第一話 『魔王はいないが、立ち上がれ冒険者よ!冒険者ギルド滅亡の日!!』 その4/聖騎士と無職


「敵だ!! 魔王軍の残党かもしれない!! 兵士たちよ、城門の守りを固めよ!!」


 ……作戦はシンプルなものだ。「人は緊急事態ほどマニュアルに頼る。有効だからであり、検討し尽くされた正しい行いだからだ。それゆえに、逆手に取るべきだ」。ギルドの体育……ではなく、軍事の授業で、元・騎士団長のじいさんから教わったものだよ。


 算数は嫌いだったが、戦いについてのあらゆるコトを愛していた。勇者になるつもりだったからね。つまりは、軍事的な英雄ってコトだもん。


 有能な生徒さ。


 じいさんの言葉を、魔王軍のモンスターどもとの実戦で、痛みと共に学び尽くしていったからね。「体験に勝る授業はない」。先生、マジでその通りです。オレのようなアホでも経験値のおかげで、世渡りやれてます。まあ、今は無職だが……。


「兵士を整列させろ! 市民の避難準備を……冒険者ギルドに要請も出さなくては」


「い、いや。もう、いないんだ」


「そ、そうか。連中は、もう解体された」


「兵隊だけで、モンスターと戦うってわけですか!?」


「やむをえまい! ひるむな! 公務員のプライドを見せろ!」


「え、ええ……っ。モンスター退治の専門家じゃ、ないんだけどなあ……っ」


 困っている。ざまあみろ。冒険者ギルドをつぶすからこうなるんだ。


 町の城壁の外に現れた、オレたちの召喚獣に、兵隊たちの大半が集まっていく。いつものモンスター対策のとおりに、彼らは動いているんだよね。公務員だもん。ガイドラインは順守する。


 だから、オレたちに裏をかかれた。


 夜の闇にまぎれて、王城へと進む。もちろん警備は厳重なものだった。国王陛下をお守りしなくちゃならないから、人数も質もかなりのものさ。


 だからね。


 ちゃんと、知恵も使う。ああ、もちろん体力も。


「レオンハルト、やれ」


「ああ。任せておけ」


 ガキのころからの得意技がある。石だろうが、ボールだろうが、ロープだろうが。とにかく、モノを投げるの、めっちゃくちゃ得意。オレより遠くに投げられたヤツもいないし、オレほどの精度があったヤツもいない。「兄さん、すごいよ!」。弟にいちばんほめられた。反抗期が来る前まで、あいつは素直だった。


 とにかく。


 この特技のおかげで、フック付きロープを世界でいちばん上手に投げられる23才になったというわけさ。こいつはいい道具でね。城壁をよじ登るために、最適だった。


「行くぞ」


「ああ。さっさと登れ。お前にスカートの中をのぞかれたくないから、私は後だ」


「オレを何だと思っているのか」


 重たい装備のまま、二十メートル以上もある垂直の壁を登っていくのは、腕にこたえるが。まあ、もっとヒドイ目には千回あっているから余裕だった。経験値がちがうのさ。


 王城のなかに入る。


 盗賊みたいに、呼吸の音も、足音も消し去って。トラップ用の罠も、ちゃんと解除しつつな。冒険テイストたっぷりで、マジ最高。このひりつく緊張感。心拍数がワクワクしちゃってる! ああ、生きてるってカンジだよ……おっと。


「護衛がいる」


「倒そう」


 有能な冒険者だから、暗殺者みたいに影にまぎれながら獲物に接近できるよ。オレとシデンで、それぞれ緊張顔した兵士の背後に回りこむと、首を絞めにかかる。同時にだ!


「ぐえ……っ」


「む、ぐ……っ」


 魔法戦士サマのオレはもちろん、魔法使いであるシデンの細い腕でもコツをつかんでいれば余裕で絞め落とせる。先生から教わったからね。解剖学もやったんだ。オレたちは、ちょっとハードな教育を受けている。


 兵士の崩れ落ちそうなカラダは、音を立てないようにゆっくりと廊下に寝かせた。イタズラの準備と潜入クエストは、無音が第一だからな。


 ……ちょうど、その作業が終わるころ。


 聞いたコトのある声が聞こえたんだ。獲物だ。いや、国王陛下のお声だったよ。


「クレア、何をやっておるか! モンスターなど、お前が倒してまいれ!」


「は、はい!」


 聖騎士クレア・ハートリーの声も。


 こいつもいたか。そりゃそうだ。騎士団の団長補佐として、大出世しているから。育ちがいいとうらやましい。貴族の娘ってのは、やっぱりエリートになるのが定めか。


 ……「魔王を倒し、勇者になるの。私は、それが夢だから。家柄なんて、関係ない。魔王軍のせいで苦しんでいる民草を救いたいの!」。民草と呼ばれたとき、ビビったね。貴族って、マジでオレたちを悪気なくナチュラルに『下』に見ているんだなあって。


 マジメでいいヤツだったから、嫌いじゃないよ。美人だし、健気なんだ。黒髪ロングの清楚女子さんでね。オレのパーティーメンバーのなかで、いちばん最初に冒険者をやめたけれど。現実的な判断だった。


 だから、今は敵だ。恨むなよ。


「……陛下っ! お下がりください!」


「ぬ、ぬう! 魔王軍か!?」


「ちがいます。出てきなさい。レオンハルト・ブレイディ!」


「ぼ、冒険者か!?」


 ばれたから、出ていく。


「どうも、陛下。直訴に参りました」


「直訴、だと? まさか……この騒ぎを起こしたのは、貴様らか!?」


 シデンがオレのとなり出てきやがる。なんだか偉そうな態度でね。


「その通り。私と、レオンハルト・ブレイディで画策した。主犯は、レオンハルト・ブレイディだが」


「おま!?」


「陛下、彼らは、おそらく……」


「冒険者ギルド閉鎖の件で、ただしたいコトがあるぞ。王よ、私たち冒険者を不要だと言うのか?」



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