第一話 『魔王はいないが、立ち上がれ冒険者よ!冒険者ギルド滅亡の日!!』 その3/冒険者でいたい人たち


「……いいかい、シデン・ボニャスキー。それ、あの。テロって言うんだぜ?」


「て、テロリストっ!?」


「いいや。それは物事の一側面しか見ていない」


「一側面だけで十分にヤバいから。他の側面まで評価すると、もっとヒドイことになりそうなんだけど」


「王に主張せねばならん。我々を、放逐するのなら。つまり、冒険を取り上げて、金と名誉を寄越さないというのなら、喜んで王国の敵になると」


「も、もう悪役のセリフですうっ。冒険者タマシイはどうしたんですかっ!?」


 ああ。ほんとうに、ヒデーよ。冒険者ってのは、どっか乱暴者だったけれど。こじらせちまうと、こんなに社会不適合者どころかテロリストみたいになるのかよ……っ。


「『私は、まだ、冒険者でいたい』」


 …………ああ。


 マジで。困ったもんだよ、冒険者さんたちってね。今の言葉は、本当に効いた。心に、ガッツリと突き刺さってきやがるセリフだ。


「レオさん、止めないとっ。シデンさん、本気っす!」


「冒険は、いつでも本気でやるもんだぜ!」


「え、ええ……あ、あの、嫌な予感が……っ」


「そのクエスト、乗った」


「うえええええええええ!!?」


「オレも、まだ冒険者でいたい。王に、わからせよう! オレたちは、まだ、冒険がしたりないのだと!!」


「その通りだ!!」


「つ、通報しなくちゃ……っ。レベル30と、29の冒険者が攻撃を仕掛けたら、お、王さまだって殺しかねない……っ。私も、共謀罪とかで捕まって、屈強な兵隊たちに、エッチな拷問されるっす。美少女だからっ! 美少女エルフだからっ! 逃げて、通報だ!」


 シェルフィーは逃げ出すが、シデンは素早かった。


「逃がすか」


「ぐええっ。し、しびれて動けないっ。じゅ、呪縛の魔法っ」


「シェルフィー、しばらく静かにしていろ。縄で、縛るが…………なんか、エロイな」


「たーすーけーてーっ……むぐうっ!?」


 さるぐつわを噛ませて、縛り上げた。倉庫に放置する……いや。そうだな。


「むひゃあううう!?」


「セクハラはいかんぞ。我々は気高き『活動家』なんだ」


「ちがう。テロリストっぽいから『活動家』とか言うな。そもそも、エッチなコトじゃない。ほかのやつが、シェルフィーにイタズラしないように。『オレのだ』と書いておくだけだ」


「なるほど。いい安全策だ。貴様の所有物に手を出す者は、バカほどいない」


「だろ?」


「むうう! むううう!!」


「すぐに戻ってくるからなー。王城、すぐそこだし。ほろ酔い気分で、攻略してくるぜ!」


「むううううううううう!!?(や、やめてええ! このテロリストおおおお!!?)」


 心の声が聞こえた気がする。


 だが、もうアルコール入っているから、止まらない。ドラゴン以上の敵と殺し合うときには、みんな酒飲んでいくのが、ルクレート王国の冒険者の流儀ってもんだからね!


「シラフで―――」


「―――ドラゴンと殺し合いがやれるかよ!!」


 空を見上げた。


 思い出す。ガキのころ、見たアレだよ。


 オレたちの青春、大魔王ガイ・ジアスのモンスター召喚魔法陣。あれほどの大きさは、さすがに人間のオレにはムリではあるが……シデンがいるなら、ちょっとした『まね』がやれるんだよ。


「シデン、『戦略級召喚獣』の準備だ!」


「『囮』として使うか。悪くない」


 レベル30になってしまったオレと、29のシデン。合わせれば、なかなかの戦力だからな。『召喚魔法』を使った。こことはちがう異世界から、巨大なライオンを呼ぶんだよ。翼が生えていて、雷を四方八方にぶっ放すんだ。そのひとつひとつが、十分な殺傷能力をもっているのは言うまでもない。


 こっちはね、魔王軍と戦っていたのだから。


 ガチで、軍事レベルだよ!


『ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』


「呼べたな」


「当然だよ。ライバル同士が手を組んだんだぜ!」


 グータッチを試みる。そして、無視された。いつもの流れだね。こいつ馴れ合いを嫌うんだよ。それでも……。


「たまには、いいものだ」


「おう!」


「状況に応じる―――」


「―――それが、オレたち冒険者の柔軟性だからな」


 指南役だった先生の言葉が、オレたちを今でも支えてくれている。ああ、死んでないよ。隠居しているハズだぜ。ボケてるかもしれんが、ちょっとやそっとで死ぬようなじいさんじゃねえ。


 若い頃は、魔族と殴り合いまでして生き延びたような猛者だ。もちろん殴り勝ったらしいよ。そいつから槍を勝ち取ったとか……ああ、ほかには、嘘かまことか、吸血鬼の首に噛みついて倒してコトもあるとか言っていたぞ。さすがに、冗談だろう。


 だが、そういう冗談が、本当に聞こえちまうほどにはプロフェッショナル/知的な職業人だった。最高の騎士であり、最強の軍人。指導者としての才能まであったときた。オレたち有能な冒険者を、彼は山ほど作ってしまったわけだからね!


「さて。兵士が集まってくる前に」


「王城に行こう。先行する。戦闘は、可能な限り避けるぞ。ターゲットは」


「王ただひとり、だが……人質を取るのもいいかもしれん」


 ふむ。悪くはないが、凶悪だぜ。オレだけなら思いつかん策でも、こいつがいると思いつけるのは混成チームのいいところだな。


「まあ、そこらも」


「臨機応変に」


「作戦、開始だ!」



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