨いている』のだ!」


 そのとおり。シデンの言葉は正しいよ。モンスターとの戦いから遠ざかって、ずっと対人戦闘の方ばかりが磨かれている。この三年間で、オレたちは、生粋の……バトルマシーンになった。



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